78.あなたは、どうしますか?
議論をいったん打ち切ったあと、僕らは与えられた部屋に戻った。
エルフも配慮してくれたのか、男女で別の部屋だ。
リラとアル様、僕とレイクさんのそれぞれ2人部屋ってことだけど。
そんなわけで、僕とレイクさんはアル様達と分かれて自分たちの部屋へ。
ちなみに、龍族の
バラヌはエルフの長に呼ばれていた。
「パドくんはご存知だったんですか?」
2人きりで部屋に入るなり、レイクさんに聞かれた。
「何がですか?」
正直、色々なことが一気に起こりすぎた。
まさかの異母兄弟、『闇』の襲来、リリィが『闇』になったこと、ミラーヌさんの死、リラとアル様の目標、勇者伝説の真実、人族が地球から転移してきたらしいこと。
もう、頭の中がぐちゃぐちゃで、どうしたらいいのやら分からない。
レイクさんの問いも、一体どの話のことなのか。
「リラさんがアル様に吹き込んだことです」
ああ、そのことか。
なんて答えたもんだろうね。
いや、実際知らなかったんだから、そのまま言えばいいか。
「知りませんでしたよ」
「そうですか」
レイクさんは言って、部屋から出て行こうとする。
「どこに行くんですか?」
「アル様と話し合いに。龍族の出方が決まる前に、我々の意思を統一しておかないと」
それはまあ、そうだろう。
僕はそんなレイクさんの後ろ姿に声をかける。
「あの、レイクさん」
「なんですか?」
「リリィのことは……その、すみませんでした」
「パドくんが謝ることではありません。むしろ、本来ならばリリィの後見人として、私があなたやエルフ達に頭を下げるべき局面でしょう」
確かにそういう見方もできるかもしれない。
だけど、そうだとしても僕はレイクさんの姪を斬り殺したのだ。
「でも……」
「パドくん。過去を後悔しても何も変わりません。問題なのはこれからどうするかです。アル様とリラさんは未来を見ています。私もそうです。
あなたは、どうしますか?」
それだけ言い残すと、レイクさんは部屋から出て行ってしまった。
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――どうしますかって言われてもなぁ……
正直なところ、これまで僕の目標はお母さんの呪いを解くことだった。
アル様に王位を継いでもらう手助けをしたいと思ったのも、王家の解呪法が欲しかったからだ。
その後の国のこととか、世界のことなんて考えもしていなかった。
さっき、アル様やリラの考えを聞いて、自分がどれだけ不誠実だったか思い知った。
アル様を王位につけるというなら、その後どういう国作りをアル様がしていくのか、そういったことも考えるべきだったんじゃないかと。
いや、僕はあくまでも農民の子どもでそんなことを考える義理はないと言ってしまえばそれまでだけど。
でも、200倍チートでアル様のために戦っておいて、お母さんの呪いを解いてもらったら、『後は知らん』というのも、随分と不誠実な話なのかもしれない。
リラはアル様が王位を継いだあとのことも考えていた。
人族、獣人、エルフ、龍族、ドワーフ、5つの種族の未来の話だ。
僕も、そういったことを考えるべきなのだろうか。
――だけどなぁ。
はっきりいって、僕にはそこまで世界のこととか考えられない。
そんな頭は持っていないし、覚悟もない。
お母さんやお父さんや村のみんなやリラと仲良く暮らしていければ十分だと思ってしまう。
――でも、人族と獣人のハーフであるリラのためには、確かに……
僕は自分が大した人間だとは思ってない。
たまたまどっかのおねーさん神様のミスで200倍チートを手にしてしまっただけの子どもだと思っている。
世界やら国やら種族やらをどうするなんて僕の手には余る。
だけど、そう考えていると、かつてのお師匠様の言葉が蘇るのだ。
『大きな力を持つ者は、他の者よりも遙かに自分の行動に対して責任を持たなくてはならない。200倍の力と魔力を持つ者として、あんたはこれからどう生きる?』
望んだわけではなかったとしても、僕は力を持ってしまった。
だったら、僕はもっと世界のこととか考えなくちゃいけないんだろうか。
でも、僕はそんな大それたことしたくない。
ああ、もう、思考が堂々巡りする。
お師匠様は『考えろ』っていつも言っていたけど、こういう堂々巡りの思考を続けろって意味じゃ無いはずだ。
僕は右手で自分の頬を叩く。
――よし。
まずは今、自分にできることをしよう。
国のこととかはアル様とレイクさんにまかせるとして、僕にしかできないことが1つある。
そして、色々棚上げしてでも、それは今やるべきことだ。
そう思考を切り上げて、僕は部屋から出るのだった。
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バラヌは、エルフの長の屋敷の中に僕らとはまた別の部屋を与えられていた。
母親と暮らしていた家は別にあるのだが、幼い上に植物を操ることもできない彼を1人家に戻すわけにもいかないと判断したらしい。
「バラヌ、入るよ」
僕はそういって、バラヌの部屋の中へと入った。
彼は部屋の隅で、体育座りみたいなかっこうでうずくまっていた。
こちらを見もせずに言う。
「なんだよ?」
敵意があるわけではないが、拒絶する声だった。
僕だけじゃない。
世の中全てに絶望し拒絶する、そんな声だ。
母親を失ったばかりの幼子。
放っておくべきなのだろうか。
確かに時間が心を癒やすこともある。
異母兄弟とはいえ、会ったばかりで何をしてあげられるでもないのかもしれない。
だけど。
おせっかいかもしれないけど。
それでもやっぱり、僕は兄だから。
僕は、彼の横に座った。
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