それはまるで台風のような 2
親父の電話から少し経って優姫さんがリビングに戻ってきた。
……暑くなってきて涼しい服がいいのはわかるのだが露出が多すぎやしませんかね? いつものものより明らかに布面積が小さい。
「お風呂どうぞ」
「その前にちょっとお話が」
「何?」
優姫さんはキッチンに足を運びながら訊いてくる。
話すのは他でもない親父のことだ。
「僕のおや……父さんが明日こっちに来るみたいで、それで優姫さんに会えないかって聞かれたんですけど……どうしますか?」
「お義父さま? ぜひ会ってみたい!」
今、何か違和感があった気がするがスルーしよう。うん。
「わかりました。父さんに伝えてきます」
携帯を持って廊下に向かおうとソファから立ち上がる。
忘れないうちに報告だ。こういうのは早いほうがいい。
「私も話してみたいんだけど、お義父さまと」
「そう、ですか。じゃあここでいいか」
ソファに座り直して電話帳から親父の番号を呼び出す。
『どうした? 何か言い忘れたのか?』
「違うよ。優姫さんの了承が取れたって報告」
『おお、そうか。じゃあ明日の……昼過ぎに行くわ』
「了解。それと……」
優姫さんに手招きして隣に来てもらう。
「優姫さんが一度話したいって」
『おお? わかった、代わってくれ』
優姫さんに携帯を渡し、僕は聞き耳を立てる。
正直親父が何か変なことを言わないか不安だ。特に昔のことなんかを言われると困る。
「もしもし代わりました、香川優姫です」
『君が優姫さんか。どうも、遼の父です。遼がいつもお世話になっています』
「いえいえ、私のほうが遼くんに迷惑かけてばかりですよ」
『そうか。仲良くやっているみたいでよかったよ』
「仲はいいですね、誰よりも」
自分の親みたいな会話が少し恥ずかしい。片方は本当に親だけど。
しかしいつもはあんなに軽い親父が丁寧に話していると変だ。
「それでひとつ確認したいことがあるんですが……」
『ん? なんだい?』
優姫さんがちらりと一瞬僕の顔を覗いて、すぐに目を逸らした。
聞いてろってことなのか?
「私と遼くんが付き合うことに反対しないんですか?」
『しないよ。遼の人生に口出しする気はない。まあ警察のお世話になるようなことはさせないけどね』
「そう、ですか……」
『ああ、言い方が悪かったね。――僕は遼を信じてるんだ』
信じてくれてたのか。単に放任主義なのかと思っていたんだけど。
『僕はね、遼の未来の可能性を信じてるんだ。それは僕が簡単に潰していいものではないからね』
「だから私との同棲も認めたってことですか?」
「同居ですって」
『遼が珍しく自分から許可も取らずに動いたからね。あの遼が同棲するなんて面白そうって気もあったけどね』
二人ともスルーですか……。
「実際遼くんとの毎日は楽しいですし面白いですよ」
『それはよかった。それを聞けて安心したよ』
よくない。二人して僕を面白いもの扱いして、面白くない。
『じゃあ詳しいことは明日。遼にも言ったけど昼過ぎにお邪魔するよ』
「はい、わかりました」
『それと最後にひとつ』
親父はそこで言葉を切って間をあけた。
僕と優姫さんは動かずに次の言葉を待つ。
『二人とも学生なんだから羽目を外し過ぎるなよ?』
「お義父さま!?」「親父!?」
同時に叫んだ時には通話は切られていた。
気まずくなって互いに目を合わせられない。……親父、なんて余計な置き土産を。
「お風呂入ってきますね」
「う、うん」
戦略的撤退だ。僕は逃げるようにお風呂場へ向かった。
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