第56話 【付録】千葉孝允式いじめ分類法 Ver.1.427
まえがき
この付録は、作品内に出てくる「いじめ分類」の用語をまとめたものです。
読めば作品をより理解しやすくはなりますが、読まなくても物語がわからなくなることはありません。
今までの登場人物を分類法に当て嵌めた、キャラクター紹介らしきものもやっているのでネタバレ要素があります。本編を未読の方はご注意下さい。
本編の第三章はこの次から始まりますので、物語を読み進めたい方はそちらから読んでも何ら差し支えはありません。
■千葉孝允式いじめ分類法
この分類法は「すべての『いじめ』はいじめる側にも問題がある」という事を前提に分析したものです。
よく「いじめられる側に原因がある」とも言われますが、原因があったからといって、一方的にいじめていいわけではありません。原因があってもいじめに発展しない場合もありますから、やはりいじめる側にも問題があるのでしょう。
しかしながら『いじめっ子』を片っ端から排除したところで『いじめ』はなくなりません。
いじめを行わせる「環境」や「要因」を取り除かなくては根本的な解決にはならないはずです。
私個人の考えとして「いじめられる側にも問題が存在する」という事を否定するわけでもありません。一つ一つのいじめを解決していくためには両面からのアプローチが必要だと考えます。
ちなみにこの分類法は、作者個人が考えた分類・造語であり、本編に出てくる用語をまとめたものです。
一通りいじめに関する書籍は読みましたが、専門的に学んだことのない素人の分析であることをご了承ください。
心理学を学んだ方に読んでいただいた事がありますが「専門家によっても分類の仕方・名前が異なると思うけど、読者には解りやすい」と言われました。
こちらとしても論文を書くわけではないので、なるべく解りやすい喩えや文章で、いじめの表現ができればと考えております。
◆
「いじめ」においていじめる側は次の7つの項目に大きく分類される。
遊戯系、配下系、ストレス系、回避系、同調圧力系、嫉妬系、天然系だ。。
1.遊戯系は人を虐めることを玩具で遊ぶように考える。
2.配下系は強い者の下について命令を実行する。単純にいじめっ子リーダーの取り巻きでもある。
3.ストレス系は、ストレス過多な状態で自分より弱い者をターゲットとするもの。
4.回避系は自分が虐められないために他者を虐める。もしくは恐怖からいじめっ子に従うタイプともいえるだろう。
5.同調圧力系は、文字通り同調圧力によって起きるいじめ。現象でもあるとも言い換えられる。
6.嫉妬系は、他人が自分より恵まれていたり優れていることに対して恨みや嫉みを持ち、その者をいじめることで発散させるタイプ。ストレス系とは違い、相手は弱ければ誰でもいいわけではない。
7.天然系は、天真爛漫さがトラブルを生むタイプである。他人を攻撃しているという自覚がないのが特徴。
上記七つの分類は、そこからにさらに細かく分けることができる。
▽遊戯系:人を虐めることを心から楽しむタイプ。
1.欲望型:
直情的で自分の欲望を押し通すタイプ。他人の痛みをわかった上で虐める場合もある。サディズム(※1)傾向有り。
行動原理は「他者の支配」や「欲望を満たす遊び」こと。
2.非共感型:
計算高く、サブリーダーまたは影で操るタイプ。基本的に他人の痛みがわからないので、反応を見て楽しむ。本編主人公の千葉孝允はサイコパス(※2)という言葉を使って有里朱に説明した。
ただし、サイコパス自体の定義が曖昧な為、主人公は「他人の痛みがわからない」という意味で、この言葉を出している。
行動原理は「実験」と「快楽を追求する遊び」。
▽配下系:強い者の下について命令を実行する。
1.寄生型:
強い者の下につき、自分よりさらに弱い者を見つけて見下して虐めるタイプ。
もともとサディズム(※1)傾向有り。
行動原理は、強い者の庇護を得て弱い者をいじめる快感を得る。
2.忠誠型:
強い者に対して忠誠を誓い、その人の命令を忠実に守るタイプ。
上から「いじめっ子」という役柄を与えられたために増長し、自分を見失う場合もある。それは、スタンフォードの監獄実験(※3)でも証明されている。洗脳に近い状態ともいえるだろう。
行動原理は、上の者から認められたいという欲求。または強い者への憧れ。
▽ストレス系:
ストレス過多な状態で、自分より弱い者をターゲットにする。より強者が上に居るときに起きやすい。弱ければ誰でもいい。配下系とは違うが、回避系と重なる場合もある。
基本的に単独で行動。
1.侮蔑型:
自分より弱い者を求めて見下すタイプ。(直接手を出さなかったり、悪い噂を流したりと、計算高いタイプ)
