設定資料集/9:登場装備品紹介(その他編)

/その他


・破片手榴弾

 英語にすればハンド・グレネード。その名の通り手投げ式の榴弾で、投げ込まれた先で爆発し広範囲に被害を撒き散らす代物だ。引き抜き式のピンと起爆用信管の時限装置を押さえ込むレヴァーの二つを安全装置としている。ちなみに勘違いされやすいことだが、最終セイフティはあくまでレヴァーの方。物に寄りけりな所があるが、一般的にはレヴァーを抑えている限りは起爆せず、場合によってはピンを戻すことも可能だ。

 殺傷・非殺傷問わず多くの種類が存在する手榴弾であるが、最もポピュラーな殺傷用途の物は「破片手榴弾(フラグ・グレネード)」と呼ばれる物だろう。これは爆風による殺傷だけでなく、内部のプラスチック爆薬の爆発と同時に砕け散った弾殻(=手榴弾の外殻)でも殺傷するという物だ。その効果範囲は物によって差異はあるが、米軍のM67破片手榴弾を例に挙げるならば5メートル圏内で致命傷、そしておよそ15メートル圏内に破片が飛び散る、といった具合だ。


 作中で登場した物は、恐らくは前述の米軍正式採用品・M67破片手榴弾であると思われる。直径64ミリの球形をした400グラムの弾殻の中に、コンポジション-Bプラスチック爆薬が180グラム詰められている。安全ピンとレヴァーを取り外してから時限信管が作動し起爆するまでの時間は、およそ四秒から五秒ほど。その丸々とした格好から「アップル・グレネード」の名で親しまれているM67は、世界で最も一般的な破片手榴弾の一つと言えるだろう。





・チェーンソー

 その名の通り、チェーン状に編まれた鋸刃を発動機の力で高速回転させる強力なノコギリだ。動力源となる発動機には電動モーターや2ストロークの小振りな化石燃料エンジンなどがあるが、作中に登場した物はエンジン仕様の物と思われる。

 本来は山の中で木を切り倒したりだとかの土木作業に使う代物ではあるが、対人用の殺傷能力もすこぶる高い。


 作中では美代学園襲撃事件の際、和葉と合流したハリーを襲った全身重装備の大男が所持。たった一本のチェーンソーだけを以て、しかしハリーをギリギリの所まで追い詰めた。





・高級イタリア製風・防弾イタリアンスーツ

 見た目はアルマーニ辺りの高級スーツの、しかし内部に特殊な防弾加工を施した特別誂えのスーツだ。

 外見は黒を基調としつつ、ボタン二つでイタリアン・スタイル。ズボンの方はテーパード加工で、全体的にはスラッとしたスマートな印象を与える。しかしライニング(裏地)は炭化ケイ素のセラミック・ディスクにケブラー防弾化学繊維を組み合わせた特殊防弾仕様となっている。

 この強固な裏地によって5.56mm×45NATOの小口径・高速ライフル弾、フルメタル・ジャケット弾頭までは完全に防ぐ保証がある。それ以下の弾ならば決して貫通はしないが、しかし衝撃まで抑えきれるワケではないので、貫通しないというだけで着用者にはハンマーで思い切り殴られたみたいな激痛を与えてしまう。ちなみに7.62mm×51NATO辺りの大口径クラスになってくると、流石に貫通しないという保証は出来ないようだ。


 作中ではユーリ・ヴァレンタイン邸襲撃前、ハリーの為にミリィ・レイスがこれを用意する。特別仕様の防弾スーツを着用したハリーはこれに幾度となく窮地を救われ、結果として全てに決着を付けることとなった。ある意味で、最後の最後で一番の貢献をしたものは、この防弾スーツと言っても良いだろう。





・ジェネラル・ダイナミクス FIM-92スティンガー

 米国ジェネラル・ダイナミクス社にて、当時現役だったFIM-43"レッドアイ"の後継として開発された歩兵用の携帯式地対空ミサイル、それがこのFIM-92スティンガーだ。

 前任となるレッドアイ対空ミサイルは歩兵が気軽に携帯できる小型の地対空ミサイルとしては世界初ではあったが、IFF(敵味方識別装置)を搭載していない、ミサイルそのものの性能が酷すぎるなどの欠陥を抱えていた。ベトナム戦争時代を支えた優れた地対空ミサイルだったものの、しかしレッドアイ配備の二年後、1967年よりこのスティンガー・ミサイルの開発計画が進むこととなる。

 その後、1973年にはXFIM-92"レッドアイⅡ"の名で米陸軍に試験採用。その後数度の計画凍結と再開などの紆余曲折を経た末、遂に1973年にFIM-92A"スティンガー"として正式配備が開始された。ちなみに愛称の"スティンガー"というのは英語で毒針の意だ。空を飛ぶ敵機を突き刺す手痛い毒針、ということだろう。

 スティンガーのシステムは対空ミサイル本体が収納されている使い捨て式の発射筒、再利用が出来る発射装置、ミサイル弾頭先端部分にある誘導装置(シーカー)の冷却ガスとシステム稼働用のバッテリーが一体化した"BCU"と呼ばれるユニット、そしてケーブル接続のIFF(敵味方識別装置)のユニットの四つから成る構成だ。ミサイル自体は筒内部のブースターで10メートルほど射出された後に、空中でミサイル本体のロケット・モーターに点火する。BCUのシーカー冷却可能時間は最大四五秒。

 ミサイルの誘導方式は赤外線/紫外線誘導(初期のA型では赤外線のみだった)方式で、シーカーで敵機の発する熱源を捉えることでミサイル自体が勝手に誘導されていく。その為に発射後は特にこれといって射手が誘導操作を行う必要は無く、すぐにその場を離脱できる。このような機能は撃ちっ放し(ファイア・アンド・フォーゲット=撃ったら忘れろ)というもので、射手の生存性が高くなるなどの利点がある。

 このような優れた能力を持つスティンガー・ミサイルが最初に猛威を振るったのは1980年代、旧ソヴィエト連邦軍のアフガニスタン侵攻の際だ。アフガン侵攻の折、CIAなどを通じ非公式で米国からムジャヒディーンの聖戦士たちに供与されたスティンガーは、優れた能力で以てソヴィエト軍のハインド・ヘリコプターなどを多数撃墜。凄まじい高性能っぷりを見せつけたのだ。

 スティンガー・ミサイルは現在でも各国軍で現役運用されていて、歩兵携行型以外にも車両搭載型、攻撃ヘリや偵察ヘリに自衛用の空対空ミサイルとして搭載するなどの例もある。さらには至近距離の防空用で艦艇に搭載されている例も数多く存在する辺り、このスティンガーが如何に優れた対空ミサイルであるかが窺える。


 作中では終盤、クララ・ムラサメが空港近くの丘の上で使用。国外逃亡を図るユーリ・ヴァレンタインを乗せたプライベート・ジェット機を自らの手で撃墜することで、彼女自身の弟子に対する、そしてユーリ・ヴァレンタインに対するケジメとした。その後地面に投げ捨てられると、その場には空のスティンガー発射機と、そしてクララの棄てていった吸い殻だけがそこに残っていた……。

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