竜の巫女と光剣使いの剣聖譚
ベル
プロローグ 「誓いと決意」
赤く、赤く、紅いあの灼熱の炎の夜を俺は忘れない。
いや、違う。忘れてはならないのだ...
周囲は炎に焼かれ、木々や建物が倒れて、人が灰に変わっていく。
憎悪に満ちた声が聞こえる。
激昂し狂気に染まった顔が見える。
見覚えのある顔が転がっている....
叫び、祈り、また叫び、泣いて、鳴いて、泣いて、消えて。
一人、また一人殺されて、視界が血の色に染まってゆく。
アイルは意識を失った妹のアリーを抱え、村の外へ逃げようとするが、足がおぼつかず小石に躓き、地面に転がってしまう。
「死ねぇぇぇ!!!」
背後からアイルを追って片手に長剣を持った覆面男が剣を振り下し、アイルの首を断ち切ろうとする。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
死にたくない!死にたくない!死にたいない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!死にたくない!
アイルの首に刃が触れようとするその刹那、視界に光が横切った。
「ほぁ?」
覆面男から間抜けで、疑問を孕んだ一言が出てくる。
ドフッ。っと顔のそばで鈍い音がなり、見てみると覆面男の腕が地面に転がっている。
そこには煌めく光の剣を片手に構えた銀髪の青年が立っていた。青年は沢山の返り血を浴びたのか、服は赤く染まっている。
「ぐぇぁぁあ!!!!」
覆面の男は悶え、腕からは赤い液がドロドロ吹き出す。
そして銀髪の青年は無慈悲に、無遠慮に覆面男を斬り捨て、覆面男は屍と化した。
「死ねよ屑どもが。貴様ら組織は俺が潰してやる」
そう言って銀髪の青年は、剣を鞘に収め、次の獲物を斬ろうと走り出す。
「待って!」
アイルは叫び、銀髪の青年を呼び止めた。
「なんだい?」
銀髪の青年は先ほどのゴミを見るような目ではなく、温かく人を見る目で、優しく問いかけてきた。
まるで別人のようだ。
「どうしたらあなたように、強くなれますか?」
焼けた炎の地で、絶望しか生まないこの地で、アイルの目は輝いていた。
否、求めていた。彼の強さを。この惨劇で戦える強さを。
「今の君では、僕のように戦う事はできない。その理由は、何もかもが足りないからだ。筋肉、剣術、知力...。」
そう言われてアイルは俯く。そんな時だった、
「君は大切な人を守れる強さを、チカラを欲するか?」
青年の顔はまた変わり、今度は真剣な顔、確かな意思を確認する目で、問いに対する答えをアイルに求めた。
「人を守る事は、簡単な事じゃないんだ。さっき言ったように、筋肉、剣術、知力が必ず必要になる」
アイルは青年の言葉を噛み締め、吟味し、呑み込んだ。
その上で、答えを出した。
「チカラが欲しい。大切な人を守る、そのためのチカラが。」
瞳に光が宿る。
アイルもまた決意を込めた目で青年の問いに答える。
数秒沈黙が続き、青年はついさっき覆面男を切った剣をアイルの前へ出した。
「君にコレを預けよう。この剣はこの世界にいる十の守護者がそれぞれ守護している武器の一本。光竜ファフニールの加護を受ける『光剣』だ。」
アイルは銀髪の青年から剣を受け取った。ずっしりと重い。その重さこそが彼の強さなのだろうとアイルは思った。さすがはいわくつきの剣だ。剣の鍔には光竜を象るかのように光の宝石が嵌め込まれている。
アイルは受け取った剣を鞘から抜こうとするが....抜けない。
「その剣は確かなチカラを持つ者しか抜刀することができない剣だ。今の君には抜くことはできない。だが君の意思が確かなら、いつか剣を抜く時が来るだろう。」
「剣を抜くにはどうしたらいいの?」
「とりあえずこの場を生き抜け。そして己を鍛えるんだ。そして、大切な人を守りたい心を忘れるな。そうすれば、この光剣は君に応えてくれるさ。」
わかった。と、アイルは頷き、銀髪の青年も満足気に頷いた。
「じゃあ、僕は行くよ。僕は他の人を助けに行かなければならない。一人で大丈夫かい?」
「大丈夫!俺はお兄ちゃんだから!妹を守って生き残ってみせるさ!」
青年は微笑み、身を翻して歩き出た。と思ったら、また振り返る。
「君のその目は確かな意志を持ち、何かを成し遂げる者の目をしている。だからきっと君は強くなれる!そうだな...その光剣と共に、最強の剣士『剣聖』になってみろ!」
『剣聖』 子供のアイルでも知ってる、剣士の中の剣士。そう、最強の剣士に与えられる最高の称号だ。
「剣聖......うん、わかった!俺は強くなって、剣聖になってやる!約束する!」
青年はニコリと笑ってまた身を翻し、炎に消えた。
そして、アイルもまたアリーを抱え炎の中走り出した。
俺は、その日を忘れてはならない。
あの日失った、大切な人達を。
そして、あと銀髪の青年と交わした誓いを。
そして時は過ぎアイルは18歳になった。
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