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「酷いザマだね、ウォードッグ」
去って行くハリーたちを見送った後、旧校舎の傍に戻ったクララが見つけたのは、飛び散るガラス片と共に地面へうつ伏せに横たわるウォードッグの巨体だった。
ジャケットの背中に物凄い数の風穴を開けながら横たわるウォードッグの無様な姿を見下ろしながらクララは言って、その後で軽く上を見上げる。旧校舎の三階に窓が割れている箇所があるから、ウォードッグはそこから落ちたのだろう。下が丁度柔らかい土の敷かれた花壇になっていたのは幸運だったが、それにしてもこの高さから落ちてまだ息があるらしいウォードッグのタフさには驚嘆させられる。
「あァ……全くだ」
クララに呼びかけられれば、どうやら既に意識を取り戻していたらしいウォードッグはのそり、と重々しい動きで起き上がり。そしてボロボロの革ジャケットとTシャツを一旦脱ぐと、その下から分厚い防弾プレート・キャリアを取り出し。そしてそれをクララの方に見せつけながらこう言った。
「これが無けりゃァ、流石の俺もお陀仏だったぜ」
そう言うウォードッグが片腕で掲げるプレート・キャリアの背中側には、物凄い数のライフル弾頭が確かに突き刺さっていた。この量から察するに、きっと弾倉一つ分を丸ごと叩き込まれたのだろう。そんな量を喰らえば幾ら防弾プレート・キャリアを着けていても、例え貫通しなかったとしてもひとたまりも無いはずだ。
「噂以上にタフな男だよ、君って奴は」
しかし、ウォードッグは見ての通りピンピンしている。そんな彼のタフさを見せつけられれば流石のクララも舌を巻き、呆れたような、称えるような微妙な色の言葉でウォードッグに言ってやる。
「で、動けるかな?」
「あたぼうよ」Tシャツと革ジャケットを着直しながら、ウォードッグがクララの問いに力強く頷いた。
「なら、追おうか。彼女も、そして彼女の護衛も。まだまだ遠くへは行けないはずだ」
そんな回答を聞いたクララが続けて言えば、ウォードッグが隣で立ち上がりながら「逃げたのかァ?」と逆に問うてくる。それにクララは「うん」と肯定して、
「多分、君にこっぴどい仕打ちをした相手と同一人物の筈だ」
「だろうなァ……」
気を失う前のことを思い出しながら、ウォードッグが苦々しい顔で唸る。
実は、吹き飛ばされながらもウォードッグは一瞬だけ、奴の姿を見ていた。よくは覚えていないが、高そうなイタリアン・スーツを着たオールバック・ヘアの男だったはずだ。自分ほど背は高くないが、しかし175センチぐらいはあったはずだ。あの氷のように冷え切った眼の色だけは、よく覚えている。
「何者なんだろうなァ、あの男」
そういえば、あの男の眼の色はクララとよく似ているな、なんて風にウォードッグは思いつつ、ボリボリと後頭部を掻きながら呟いた。
すると、その横でクララはフッと笑う。小さく肩を竦めながら笑った小さな彼女は、ウォードッグの方を見上げないままで、彼の方に顔を向けないままで、こう言った。
「――――ハリー・ムラサメ、嘗て伝説だった男だよ」
何処か、遠い昔を懐かしむようにセンチメンタルな横顔で。
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