もともとサディズム傾向有り。
行動原理は、ストレス発散と、弱い相手を見下して優越感に浸ること。
2.憂さ晴らし型:
上から受けたストレスにより、単純に自分より弱い相手を攻撃するタイプ(直情タイプであり、侮辱型と違って計算高くない)
無自覚な場合も多い。
行動原理は、ストレス発散と、制御できない感情の爆発。
▽同調圧力系:同調圧力によって起きるいじめ。
1.蔓延型:
集団内で自分たちだけのルールができてしまい。そのルールを守れない者を排斥しようとする。特徴としてリーダらしき者がいないこと。リーダーがいたとしても、そのリーダーにもルールが厳しく適用される。
無自覚及び洗脳に近い状態でもある。個々はそれぞれの考えで行動しているのだが、組織だった動きを行っているように見えてしまう、
村社会(※4)とは違い、個々の人間関係は希薄な場合が多い。なんとなく流されるタイプはこれに染まりやすい。
行動原理は、無いに等しい。ほぼ自動的。空気が読める人間ほど、このタイプになり得る可能性を持っている。
2.偽善者型:
同調圧力の庇護を得て、自分自身は良かれと思って説教やアドバイスするが、相手への配慮がまったくないタイプ。周りには気を遣うが、相手が傷つくことをまったく考えない。ただ、ひたすら自分の考えを正義と信じるタイプ。他人を排斥または制裁を加える。
蔓延型と違うのは、集団の中心人物であること。ただし、その者も同調圧力によって排斥される可能性も持っている。
無自覚な場合も多い。
行動原理は、同調圧力によって思考が誘導されて(もしくは自ら定めたものが狭い範囲内で受け入れられ)自らを正義と思い込む。
3.絆型:
蔓延型と正反対に仲間内での絆が強く。仲間以外の他者を受け入れない。グループを抜けようとする者に対しても強く反発する。
無自覚な場合が多く、優しさの裏返しなので厄介な部分もあり。
個々の人間関係が強く、いわゆる村社会(※3)がこれに当たる。
行動原理は、友情や愛情などの絆を大切にして、それ以外を敵と認識すること。
▽回避系:自分が虐められないために他者を虐める。もしくはいじめっ子に従う。
1.巻き込まれ型:
たまたまいじめっ子の近くにいたために巻き込まれるが、得意のコミュニケーション能力を利用していじめる側につくタイプ。
同調圧力とは違って、自らコントロールすることが出来る。つまりいじめの自覚はある。配下系寄生型と違い、いじめ自体を楽しんでいるわけでもない。
ただし、「いじめっ子」という役柄を演じることにより、自分を見失う場合もある。
例→スタンフォードの監獄実験(※3)
行動原理は、なによりも自分を優先する。
2.服従型:
いじめられっ子がいじめっ子に命令されてイジメを行うタイプ。
配下系忠誠型と決定的に違う点は仲間を持たないこと。上からの命令で一人で行動。服従を強制されている。自らのコントロールは不可。
加害者ではあるが同時に被害者でもある。「他人をいじめろ」という、いじめの一種でもある。
行動原理は、恐怖から他人の支配を受け入れてしまうこと。
▽嫉妬系:
他人が自分より恵まれていたり優れていることに対して恨みや嫉みを持ち、その者を虐めることで発散させる。ストレス系とは違って、ストレスの発散自体が目的ではない。
シャーデンフロイデ(※5)が関係している場合もあるが、その中でも積極的に行動を起こすタイプがこの系統に含まれる。
1.直接型:
暴力、罵倒、横奪、窃取等、いじめる者に対し積極的に関わるタイプ。
シャーデンフロイデから生まれたものが変質し、サディズム傾向に特化したもの。
行動原理は、嫉妬の暴発。
2.間接型:
無視、陰口、仲間はずれにする等、いじめる者に対し最小限の関わりしかもたない。ただし、その者が不幸になることを最優先に望む。シャーデンフロイデのもっとも顕著な表れ方。
行動原理の基本は、嫉妬で感情が縛られる。
▽天然系:
天真爛漫さがトラブルを生む。他人を攻撃しているという自覚がない。
1.無意識型:
他人の心が理解できにくいアスペルガータイプ。(場合によっては、いじめられっ子へとすぐに変化する)
素の言動が無自覚に相手を攻撃。仲間を持つ事は少ないが、何か才能があって崇められて取り巻きができると厄介であり、個々の争いがいじめへと変質することになる。
行動原理は、無垢であり無知であるがゆえの視野の狭さ。
2.感情型:
天真爛漫な性格で裏表がないぶん、感情的になりやすく、嫉妬や苛つきなどをすぐに他人にぶつける。このタイプはその中でも、自分より弱い者に対して行う。
本人はそれがなぜ悪いか理解できない。
行動は遊戯系欲望型に似ているが、すべて無自覚であり行動理念や内面構造がまったく違う。いじめに対しての快楽は得ていない。
