9。 帰宅したニートご飯を食べる

9。 帰宅したニートご飯を食べる




「ありがとうございました」


 母ちゃんがタクシーの運転手にお金を払っている間に我は車を降りて、白くて二階建ての我が家をじっと見つめていた。


「……帰ってきたな、我が家に!」


 なんとなく腰に手を当ててからカッコ良くそう言い放つ。

 完全に決まったな。

 我は自分のカッコ良さにシビれていた。


『ここー?』『せいれいおうさまのいえ』『しろいー』『なんかいってるー?』『あたらしいあそび?』


 しかし、周りの玉精霊たちの所為で我のカッコ良さは中和された。

 こいつらが居ると本当に空気がゆるくなる。

 もう玉精霊が居る所だとビシッと決められないのだろうか?

 そういえば、何故か家の周囲には我に付いてきている玉精霊以外の精霊の姿が見えない。

 道中にはあれだけ精霊が居たのに、どうしてなのか?


「しぜんちゃん? 何しているの? お家に入らないの?」


 家の前でそう思っていると、どうやら母ちゃんもタクシーから降りたようで突っ立てる我に声を掛けてきた。


「あ、なんでもない」


 振り返るとタクシーが走り去って行くのが見えた。

 ……あ、Uターンしてきた。

 いや、そんなタクシーのUターンなんてどうでもいい。

 今はさっさと家に入ろう。

 扉の前に進みポケットを弄る。


「ん? ……あ」


 そういえば我は着の身着のままだった。

 家の鍵なんて持ってねえよ。

 ……超恥ずかしいんですけど!


 そんな我の姿を見て母ちゃんはふふっと笑い鍵を差し出す。


「くっ……」


 我は恥ずかしさに堪えつつ鍵を引ったくり扉を開けて家の中に入った。

 そのまま母ちゃんに鍵を手渡すのも嫌なので、リビングのテーブルの上に鍵を置く。


「ちゃんと手を洗うのよー」


「はいはい」


 我は洗面所に行って手洗いとうがいをする。

 そこで洗面台の鏡に玉精霊たちの姿が映る。


『ごしごしー』『がらがらー』


 どうやら我の真似をしているらしい。

 非常に可愛らしいし面白い。

 そんな玉精霊たちの姿を見ていると先ほどの事なんて忘れてクスッと笑ってしまいそうになる。


 手洗いうがいも終わったので、リビング行きソファに倒れ込む。

 あー力が抜けるー。

 なんか疲れたわ。


『ぐでー』


 玉精霊たちも適当に寛いでいる。

 てか、順応早いな!

 もうまるで我が家のように寛いでやがるし。

 そんなことを思っていると母ちゃんもリビングに入ってくる。


「変な格好」


「うるせー」


 いいじゃんか、楽なんだから。


「あ、そういえばしぜんちゃんお腹空いたんじゃない?」


 そういえば昨日の夜も今日の朝も食べてないんだったな。

 てか、お昼も過ぎてるじゃん。


「んー?」


 腹は……どうだろう。

 微妙に空いてるような空いてないような。


「何か食べる?」


 こういう時は食べておいた方が良い気がする。


「食べる」


「じゃあすぐに作っちゃうからそこで待っててね」


「へい」


 それから数分、ソファでぐだーっとしていると微かに匂いが漂ってくる。

 これはもう出来るのかな。


「しぜんちゃん、出来たわよー」


 そう思っていると母ちゃんが我を呼ぶ。

 どうやらご飯が出来たようだ。

 ノロノロとソファから立ち上がってテーブルに向かう。

 テーブルの上には皿に乗った炒飯とスプーンが置いてあった。


「炒飯か」


 我は席に座ってスプーンを取ると母ちゃんがコップをテーブルに置く。


「お茶よ」


「うん」


 先にお茶を飲んでから我は炒飯を食べ始める。

 炒飯なのにもっちりしている……でも普通に美味い。

 我好みの味付けだ。

 無言で炒飯を食べていると、気になったのか皿の周りに玉精霊たちが数体集まってきた。


『なにこれ?』『ごはんだよ』『にんげんさんのごはん』『きになる』


 そんな玉精霊たちを見ていて少しだけ悪戯心が働く。

 我は人差し指の先にご飯粒を一粒付けて玉精霊たちの前に持っていく。

 どう反応するのか気になる。


『なんかきたー』『ごはんきた』『どうする?』


 玉精霊たちはご飯粒を気にしながら話し合い、やがて玉精霊が一体我の人差し指のご飯粒に近付き――パクッと食い付いた!


「え?」


 そして離れる玉精霊。

 無くなっているご飯粒。


「うそぉ?」


 まさか食い付くとは思わなかった。

 というか精霊って人間の食べ物食べられるの!?

 精霊が食べても大丈夫なの!?

 精霊って魔力がご飯なんじゃないの!?

 気になって玉精霊たちを見る。

 玉精霊たちはご飯粒を食べた玉精霊に集まっていた。


『どうだった?』『にんげんさんのごはん』『おいしい?』


 どうなんだ!?


『びみー』


 両手を挙げて玉精霊はそう言った。

 どうやら身体に問題は無いようだ。

 良かった。

 てか、美味ってなんでだよ!?

 そこは美味しいとか美味いじゃないのか!?


『おおー』『すごい』『きになる』


 まぁ身体に何の問題もないなら良いか。


「ほら、お前らも食うか?」


 我は再び人差し指にご飯粒を付けて玉精霊たちの前に持っていった。


 その結果、我の残りの炒飯はすべて無くなった。

 というか玉精霊たちのお腹の中に消えていった。

 ……くそぅ。

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