【番外編22】心弱き子ども達の決意(3)バラヌの場合

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(バラヌの場合)


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 人族とのハーフの魔無子まなこ

 それがバラヌが背負った宿命だった。


 エルフは自然――とくに植物を操る魔法に優れた存在だ。

 人族のように契約することなく、ある程度生まれながらに植物を操れるのが当然だ。意図して操ろうとしなくても、その魔力は自然とエインゼルの森林を維持する力となる。


 逆の言い方をするならば、エインゼルの森林はエルフの魔力によって支えられており、エルフ達の食料はそこで育つ果実や木の実であり、住む場所は森林の木々を変形させて作るし、服は草木を編んだ物だ。


 エルフが魔力絶対主義なのは、つまり彼らの生活を支える根底が魔力の存在だからだ。

 人族や獣人のように自らの手足を動かして何かを生産するのではなく、エルフは自らの魔力を使って衣食住に必要なモノを生産している。


 しかるに、そこに魔力が0の存在が住もうとしたらどうなるか。

 答えは簡単。

『役立たず』『不出来な子』という評価になる。

 しかも、その子供の血の半分は、エルフではなく人族のものなのだ。


 バラヌが同年代の子ども達から虐められ、大人たちから蔑まれるのは当然であった。


 だが、バラヌにどうしろというのか。

 魔力の有無は潜在的なものだ。努力でどうにかなるわけではない。

 魔力が少しでもあれば鍛えることもできるが、魔力0で産まれた者が魔力を後天的に身につけることはほぼ不可能である。


 厳密には(バラヌは知らぬ事だが)、神やルシフとの契約により後天的に魔力を身につけることは可能である。が、その結果リリィやパドやアルがいかなる目にあってきたかは、読者諸氏もご存知の通りだ。


 あるいは彼がもう少し大きくなれば、エインゼルの森林を出て、人族の街に移住する道もあったかもしれない。

 だが5歳児が1人で越られるほど砂漠は甘くないし、そもそも住んでいる地を1人去るなどという発想がない。


 バラヌは生まれの理不尽を嘆くことすらできず、魔力の無い子供、魔無子まなことしての徹底的に差別される運命を受け入れるしかなかった。


 そんなときにバラヌの前にパド達が現れた。

 バラヌの異母兄弟だというパドは、人族でありながらありえない魔力を秘めていた。

 その事実にバラヌは驚愕したし、嫉妬もした。


 だが、その複雑な感情を整理する間もなく、今度は『闇』がエルフ達を襲った。

 バラヌの母、ミラーヌは彼を庇い、重傷を負った。


 そこに駆けつけたパドとリラが、彼を救ってくれた。

 しかも、『闇』とパド達が顔見知りであるかのような会話が交わされたのだ。


 何が何だか分からないまま、バラヌはパドに言った。


かたき、とってくれるんじゃなかったのかよ!?

 だったら、どうしてお母さんのかたきに、呼びかけたりするんだよ!? おかしいじゃんか。

 あんたがやらないんだったら、僕がやるっ!!」


 自分にそんな力が無いことは重々承知の上で、バラヌはそれでも叫んだ。


 母のことは、別に好きだったわけじゃない。

 他の大人たちと同じように、自分を蔑んでいると思っていた。

 それでも、最後の瞬間、彼を救ってくれたのは母ミラーヌだったのだ。


 兄のパドは言った。


「バラヌは1人でもたくさんのエルフを助けられるように、リラを案内して」


 バラヌは戸惑った。

 まだ幼く、魔無子として蔑まれるばかりだった彼は、他人に何かを頼られるなど初めての経験だったのだ。


「僕は、魔無子で、役立たずのいらない子で……」

「魔力なんて関係ないよ。僕の友達には魔法なんて使えないけど、一生懸命村の復興を頑張っているヤツもいるんだから。

 今、リラを案内できるのはバラヌだけだ。だから、十分役に立つ」



 パドのいう友達というのが誰なのかは分からない。

 それでも、魔力が無くてもできることがあるという発想を、バラヌに初めて与えてくれたのはパドだった。


 もし。

 もしも、魔無子まなこの自分でも里の皆の助けになれるなら。


 バラヌは「わかった」と兄に頷いたのだった。

 それはこれまで自らを蔑むしか出来なかった少年が、一歩を踏み出したその瞬間だった。

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