解決方法は結構ある 3

 わらわらと教室を出ていくクラスメイト達。

 すでに日は傾き、落ちかかっている。

 しかし僕は足を動かせなかった。昼に達也に言われた言葉が耳の奥にこびりついて離れなかったからだ。


 大事なら甘やかしすぎてはいけない。優しくするだけではいけない。


 時間をかけるごとに変換されていく言葉。でも意味は同じだ。何度思い出したところで同じように心を抉る。


「はぁ……」


 ため息を吐きながら椅子に座る。

 こんな状態で帰っても優姫さんと気まずくなるだけだ。


 その時教室のドアが音を立てて開いた。


「よかった、島村くん居た」


 藤崎先輩だった。すでに大半の生徒が帰った後だからよかったけど……。


「どうしたんですか?」

「どうもこうもないよ。優姫と君の問題のこと」


 藤崎先輩が僕の前の席に座って椅子だけをこちらに向ける。


「優姫からいろいろ聞いてきたよ」

「それでまたアドバイスに?」

「そう、恋愛情緒が二人とも中学生だからね」


 酷い言われようだ。


「まず一つ目。君たちは世界を閉じ込めている」

「世界を、閉じ込めて?」

「二人とも同じ考え方なんだ。『君さえいればいい』ってこと」

「確かに……」


 確かに優姫さんさえ幸せならいいと思っている。

 そのためにはどんなことでもしようと思っている。


「二つ目。互いに依存している」

「それは……」

「二人とも異常なまでにお互いを必要としている。その部分だけで言えば夫婦以上の関係だと思う」

「好き合ってれば普通じゃ――」

「普通じゃない。互いに求めあうことはあっても依存するほどじゃない」


 ことごとく僕の普通が壊されていく。


「君たちが普通になりたいかどうかは別としても君たちの関係は病的だ」

「病的……」

「しかもそれだけ求めあっているのにまだと。どこで欲求を解消しているんだか……」


 さすがに藤崎先輩も吸血鬼だってことは知らないか。


「僕も優姫さんもそこまで我慢できないわけじゃないですよ」

「本当に?」

「はい」

「じゃあ屋上階段で何をやっていたのかな?」

「っ!」

「当たりだね」


 ポーカーフェイスが崩れていく……。

 藤崎先輩、手強い。


「何をやっていたかを聞く気はないけどね。でも何かしらしてたんでしょ?」


 僕は答えない。沈黙は肯定だ。


「不貞腐れないで、誰にも言ってないから」

「当たり前です!」

「まあ、それよりも要は軽い関係があったわけだね?」

「そうですけど……」

「じゃあ最後のアドバイス」


 そう言うと藤崎先輩は立ち上がって椅子を元に戻した。


「女の子の欲求を軽く見ちゃいけないよ?」


 そして逃げるように教室を出ていった。


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