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「……む?」

 唐突に轟いた数発の銃声と、途端に騒ぎ出す屋敷の妙な雰囲気は、私室に籠もりっきりだったユーリ・ヴァレンタインの耳にも届いていた。

「ミスタ・ヴァレンタイン!!」

 ヴァレンタインが立ち上がった直後、無礼を承知でといった風に私室の扉を開けた護衛役の一人が血相を変えて部屋に飛び込んで来る。そんな彼にヴァレンタインが落ち着いた様子で「何事だ」と問うと、

「侵入者です。何者かが門の衛兵を射殺し、乗り込んできました」

「ハリー・ムラサメか……!」

 この屋敷に乗り込んでくる愚か者など、ヴァレンタインの頭にはただの一人しか思い浮かばない。そうすれば、ヴァレンタインは忌々しげにその男の名を呟き、唸った。

「屋敷の戦力を全て動員し、対処しろ。決して油断はするなと厳命しておけ、相手はあのハリー・ムラサメだ」

「……で、侵入者への対処は?」

「撃滅しろ」と、ヴァレンタイン。「確実に奴を殺せ。奴をこの屋敷から決して生きて返すな」

 苛立ち、自然と声を荒げていたヴァレンタインの手短な指示に護衛役の男は頷くと、最後に「失礼しました。ミスタ・ヴァレンタインも避難を」と最後に言って、そして慌ただしく彼の私室を後にしていく。

「私も出ようか?」

 そうして護衛役が出て行った直後、ジェーンが両の太腿に取り付けたサイ・ホルスターからレーザーサイト付きのグロック18Cマシーン・ピストルを抜きながら、ヴァレンタインに向かい艶っぽい口調で言った。

 しかし、ヴァレンタインはそんなジェーンに「いや」と首を横に振る。「それより、脱出の準備だ」

「脱出ぅ?」

 グロック18Cをホルスターに仕舞いながら、ほんの少し不満そうな顔でジェーンが訊き返す。

「"ワルキューレ・システム"が手に入った以上、もうこの国に用はない。どのみち、シカゴが恋しくなってきた頃だったからね」

「あら、ユーリったらもしかして、ホームシックにでも罹ったぁ?」

「かもね」抱き寄せたジェーンの髪を撫でながら、ヴァレンタインが頷く。

「とにかく、ハリー・ムラサメの処理は傭兵どもに任せるとしよう。我々は早めに此処を引き払う」

「じゃあ、あの小娘はどうするのよぉ」

「使うさ、まだ利用価値がある」

「使うぅ?」

 訊き返してくるジェーンに、ヴァレンタインは「ああ」と肯定してやって、

「ギリギリまで連れて行く。――――何、最悪の場合は、ハリー・ムラサメに対する盾代わりにはなってくれるだろうさ」

 そう言ってほくそ笑むヴァレンタインの頬に、ジェーンは軽く囀るようなキスをした。

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