第3話 『計画』(執筆者:市川 雄一郎)

 まったく十九歳に見えない色気を出すシェロにシオンは驚きを隠せずにいた。



 「全然……そんな風には見えなかった。」



 「あら……あなたは私のような十九歳を見たことないのかしら?」



 「__な……なななな……無いよっ!!今まで生きてきて見たことはないよっ!!」



 「ウフフフ、面白い子ね。」




 ◆◆◆◆その頃◆◆◆◆




 マキナはカルナと共にある町から外れた小さな工場へと到着した。工場に到着するとカルナは入口前で疲れからかスヤスヤと眠ってしまい、仕方なくマキナ1人で工場の奥へと移動したのである。



 「(くそ__シェロを捕らえ損ねた!! それにさっきのガキ……一体なんだったんだ……!?)」



 「__やあ、マキナさ~ん。今回はダメだったみたいだね~!! 大物竜騎兵がそんなものかい!?」



 「大きなお世話ですよ。ケイキさん。一体どこで見ていたのやら……ちょっと誤算があって失敗しただけですよ」



 マキナに話しかけてきたのは長年の親友であり剣豪として名高い【ケイキ・ガクトワ】である。背中には自分の身長より長い【名刀・クサナギ】を背負っている。そのケイキはマキナがシェロを捕らえるのを失敗したのをどうも知っていたようであった。



 「君が言い訳とは珍しいねえ。まあ……だからといって捕まえるのに失敗したわけだから君もまだまだだなぁ」



 「くっ__!!」



 不敵な笑みを浮かべるケイキとは対照的にマキナの表情は悔しさと怒りが交じっていた。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆




 一方、マキナがケイキに絶賛馬鹿にされてたころ、シオンはシェロの戦闘機に再び乗ろうとしていた。



 「あのー、シェロ。今からどこに行くの?」



 「今から? 決まってんじゃない!! 御飯よ御飯!!」



 シオンは突然御飯を食べに行くと言い出すシェロに対して困惑気味な表情で見つめるしかなかった。  

 しかし確かにお腹の音が鳴るので食べに行くことを決心したのであった。


 「__行こう、シェロ!!」


 「__オッケー!! シオン!!」


 二人は戦闘機に乗るとシェロはどこかに向かうのであった。


「ねえ、シオン?」


「どうしたの?シェロ……」


「あなた……もしかして……」


「もしかして……?」


「いや……何でもないわ。それより……」


「?」


 シェロは何か言いたげな様子ではあったが、一案し、それ以上は続けず話を変えてきた。


「あと30分くらいしたら目的地に着くからね!!」


「(30分・・・結構かかるなあ。)一体どこへ行くの?」


「辺境の都市……ルイドよ。」


「る……ルイド……?」


「この都市にはあまり人は住んでいないけど転生者と思われる人々が住んでる場所があるの。もしかしたらあなたのこれからのカギを握る人物がいるかもしれないわ。」


「(__カギを握る人物が…!?)」


 転生者の仲間がいると聞いて期待の気持ちが大きくなるシオンだったがいつの間にか期待のことより空から見る景色を眺め始める。


「(うわあ……村が小さく見える!!しかも海の上に鬼の形をした島もあるよっ!!)」


 村や島を眺めて空の旅を楽しむシオンだったが突如右の方を向くと火山が並ぶ山脈が見えた。


「うわあ……!! 大きな山脈だぁ!!」



 「__でしょう!! この山脈はレッドマウンテンズといって火山地帯の山脈なの。昔からこの山脈はこの世界の住民にとって神様のような存在・・・・・・・・なの」


神様のような・・・・・・・・?」


「この山は世界になにかが起こるときに一斉に大噴火するのよ。噴火したら世界に関わる重大なことが起きるとされているから神様のお告げとして昔から伝えられてきたの」


「…………?」



「この世界の神様はさっきも言った通りの存在だから誰も敬うどころか憎しみの対象でしかないの。だからこの山脈が神として崇められているのよ」



「この世界では神様の変わりにこの山が敬われてきたんだね!!」



 まだこの世界のことを詳しく知らないシオンだが神様が災いの元であるということ、その神様が引き連れてきたとされる転生者は嫌われていること、そして代わりにこの火山地帯が神として信仰されていること……これらのことは身に染みるように学んだのであった。しかし疑問もあった。



