節分

【季節ネタ】節分ネタ①(この世界の節分)


 節分せつぶん

 各季節の始まりの日(立春・立夏・立秋・立冬)の前日のことにして、「季節を分ける」ことも意味しているものである――……


 そのような説明が、あったような無かったような。

 けれど、大きなイベントではないけれど、悪しきモノを近付けさせないという目的からなのか、一部の地方では行われているらしい。

 しかも、『季節を分ける』と言っているのに、この時期だけに名が残ったため、節分=この時期となってしまっている。


「……」


 さて、『節分』である。

 ハロウィンの時にも思ったことだが、これを教えた人物に関しては本当、魂含め、この世界の人間では無いのだろう。

 何故なにゆえ『節分』という異世界での行事をこちらに広めてしまった、広がってしまったのかは分からないが、ハロウィンですら行われてしまった世界である。今更キソラ一人が何か言ったところで、簡単に覆るはずもない。

 ちなみに、こちらの節分でも豆は投げるらしい。


「バリバリ、元の世界あっちの影響だな」


 キソラの隣では、幼馴染のアキトが遠い目をしながら、そう告げる。


「持ち込むのがいけないって訳じゃないけど、世界観を考えてほしいものだよ」

「世界観もそうだが、そもそも持ち込むのは東方の国々にしておけってんだ」


 あちらでは、一部の地域で鬼が悪しきモノとして捉えられており、それを祓う目的もあるらしい。

 もしかしたら、名前は違えど似たような行事はあるのかもしれないが、現状あちらまで行く予定が無い以上、特に調べたりすることもない。


「そういえば、これ食べて良いんだっけ?」

「良いんじゃないか? 無駄にならないし、お前なら何かあっても何とかなるだろ?」


 能力を知っているが故に、信頼しての発言なのか、本気でそう思っているのか。

 キソラとしては前者であることを祈りたいが、後者である可能性もあって、隣の幼馴染に思わず半目を向けてしまう。


「……でもまあ、さすがにヤバイものは入ってないだろ」


 いくら悪霊退散等の目的があるとはいえ、余ったら勿体無いので、食べられるように、食べてもいいようにしてあるはずだ。


「食用の豆が使われていれば、ね」

「食べる・食べないの話をしているときに、そんな不安要素をぶっ込んでくるの、止めてくれませんかね!? キソラさん!」


 何で一番の不安要素を今言うんだと、アキトが叫ぶようにして言う。


「あっはははっ! でもまあ、大丈夫だと思うよ。子供が間違って口に入れても大丈夫なもののはずだろうから、食用の豆なことには変わりないだろうし」


 そう言いつつ、物は試しとばかりに一粒手に取り、口に放り込むキソラ。


「ほらね。何ともない」

「遅効性も考えろ。遅効性も」


 即効性や速効性の可能性が無いわけでもないが、遅効性という可能性が無いわけでもない。

 その点についても、キソラは分かっていないわけではないので、アキトに視線を向ける。


「それじゃ、後になって何らかの変化が出てきたら、フォローしてくれる? 私だって万能じゃないしさ」


 空間魔法とて万能ではないので、当然術者であるキソラでさえ対応できないことは出てくる。

 そのための言葉だったのだが――……


「そうだな。完璧とはいかなくとも、出来る限りのフォローはしてやるし、もし万が一でも死ぬようなことがあれば、俺も一緒に行ってやるつもりだ」

「……」

「一人にするつもりは無いし、この先もとことん付き合うつもりだ」


 顔色一つ変えることなく、そう言ってのけたアキトに対し、キソラの顔色は少しずつ赤みが増えていく。


「って、どうした?」

「……よくもまあ、そんなことを平然と言ってくれる……」


 赤くなった顔を隠すかのように、手で顔を覆うキソラ。

 もしこれが他の人に向けられたり、他の人を思っての発言なら、まだからかえたりしたんだろうが、言われているのは自分である。恥ずかしくならないわけがない。


「……」


 そして、アキトの方も自分が今言ったことを脳内で反芻したのか、じわじわと恥ずかしさが出てきたらしい。


「いや、変な意味じゃないからな!?」

「分かってるよ」


 アキトの慌てぶりを見て、少し落ち着いてきたのか、キソラは笑みを浮かべてそう返す。


(だって、文句を言ったりしても、見捨てることだけはしなかったこと、知ってるから)


 だからこそ、アキトが冗談なんかで言ったことではないことぐらい、キソラも知っている。


「アキトは何だかんだ言うこともあるけど、裏切ったり、見捨てたりするようなことをしてこなかったことは知ってるからね。だから、『一人にしない』『この先も一緒』って言葉は信頼できる」

「……おう」


 改めて言われると、少しばかり恥ずかしさが出てくるが、キソラが本気でそう思っていることぐらい、付き合いの長いアキトが分からないはずがない。


「ふふっ」

「何だよ」


 彼女らしいというか、らしくないというか、どこか嬉しそうな笑みに、アキトは思わず聞いてしまう。


「幸せだなぁ、って思っただけだよ」

「そうか」


 まだ全てが終わったわけではないけれど、慌ただしい日々の中で、こういうのんびりとした空気が必要なときもあって。

 それが今だと言うのなら、もう少しだけ付き合ってみてもいいのかもしれない。


 ――『その時』が来るまで。

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