第3話 無銭乗車、田舎、キャベツ

駅を降りるとき何度か無銭乗車を経験している正も、やはりドキドキした。だがその心配は無用だった。駅は無人駅で駅員もいなければ、改札口の切符を通す機械もない。正は切符入れに10円だけを入れた。これからどうしよう。もう家には帰れない。正しはとりあえず歩いた。だが季節は冬である。寒い。どこか寒さがしのげる場所はないかと、うろちょろしていると、いまにもつぶれそうな、いや、つぶれている旅館を見つけた。人がいないのはわかっていたが、正は念のため(すいません)と言いながら入って行く。もし人がいれば事情を話して食事と一夜の宿をねだろう。このころには正も、少し大胆になっていた。だが幸か不幸か、誰もいないらしい。どうやらつぶれた旅館らしい。まだつぶれて間もないのか、そんなに汚れていない。トイレで小便をすませた。驚いた事に水は出た。これで体はふけると安心すると、とたんに眠くなった。客室を見て歩いたが当然何もない。布団か毛布がなければ、凍えて死んでしまう。二階にいってみた。客室の一番左の部屋で、布団一式を見つけた。まだ俺にも運が残ってるらしい。正しはそう思いながら、布団にねそべった。すぐにうとうととし始める。外では犬が遠吠えをしている。うるせーな、と思いながらも、正は眠りについた。朝の光が正をおこした。いま何時だ。知りたくても時計がない。正は顔を洗って服で顔をふく。鏡はないから顔は見れない。きっとひどい顔してるんだろうな。背中が痒い。ダニか何かに食われたのか、まあいいや。それより腹へったな。何か食いもんあるかな。正は旅館を隅々見て回ったが何もない。(くそっ)外で探すか。周りに人がいないのを確認して旅館を出た。外は見渡す限り田んぼしかない。後は自動販売機がポツポツあり、ちょくちょく民間があって農作業している人が、少しいるくらいだ。だいぶ田舎にきたな。正は、食べ物を求めて一時間ほど歩いた。迷子にならないように情報が少ない田舎道でも、曲がり角はしっかり覚えておく。寝る所は旅館と決めていたからだ。遠くに旗が見えた。なんだろうとゆっくり近づくと、無人直売所の文字が見えてきた。正は少し興奮した。食べ物が手に入るかも知れない。周りに人は、、、、、よしいない。正は急ぎ足で近づき、ざっと置いてあるものに目を走らせる。人参、玉ねぎ、キャベツの三種類が置いてあった。正はキャベツだけを一つ取り、急いでその場から離れた。帰りは大変だった。民家を通る時は小走りで、人がいるときはキャベツを相手とは反対の脇に抱えて、なにくわぬ顔で通り過ぎていった。今では誰も住んでない旅館に着くと、正はキャベツを貪り食った。マヨネーズも塩もなかった。半分程食べると少し落ち着いた。落ち着いたはいいが、同時に涙が出てきた。(くそったれが)誰に文句をいうわけでもなく正はその言葉を連呼しながら、キャベツを親のかたきのように食べた。キャベツを7割ほど食べた正は、布団にくるまった。今度はどうやって死のうか、考えながら眠った。

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