 「(なぜ神様が嫌われて火山地帯は敬われているんだろう。何かが起きるという意味ではどっちもどっちなんじゃないかなぁ……)」


 シオンのそんな小さな疑問はシェロの声によってかき消された。


「__シオン!! もうすぐ着くわよ!! 着陸するから私に捕まってて!!」


「う、うん!!」


 シオンはシェロの身体を掴むと戦闘機を着陸するために町へと向かうのである。


「__行くわよ!!」


 しかし戦闘機のスピードはまさに墜落するような速度で地面に近づいていく。シオンはこのまま地面に激突してしまうのではないかと不安になったが、着陸寸前の急な減速、無事町に着陸出来た。


「__(さ……さすがプロのパイロットなだけあるね。)」


 シオンはシェロのパイロットとしての腕前をこの身で実感した。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆


戦闘機が着陸した先は給油所であった。


「ごめんなシオン、御飯ってこいつの御飯なんだ。もうガソリンギリギリでさあ~!!」


「ドテッ!!」


 なんと御飯とは戦闘機のガソリン給油のことであった。芸人のように転ぶシオンだったがまあ仕方ないかという表情であった。すると給油所の経営者だろうか、まさにパイロットというようなおよそいの男性が小走りに近づいてきた。


「シェロ、いつもありがとうな。ちょっと戦闘機に破損らしき部分があったから一時間で直せるからすまないが待ってもらえないだろうか?」


「メルシー、オーナー!!じゃあ私達も食事にするよ。行こう、シオン!!」


「あ、はい!!(お腹すいていたんだ~(笑)。)」


 どうやらシェロと給油所の経営者は知人のようだ。

 そしてシオンとシェロは給油所の近くのレストランを見つけてそこで食事をすることにしたのであった。席に座ると二人は会話を始める。

 ……会話に夢中の二人はその様子をじっと見つめるウェイターの男性には勿論気がつかなかった。


「お疲れ様!! シオン!!」


「シェロこそお疲れ様。ところであの破損って……」


「うん。多分追いかけられていたときについたのかもしくは以前にか…」


「え? もしくは?」


「はっきり覚えてないの……」


「そうなんだ……シェロも大変、だったんだね」


「冒険家なのに空賊だとレッテルを貼られていつも追いかけられているからね」


 シオンはシェロの話を聞いて彼女の苦労を理解したのであった。すると話が弾む中、先程から二人を見つめていたウェイターの男性が料理を持ってきた。


「こちらがトラン風ケチャップであえたスパゲティー、そしてこちらがルイド風デミグラスソースをかけたハンバーグになります」



「ありがとうございます。私はスパゲティーだったわ」


「僕はハンバーグだ。しかし大きなサイズだからお腹が膨れるよ」


「ウフフフ!」


「アハハハ!」


 シオンとシェロは食事を楽しんでいた。しかしこのレストランだが怪しい影があった。ウェイターは控え室に戻るとメモ帳を取り出して何かを記していた。


「(あの二人がマキナの言っていたやつらか。大体特徴や性格は分かった!!)」




 ◆◆◆◆◆◆◆◆




 食事が終わると二人は給油所に移動すると戦闘機の傷は直っており、いよいよ出発できそうだ。


「やあ、シェロ!! 直ったよ。」


「__メルシー、オーナー!!気付かなかったから助かったよ!!」


「__こっちこそいつもひいきしてくれてありがとう。また何かあったら来てくれよな!!それとその坊主は見ない顔だが何者で?」


「(ギクッ!!)」


 __急に経営者の男性がシオンのことをシェロに聞いたのである。勿論転生者だとバレたら何を言われるか分からない…と思いきやシェロは経営者に説明したのである。



「あ、この子はシオンと言って十二歳だけど私のいとこなの。遠い場所に住んでいてなかなか会えなかったけど最近遊びに来てくれたからこうして一緒に行動しているの」



「ほぉ、いとこか。それは知らなかった。はじめましてシオン君、わしはシェロの昔からの親友【ジャル・ジャンボーニ】という。まあ、これからもよろしく頼むよ!!」



