7。 ゆるい奴らと起きる母ちゃん

7。 ゆるい奴らと起きる母ちゃん




『無事に玉精霊たちに命令出来たようですね』


 玉精霊たちのゆるさを感じていると、黙っていたルシルが声を掛けてくる。


「そうだな……でも、なんかこいつらゆるくない?」


『ゆるい?』


 首を傾げるルシル。

 ルシルにゆるいって言っても通じないのか。


「あーなんて言うの。 マイペースというか……のんびりしているというか」


『ああ、なるほど」


 どうやら我の言いたいことが分かったらしい。


『風の精霊は皆大体こんな感じだと思いますよ。 特に玉精霊たちは幼いですからね。 余計にそう感じるでしょう』


 風の精霊はみんなこいつらみたいなのか?

 風精霊、それでいいのか?

 そこで一つ疑問が我の中に生じる。


「ルシルはさ」


『はい?』


「風の精霊なのに、のんびりとしている感じではないよな」


 我の今のイメージではルシルはのんびりしている感じではなく、どちらかというとしっかりしている感じだ。


『そうですね。 確かに私はよく周りからしっかりしていると言われます』


「やっぱり、そうだよなー」


 そんな事をルシルと話していると玉精霊たちが我慢の限界なのか、だらけ出す。


『あきたー』『ほへー』『だらー』


『ふふっ』


 そんなだらけた玉精霊を見てルシルが小さく笑う。

 確かに玉精霊たちのだらけた姿もいちいち可愛らしく、つい微笑んでしまいそうになる。


『しぜん様、玉精霊たちに自由にするように命令してあげてください』


「そうだな、分かった。 お前ら自由にしていいぞ」


『やたー』『おつかれー』『じゆうー』『かいほうされたー』


 我が玉精霊たちに自由にするよう命令すると、それぞれが好き勝手言って部屋の中に散らばっていく。

 玉精霊たちはルシルの周りを回ったり、ベッドの上に寝転がったり、我の頭の上に乗ったり、母ちゃんの周りに集まったり……ってちょっと待てぇ!


「お前ら母ちゃんに悪戯はするなよ!」


『にんげんさん』『きになる』『でもだめだって』『せいれいおうさまがいってる』


 それで玉精霊たちは母ちゃんから離れていって他の興味ある物に飛んでいった。

 まったく、母ちゃんは寝ているんだからな?

 ……あ!


「やべぇ……途中から母ちゃんが居るのすっかり忘れて騒いじゃったよ」


 完全に忘れてたわ。

 精霊たちがツッコミどころありすぎて騒いじゃった。

 ……でも、なんか母ちゃん起きてなくね?

 我は母ちゃんをよく見るが、相変わらずよく寝ている。


『ふふっ。 安心してください。 私がこの部屋に来てから、その人間には結界を張っています。 なので外からの音は聞こえないようになっていますよ』


 そうだったのか。

 なんだよ、最初に教えてくれれば良かったのに。

 気にして損したわ。

 てか、何でルシルは母ちゃんのことをその人間なんて呼ぶのだろう?

 もしかして精霊からみたら人間はちっぽけな存在だとかあるのかな?

 でもまぁぶっちゃけ精霊たちが人間をどう思おうが知ったこっちゃないが、母ちゃんのことくらいはちゃんと呼ばせよう。

 ……大丈夫かな?

 やっぱり上級精霊だし、プライドとかで怒ったりしないか?


「ルシル、母ちゃんのことはその人間とか呼ばないでくれ」


『分かりました。 では、しぜん様のお母様と呼ばせてもらいますね』


 どうやら大丈夫のようだ。

 少しドキドキしたわ。

 そう思っていると部屋の壁に時計があったことに気が付いた。

 その時計の針は7時を指している。


「やべっ! もう7時かよ!」


 昨日母ちゃんを見たのが19時だから……どうやら随分と時間が経っていたらしい。


「ルシル、母ちゃんの結界を解除してくれ。 そろそろ起こした方がいい」


『分かりました。 では、私は姿を消しますので御用がある時は呼んでください。 すぐに現れます』


「分かった。 ありがとうルシル」


『はい』


 そう言ってルシルは周囲に溶けるように姿を消した。

 すると、結界が解除されたのか、すぐに母ちゃんが動き出す。


「……ほえー」


「ほえーじゃねえよ」


 母ちゃんは眠そうな目で周りを見てから我を見つけて停止する。


「えっと……おはよう」


 次の瞬間、母ちゃんは目をクワッと開いて即座にベッドの上の我に抱き付いてきた。


「うわっビックリした」


「ビックリしたのはこっちだよ! でも……よがっだー」


 どうやら母ちゃんは泣いているようだ。

 そんなに心配をかけちゃったか。


「ごめん」


「つぎがらはあんなあぶないまねはだめなんだからー」


「うん……てか、めっちゃ濡れてるから! 幾ら何でも泣きすぎ! 離れろ!」


「やだー」


 やだーってあんた、いい歳した大人だろ!?

 母ちゃんは万力のような力で我にくっ付いて離れない。

 すると、急に母ちゃんが静かになる。


「どうした?」


「危ないことはダメ……でも、しぜんちゃんが助けに来てくれてママ嬉しかったよ」


 母ちゃんは我の顔を見て笑顔でそう言った。

 さっきまで泣いてたのに今度は笑顔か。

 相変わらず忙しい。

 ……なんだか恥ずかしくなってきた。


「べっ別に助けようとした訳じゃないし! お腹が空いたから迎えに行っただけなんだよ!」


 つい、そんな事を言ってしまう。


「へへー。 ママでしょ、しぜんちゃん」


 でも、母ちゃんはだらしない顔で何時ものようにそう言うだけだった。

 ……少しは怒ってもいいと思うんだけどな。

 

 そこで興味深そうに我と母ちゃんを見ている玉精霊たちに気が付く。


『なにー?』『だっこ?』『ないてる?』『わらってるー』


 なんか余計に恥ずかしい。


「こらっお前ら見るな」


『わぁー』


「え?」


「な、なんでもない」


 そういえば、母ちゃんにはこいつら見えないんだったな。


「変なしぜんちゃん」


 精霊王になっちゃったり色々あるけど……まぁこれで良かったのかもな。

 母ちゃんのだらしない笑顔を見ていると、なんかそう思えてきた。




 ……だからといって働かないがな!!

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