第46話 十七歳 1
エドと会えなくなって一年が過ぎたころに、エドとアネットが婚約したことを風の噂で聞いた。
エドとの約束は二年だったけど、待つまでもなくお別れが来たことを悟った。何故ならその噂が本当だと知らされた後も、エドからもアネットからも連絡がこなかったから。
そしてあと三か月もすれば約束の二年になる。
私は結婚適齢期の十七歳。いまだに婚約者も彼氏もいない。別にエドを待っているわけではない。だって彼にはもうアネットという婚約者もいるわけで、あの約束は破棄されたと思っているから。
それならどうして結婚適齢期になった私に婚約者も彼氏もいないのかというと、一つには仕事が忙しいから。そして二つ目は父であるジムのせいだ。ジムは娘に男が近付くのを許さないので彼氏ができるわけがない。ジムとベラの仲がどうなったかというと、もうじき私の妹か弟が生まれると言えばわかるだろう。なんだかんだいって本当に仲が良い夫婦だ。
マルは退学になることなくギルド養成学校の二年目を迎えた。あと一年で卒業だ。どこのギルドで働くのかはまだ決めていないようだ。
フリッツはギルド養成学校へは行かなかった。マルは残念そうだったけど、理由が理由なので諦めたようだ。ギルド養成学校へ行けば三年は寮暮らしになってしまう。マリーと離れることを嫌がったのと、マリーを三年も待たせることをよしとしなかったのだ。何しろ四歳も年下なので、早く一人前になりたいのだと思う。
「ギルド養成学校へ行かないのなら、将来はどうするつもりなの?」
いつまでもこの店で働いてほしいけど、そのあたりのことは考えているのかしらと思い尋ねた。
「マリーがいずれは店を持ちたいと言っているから、僕は料理人になりたいと思っている」
「料理人?」
「そう、今も少し手伝っているだろ。もっと料理のことを教えてほしい」
なるほど。最近フリッツがうどんの作り方を習っていたのはそのためだったのね。
私とサラの店は順調に売り上げを伸ばしている。最近の売りは丼ものだ。お米が定期的に手に入るようになったので、丼ものを売ることができるようになったのだ。親子丼と他人丼はかなり人気があって、冒険者はうどんと一緒に食べる人がいるくらいだ。
「じゃあ、明日からはビシビシと教えるからね。最近は南門の方の人たちも遠いのに食べに来てくれるようになったからすごく並ぶようになったでしょ? 店を大きくすることをマリーと話してたけど、フリッツとマリーが店を出してくれたら解決しそうよね」
私がニコニコと笑顔をフリッツに向けると、フリッツは焦ったように手を振っている。
「えっ、まだまだ先の話だから。うどんだってまだ全然作れていないのに無理だからね」
「大丈夫、大丈夫。すぐ作れるようになるから」
「す、すぐは無理だからね~」
フリッツが何か言ってるけど無視だ。早く一人前にならないとマリーの親が他の縁談を持ってくる可能性があるからフリッツには頑張ってもらわないと。
「あのさ、エドモンド様からは何の連絡もないの?」
フリッツが声を潜めて尋ねてくる。ジムに聞かれると厄介だと思ったのだろう。
「ないわよ。フリッツも知っているようにエドはアネットの婚約者になったのよ。もう会うこともないお人よ」
私は未練がるように見えないようにきっぱりと言い切った。もちろん小声で。ジムに聞かれるといろいろとうるさいからね。
「そっかぁ。良い人だったけど、身分が違いすぎるからな」
「一緒に店を出したのがおかしかったのよ」
「それにしても何も姉ちゃんと婚約しなくてもいいのに。なんかエドモンド様にはいろいろとがっかりさせられたよ」
「私とエドも家同士の婚約のようなものだったから、アネットと婚約したことは変じゃないわ。セネット家とルーカス家が婚約したようなものね」
みんなにエドから「二年待っていてくれ」と言われたことを話さなくてつくづく良かったと思う。
待つと言えばサラの幼馴染の男ロックもいまだに現れない。サラはロックのことは忘れあっと言ってたけど、私はまだ待っているのだと思う。置手紙に「待っていてほしい」と書かれていたと言っていたからだ。その手紙にはいつまでかは全く書かれていなかったみたいだから、サラはロックが現れるまでいつまでも待つことになってしまうかもしれない。
私はエドがどうしているか知っている。だからもう約束は気にしていない。それでも二年という言葉に縛られているかもしれないと思うことがある。
私はエドを待っていない。それは確かだ。だけど二年が過ぎるまではきっと彼氏を作ることはないだろう。
だからサラの気持ちがなんとなくわかってしまう。
サラのように「戻るまで待っていてほしい」なんて置手紙一つで置き去りにされた場合は、諦めがつかないのではないだろうか。
もしかしたらロックはもう亡くなっているかもしれないし、そうでなくとも他所で所帯を持っているかもしれない。待たせているほうは待っている人の気持ちなど考えていないのだ。
そう理解していても待ち続けてしまうのは、やっぱり彼を好きだからだろう。
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