 シオンがシェロのいとこだと信じた経営者の男性はシオンに握手を求めると彼はそれに応じたのであった。


「僕はシオンといいます! えっと、よろしくお願いします!!」


「じゃあ行くよシオン!!」


「うん!!」


 シオン達はジャンボーニの給油所を後にして再び空の旅へと向かう。上空から見る景色はやはり良いものだがシオンにはある不安があった。


「あのさ、シェロ」


「どうしたのシオン?」


「うん、こうして上空を移動するのは良いけど竜騎兵とかに襲われたりしないか心配で…」


「どうかしら? 私もいつも不安は有るけどそんなこと言ってられないよ。何かあったら戦うか逃げるしかないんだし、その時はその時よ」


「(たくましい人だ…)」


 シオンは何かあれば戦う意思を見せたシェロに対して少し尊敬の念を抱いたのであった。


「あとシオン?」


「え?」


「あなたは顔を見たら分かるけど転生者だということを抜きにしても何かを持っているように見えるわね。」


「僕が? どうして?」



「どうしてって言われても……とにかくっ、何かさっき見せてくれた以上の力を秘めているのが分かるわよ!」



 シオンの素質について語るシェロは彼の素質をどこから見出だしたのかシオンは分からなかったのであった。するとシェロは下を見ると指を差してシオンに声をかけたのである。


「あそこ、あそこがルイドの隣の村よ。」


「え? ルイドはどこに・・・?」


「ルイドは特殊な場所にあるから戦闘機やその他の航空機系では行けないわよ。ましてや土地も山とか崖とかに囲まれてて車でも電車でも行けない。まさに秘境……じゃなかった辺境よ。」


「本当に辺境なんだね。」


 ついにシオン達は辺境の村・ルイドに近付いたのである。しかしルイドにはそう簡単に行けないようなので戦闘機を隣の村に着陸させて村で情報集めをすることになった。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆




 二人が着いたのはトランという辺境の村である。辺境ではあるが木や自然が栄えていて木造の家が並んでいる空気の綺麗な村であった。露店もならび老若男女問わず人が集まっている。



「ここはトランという村よ。私がさっき食べたスパゲティーのケチャップはここのトランで採れるトマトを使ったケチャップなのよ。この村は辺境にも関わらず自然が栄えていていい場所よ。ここからルイドへ行く方法があるみたいだけど私もそこまでは情報不足だったわ。ごめんなさい。」



「いやいや、謝らなくていいよ。とりあえず一緒にルイドへ行く方法を聞いて回ろ……!?」



 シオンが聞いて回ろうと言おうとした瞬間シェロの顔つきが険しくなったのである。



「__シオン!!聞いちゃダメよ!!さっきも言ったでしょう!?転生者の話をしたらあなたが大変なことになる・・・・・・・・・・・・の。しかもルイドは転生者が少し集まっているだけにトランの村の人々はルイドを嫌っているのよ!! ぜーったい聞いちゃダメっ!! ひっそり探さなくちゃいけないわよ!!」


「そ……そうだった。ごめんなさい!」


「だから、ルイドへはしっかり計画・・を立てて行きましょう!!」


「はい!!」


 シオンとシェロはルイドへ行くための計画を立てるのであった。まずはその前に村の中を二人で下見したのである。しかしトランの村に入ってもルイドへ行けるような抜け道などは見つからなかったのだ。


「シェロ……本当は他の村からじゃないの?」


「……いや、ここからしかルイドへ行ける方法はないわ。よく探してみましょう!!」


その時シオンは閃いたのである。


「シェロ……子供なら、行けると思う」


「え?」


「だって子供ならよく遊ぶから怪しい場所を知っているかもしれないしそもそも転生者のことやルイドのことはそんなに詳しくないはずだと思うから……」


「……それは良いわね。そうしましょう!」


 シオンの発案から子供に聞くという作戦が計画されてすぐに計画は実行された。そして二人は親が同伴してなさそうな子供をターゲットに村内を回るのであった。シオンはまず公園にいた男の子二人を見つけたので質問することにしたのである。


