マン・ハンティング1 異世界でクラスメイトに復讐する

 復讐の一幕

 生き残った村人を一人、また一人、刺していく。

「や、やめてくれェ」

「なんでこんなことをするの」

 悲鳴が、助けを求める嘆願があちこちから聞こえてくる。

 逃げ惑う者、地にひれ伏して許しを乞う者、抵抗する者とその反応は千差万別だ。人には個性があるっていうけれど、こうするとよくわかるな。

 血の臭い、いや匂いが充満した空間にもう忌避感も嫌悪感も感じない。


 自分自身の血の臭いに比べればマシだ。


「さっきまで君たちが僕にしてたことだよね? 仲良く暮らしてた人間をケモノの餌に差しだしたくせして、命乞い?」

 あまりの身勝手さに吐き気がした。どんな脳みその色してるか、見てやろうか。

「君たちの脳みそは、何色?」

 手を合わせて命乞いをする村人の一人の頭をナイフで一突きにする。人を見るとその血管や神経、骨の薄い部分や内臓の位置などが病院のCTやMRIを見ているようにはっきりとわかる。

 これが僕のチート能力のうちの一つ。

 そのまま頭蓋骨の縫合線に沿って切開し、脳を覆う蜘網膜や軟膜を切り裂いて、脳みそを取り出した。

だけど、失敗だったことに気がつく。

「血まみれで良くわかんないな……」

 一応茶色っぽいのだけれど、毛細血管や硬膜下動脈が貼りついていて脳みその色が判別しにくい。というか血なまぐさくてさっきと別の意味で気持ち悪くなってくる。肉が嫌いになりそうだ。今度から菜食主義者になろうかな。

「この糞飢鬼が!」

 一矢報いようとする村人が斧を用いて襲いかかってくる。斧は刃の部分だけで僕の頭より巨大だ。森の大木を切るための道具なだけはある。

 だけど僕は、斧の巨大な刃の腹にナイフを持っていない方の手を添えて攻撃の軌道を反らす。僕の頭という目標を失った斧は虚しく空を切るのみだ。

 目標を失った巨大武器は鈍重な的でしかない。

 僕はガラ空きになった村人の右わき腹、肝臓の位置にナイフを深々と突き立てた。そいつは苦痛と絶望をいっぺんに味わった顔をしてその場に倒れる。


 つい数分前までの無力だった僕も、あんな顔をしていたのだろうか。


 同族嫌悪したのでさらに胸を突いて大胸筋や肋間筋の隙間にナイフを差しこんで胸部を解体する。その後、心臓を覆う心膜をはがして心臓に武器を差しこんでやった。

「い、いやあ!」

 仲間を見捨てて次々と逃げていく生き残りの村人に対し、僕はすぐに追いついてそいつらの足首を切断してやった。

 逃げる手段を失った人間は糸の切れた人形みたいにその場に倒れ込んでのたうちまわる。

 

 僕もついさっき、あんな感じでのたうちまわってたな。


 頭や胴体を刺すのも飽きてきた。

 流れる水は腐らずというし、人生には変化が必要だ。


 そこでそいつらの太股の大腿動脈を貫通してとどめを刺した。太股の筋肉である大腿四頭筋の中では内側が弱いので、内側から刺すとやりやすい。脚から鮮やかな色の血が噴水のように溢れだして、地面に血だまりを作るとすぐに彼ら彼女らは動かなくなる。

 最後に一人だけ村人が残っていたのでそいつの方へ一気に距離を詰める。剣道の踏み込みみたいに大きく強く踏み込んだので土の地面には僕の足形がくっきりと残った。

 同時に森に轟音が響く。

 その轟音に驚いたのか、更に踏み込んで村人にナイフをつき立てようとした僕の足元に一匹のリスが走り込んできた。このまま踏み込めばリスを踏みつぶしてしまうだろう、足元が真っ赤に染まった僕はふとそんなことを考えた。


「リスに罪はないな」

 僕は踏み込もうとした足を止め、代わりにリスを拾い上げる。ふさふさとした毛皮に小さくてかわいい顔。

 僕は血のついていない方の腕で、そいつの頭をゆっくりと撫であげる。

 リスは、キューキューと鳴き声を上げて僕の指にすり寄ってくる。ペットとして飼ったら癒されそうだけど僕は今ペットを飼う余裕はないので、リスを木の上に上げてやった。

 リスはしばらく僕を離れがたいように見つめていたが、僕が強めに手を振ると怯えたように森の中へ消えていった。


 その一連の出来事を村人は呆然とした顔で見つめている。

「なんで…… リスは殺さないのに、私たちは殺す……?」

 よくわからない質問をする奴だな。この世界にテストがあったらきっと点数が悪いに違いない。

「君たちは僕を殺そうとした。昨日まで仲良くして、精一杯村のために働いてた僕を裏切った。だから殺したんだよ。リスは僕を殺そうともしてないし、裏切ってもない。だから殺さなかった。それだけだ」

 そいつの眉間に深々とナイフを突き立ててやる。

 これで一人を除いて、この村人たちへの復讐は終わりだ。



 こうやって人を殺していくことに初めは嫌悪感しか感じなかったが、これら一連の作業を事務的に行なっていくうちに、すぐに手ごたえだけで人体のどの部位を刺したのかが感じ取れるようになってきた。

 その度にレベルが急上昇して、全身から力がみなぎってくるのを感じる。


 とっても邪悪で、とっても素晴らしいチート能力。復讐にはぴったりだな。


「ドルヒ、またレベルが上がったよ。これなら剱田や清美たちを殺せるかな」

 僕は僕の復讐を手伝ってくれている相棒、ドルヒに声をかけた。


『まだだ、まだ足りぬ、相棒。貴様は弱く奴らは強い』


 自覚はしてるけど…… 弱いってはっきり言われるのは腹立つな。


 まあ僕が弱いから、あんな目にあわされたわけだけど。僕が馬鹿だから、あいつらのことを見抜けなかったわけだけど。


『だから狩って狩って狩りまくれ。どのような鬼畜の所業であろうとも全て吾輩は受け入れる。だから相棒はそのままで良い』

 ドルヒにそう言ってもらえると、少し勇気が出てくる。

「勝てるかな」

 呟いた僕の台詞に、ドルヒは叱責することも激励することもなく淡々と言った。


『勝てる。だがそのためには普通のやり方では決して追いつくことは出来ぬ。相棒は凡人であ奴らは天才だ』


 その言葉は覆しようもない真実だとはっきり感じる。

 初めの彼らと僕のステータス差をまざまざと思い出し、悔しさと恐怖がわき上がる。

 自分が弱いって惨めな思いと共にはっきり自覚させられた時のあの気持ちがフラッシュバックする。

『そう落ち込むな、相棒』

 ドルヒが萌える声で呟いた。こんなドライな性格なのに声だけは萌えるのがすごいギャップだ。

『これから強くなればよい。吾輩の力をとことん利用せよ』

『ただし凡人が天才を殺すには外道になるしかない。情けなど一切かけるな』


 その言葉に勇気が湧いてくる。

 人間ではない、ドルヒの柄を握りしめる手に力がこもった。

 ありがとう。僕の味方はもう君だけだ。


 血化粧した自分の体を見ながら、僕は復讐することになった経過を思い出していた。

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