第10話 勉強の成果-2

母狼はルゥを庇い、野豚ミミウスののど笛へと食らいつく。しかし、その母狼のその牙は、野豚ミミウスの厚い脂肪によって阻まれてしまう。

野豚ミミウスは痛みからか、怒り狂い大きく身を振り回し、母狼を振りほどこうとする。


「あ……あ……」


 ルゥはへたり込んで、目の前の狼と豚の死闘をただただ見つめるばかりであった。

なぜならルゥは、今まで死んだ野豚ミミウスの姿しか見たことが無く、魔法を覚えたことで完全に調子に乗っていたのだ。

だが、実際にみた野豚ミミウスはルゥの想像を超えた獰猛さであり、その恐怖から彼だけが時間を止めてしまっていたのだ。


「ルゥ! 危ないから離れて!」


 巣穴の近くで、《ミミウス》を驚かせるために待機していたメイは、ルゥに向かって叫ぶ。

その声に、ルゥは意識を取り戻すと、力強く立ち上がる。


「何をする気、ルゥ!?」


「狼を助けるんだ!」


 ルゥは野豚ミミウスと狼の方へ駆ける。しかし、ルゥの目の前で、とうとう母狼は野豚ミミウスに振りほどかれ、枯れ葉のように宙を舞う。


「ああ、狼さん!」


 メイは母狼が吹き飛ばされたことを目の当たりにして、大声で叫ぶ。一方でルゥは声を出さず、野豚ミミウスへ飛びかかる。

そしてルゥは、野豚ミミウスの鼻先へとしがみつく。同時に、ルゥは魔法を唱えた。


火矢グレイス!」


 ルゥは野豚ミミウスの鼻の中に火の矢を直接、たたき込む。野豚ミミウスは鼻の中を焼かれて悲鳴を上げるが、同時に憤怒の目をルゥへと向ける。


「これでもくらえっ!」


 ルゥはナイフで野豚ミミウスを仕留めようとするが、野豚ミミウスは大暴れして抵抗する。

そしてルゥも跳ね上げられて母狼と同じく枯れ葉のように宙を舞うが、舞う瞬間に野豚ミミウスの右耳の先をナイフで傷つけ、野豚ミミウスの血が流れる。


「うわぁぁぁぁっ!?」


 数メートルはね飛ばされたルゥが地面に叩きつけられた瞬間、野豚ミミウスは森の奥深くへと消えてしまう。


「ルゥ、大丈夫なの!?」


 メイは地面に倒れて動かなくなったルゥに駆け寄ると、肩を揺さぶる。だが、ルゥをさすったメイの手には赤い血がべったりと。


「ルゥ、ルゥ!?」

 

後に残されたのは、頭から血を流し、動かなくなったルゥと母狼だけであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る