「あ、君達!!」


「わっ!! 誰!?」


「大丈夫、僕は怪しい人じゃないよ。ただの旅人!」


 さすがにシオンに声を掛けられた子供達は警戒をしたので彼は自分は怪しくないと強調して子供達を少し安心させたのであった。


「君達に聞きたいんだけどここから隣の村へ行く道ってあるかな?」


「え? 俺は知らないよ。ユータは知ってる?」


「僕も知らないよ。あ、でもそういえば別の子が村をうろうろしていたら変な地下道に迷い込んだことがあると聞いたことがあるよ。」


「……変な地下道!? 多分それだよ!! ありがとう!!」


 シオンは子供から有力な情報を得るとすぐさま走り出したのである。子供達はそのシオンの姿を見てキョトンとしていたのであった。


「ねえ、コージ?何だったのかなあの人?」


「さあな。俺にも分かんねえ!!」


 しかしそのあとからシオンは有力な情報を得られずにいた。一方のシェロも子供を限定に情報を集めるが何ら情報はなく二人とも途方に暮れたのであった。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆



 しかし数時間経ったころ、シオンは村の集会所らしき建物の前にいたある男の子に声を掛けたのである。


「ねえ、君!! 突然ごめんね。あのね、お兄ちゃんは隣の村へ行きたいんだけど行く方法って知ってるかな?」


 すると……


「隣の村へ行くかどうかは分からないけど妹が変な扉を見つけたって言ってた」


「変な扉?」


「__そうだよ。その話をお母さんにしたら妹のやつすごく怒られたの。『その扉のことは早く忘れなさい』ってね。」


「(……その扉のことは忘れなさいか。)」


 シオンはその扉がルイドへ行く道と確信したのである。そして男の子に扉の場所を聞き出そうとするとなんと母親が現れたのである。


「こら、ショーン。知らない人に話しかけちゃダメでしょ!!」


「だってお母さん……この人隣の村に行きたいって……」



 「(あ……うわあ!!?言っちゃったよこの子!!)」


 なんとシオンが隣の村に行きたいことを男の子は母親に言ってしまったのである。すると母親の目付きが鋭くなり口調もドスを利かせてはシオンを睨み付けたのである。


「あなた……息子に何を聞いているのかしら……」



 「あ……あ……あわわ……あ!

  えっと、本当はお母様、僕の母親が転生者に殺されて隣の村に逃げたと聞いたんです。だからどうしても復讐してやりたい気持ちが! そう! 復讐したいんです!!」


 シオンはとっさにごまかしたが信じてもらえないだろうなと思ったのである。しかし母親の目付きは落ち着いた感じになり口調も優しくなったのである。


「それなら私が教えるわ。村の奥に酒場があってそこの横にはしごがあるの。そこを下りたら扉があるから入って地下道を進むと隣の村に辿り着けるわよ。」


「あ……ありがとうございます!! これで母親の仇を討ちにいけます!!」


 シオンは何度も何度も母親に頭をさげたのであった。親子が去るとすぐにシェロがやって来たのである。


「シオン!! 情報を得られなかったわ。」


「シェロ……大丈夫!! さっきね、お母さんから教えてもらった! 村の奥に酒場があってそこの横に下りるはしごがあってそこを下りたら地下道に行ける扉があるんだって!!」


「よくやったね!! シオン、偉いっ!」


「うん!!」


 計画作戦は無事完了し、これでルイドに一歩近付いたのだ。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆




 そしてシオンはその扉を開けようとするが開かないのである。


「あれ……開かない?」


「鍵でもかけているのかしら。」


「しかし以前に子供が……ってあれ?」


 シオンは足もとを見ると鍵が落ちていたのである。そして鍵を拾うとそれを鍵穴に入れた。


「まさかこれが鍵だったとかいう展開なんてあるはずが……って開いた!?」


なんと鍵が開いたのである。


「偶然すぎるでしょ……」


 シオンはそう思いながら扉を開けると地下通路になっていたのである。


「少し暗いね」


「ええ。でも細長い地下通路だから迷わずに済むわ」


「あ、出口が見えた!!」


 少し歩くと光が見えてきたので先に進むと外に出たのである。そこは周りが崖に囲まれていて鉄筋のプレハブ小屋みたいな建物が並んでいた。


「シェロ…ここが…」


「ええ。ルイドの村よ。あなたの仲間がいるはずよ」


 __シオン達はついにルイドに到着したのである。この村に同じ転生者の集団がいる…そう思うとシオンは仲間が近くにいるという気持ちからか少し安堵したのである。

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