個々の争いレベルならいじめではないが、立場が上であったり、庇護者がいてかつその者に権力がある場合には厄介。
行動原理は、純粋な欲望と感情の爆発。
以上。
これ以外にもタイプは存在するが、そのほとんどは上記のタイプを合わせた複合型と呼べるだろう。さらに、第三者から見ればいじめであるが、本人たちにはいじめとならない特殊型もある。これは個々の状況で変わってくるために除外した。
■物語「アリスの二重奏」の登場人物における分類(※多少のネタバレのものもあるので、本編を読んでいない方は注意してください)
・神崎葵:ストレス系憂さ晴らし型
第6話から登場。自分より弱いもの探してストレスを発散する。
・高木赤江、千駄堀芽生、栗ヶ沢結衣:配下系忠誠型
第3話で初登場。メインの話は第8話と第9話。
ボスである松戸美園の命令に忠実に従う配下。忠実すぎて自分を見失い、増長していた。
・馬橋三月、中根麗香、幸谷希良里:配下系忠誠型
第13話で登場。赤木たちと同じく松戸美園の命令に忠実に従う配下。
・松戸美園:遊戯系欲望型
もともと甘やかされて育ったため、女王気質を持ち、他人を見下す。
第13話で名前のみ登場。その後、第18話で主人公の間接的な仕返しを受ける。第18話にてようやく表舞台に登場した。
・岩瀬:配下系寄生型
第25話で登場。赤木たちとは違い、命令を受けながらも、もともといじめを楽しんで行うタイプ。権力やカリスマがあれば遊戯系欲望型となり得た存在。
・我孫子陽菜:同調圧力系偽善者型
第4話にて、ネット上の別名で登場。第35話で物語の中心に。
皆が一人を叩く同調圧力という快楽に毒された存在。自分こそ正義と思い込む。
・夏見玲奈:同調圧力系蔓延型
第38話で登場。クラスぐるみで有里朱をいじめる者の一人。
悪いことだと理解していても、それをとめることができない。
・宮本香織:同調圧力系蔓延型→回避系服従型(※複合型)
第39話で登場。
初めはクラスぐるみの有里朱いじめに間接的に参加。のちに松戸美園に弱みを握られて、直接的な行動に出る。
・佐倉巴:嫉妬系直接型
第47話で登場。
才能への嫉妬からシャーデンフロイデ(※5)を変質させ、友人二人に唆されていじめを実行する。
・臼井希良々、和田英美理:配下系寄生型
第47話で登場。
上記の佐倉巴を唆(そそのか)すことで、自分たちのサディズム(※1)を満足させる。寄生型の一つの特徴でもある、自ら寄生先を選ぶということが顕著に表れた者たち。上下関係をあまり気にしないゆえに、寄生先を自らの意志で乗り換えることができる。
・若葉かなめ:特殊系
第5話で名前だけ登場。メインの話は第16話以降。
厳密にはいじめではない。相手を庇うために、最小限の被害で済むように振る舞う。本人たち以外には理解されないだろう。
彼女なりの知略の一つともとれる。ただし、そのやり方が優れているとはいえない。
■脚注
(※1)サディズム
フランスの作家サドの名に因んだもので、加虐性欲とも呼ばれる。
相手を身体的に虐待を与えたり、精神的に苦痛を与えたりすることによって性的快感を味わうこと。
(※2)サイコパス
反社会的人格の一種を意味する心理学用語に
主な特徴は、極端な冷酷さ・無慈悲・エゴイズム・感情の欠如・結果至上主義であるが、医学的にサイコパスと同じ状態であっても反社会性がなければサイコパスとはならないと言われている。
(※3)スタンフォードの監獄実験
一九七一年、アメリカのスタンフォード大学心理学部で行われた実験。
アルバイトで雇われた学生がコイントスで看守役と囚人役に分かれ、それぞれの役割分担を演じるというもの。
リアリティを出すために、囚人役には不自由な生活をさせ、看守役には絶大な権限を与えた。
何日か経つと、看守役は何の理由もなく囚人役の虐待を始めたそうだ。その後、あまりにも酷い扱いに囚人役の離脱者が何人も出たという話らしい。
行きすぎた行為もあって実験は中止となるが、看守役は「話が違う」と続行を希望したという。
この結果から次のことがわかるだろう。
強い権力を与えられた人間と力を持たない人間を、狭い空間で常に一緒に居させる。すると、権力を持つ者は次第に理性の歯止めが利かなくなり、暴走してしまうということだ。
(※4)村社会
閉鎖された村や空間などでしきたりなどが定まり、それに従わない者を排斥しようとする社会。
(※5)シャーデンフロイデ
いわゆる「ざまあ!」。
自らが手を下さないで、他人が不幸になったり苦しんだりした時に生じる喜びや嬉しさなどの感情。
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