イーヴル×デッド
斉宮二兎
1話 死と転生
あと1分……
あと45秒……
あと30秒……
あと15秒……
10秒前……
5、4、3、2、1……
18時になったと同時に俺は即座にPCの電源を落とし、急いで帰る支度をし始めていると、目の前に薄い頭のヨレヨレのスーツを着た、ぽっこりお腹の課長が立っていた。
「やあ、宮間くん。最近調子はどうだい?」
ただでさえ、薄い髪の毛なのにハゲを隠すため少ない髪の毛を横に持って来るハゲ特有のバーコードハゲ。
もういっそのこと、トレンディデビルの佐藤さん目指せよ。とか思いながら背の低い課長の見下ろしながら
「今日も薄いですね。じゃなくて課長、今日の飲みは行きませんよ」
軽く課長を侮辱しながら、飲みのお誘いを断ると、案の定というかあのネタをやってきた。
「宮間くん、私を誰だと思っている?」
誰って頭の薄いバーコードハゲでしょ。それ以外の何者でもないよ。
「ここの会社の加藤さんだぞ」
暫く、間が空くと俺は思い出したかのように、もう時間ないんで帰りますね。と言いながら最後にお疲れ様でーす。と言うと急いで会社から出て行った。
正直、あの人に捕まると予約してある新幹線に乗り遅れてしまう。
そう、今日から5日間、俺は有休を取って地元である京都に帰省する。
そして明日は中学校からの付き合いの友人たちと飲みがあるから楽しみなんだよな。
みんな元気にやってるかな。
俺は1人浮かれながら、地元へと帰るのであった。
*********
夕方18時を過ぎ、友人たちと約束をしていた居酒屋で飲み会を始めた。
最近の仕事の愚痴の話や学校時代の思い出話を浸りながら、酒の飲むペースも速くなってきた。
「あのさ、ここでちょっと報告したい事があるんやけど……」
そう言いだしたのは、茶髪に左耳だけピアスを開けた、結構チャラめな
最初に裕也と出会った時は、俺とは別世界のリア充野郎なんだろうなー、と思ったけど、たまたま同じ班になった時にドラマ何見てんの?と言われ、好きな海外ドラマを話したところ、裕也もそのドラマのファンで、そこからは意気投合して、よく遊ぶようになった。
そういえば2年前にずっと憧れてたカフェをやっと建て、若い子達やマダムに人気のある小洒落たカフェを経営してるんだっけ。
本当、裕也って凄いよな。
と思いながら、俺は裕也の報告という言葉を待った。
裕也は少し照れ臭そうに笑うと
「実はさぁ、今付き合ってる彼女と来月結婚する事になったんよ。
いやー速く報告しよう思っとたんやけど、色々忙しくこんな遅くなっちまった。
勿論、結婚式も呼ぶから、そこんとこよろしゅうなー」
と笑いながら言った……
は?お前、先月に連絡した時は婚約者どころか彼女なんていねーよ。とかほざいてただろ!!
それなのに、何笑っとんねん!!
おかしいやろ!!!
俺は裕也の顔を黙って睨んでいると、裕也は俺に気づき、苦笑いを浮かべると
「あー……いやーほら、稔には中々言いづらかったというか……過去に女とのトラブルがあったの知っとたから、言うタイミングが遅くなりました、はい。」
最後は敬語かよ!!
俺は残ってた生ビールを一気に飲み干すと、やっぱ生ビール最高だわ、あー酒飲まずにわいられへんわー、と意味の分からん事を叫んでいた。
ずっと黙っていた
「実は俺も、1週間前に彼女ができたんだ……やっぱり勇気を出すものだよな」
和良がそう言うと、裕也は嬉しそうに和良を祝福し始めた。
いや、意味わからねえーし。
何が彼女だ!東京に上京して、うんでもって浮かれて東京の女捕まえましたー
アホくさいわ、もうどうでもええ。
俺は近くにいた店員さんを呼ぶと、いも焼酎を2つ頼んだ。
追加にタコの唐揚げと冷やしトマトも頼んでおいた。
ーーー数分後。
「あんな、ええかお前ら。
女っていう生き物は、男を貯金箱としか思っとらんねん。
昔付き合った地雷女とのデートで、たまたまその日は、マツダのデミオを車検に出してて軽で迎えに行ったら、そのクソ女なんて言うたと思う?
あ、ごめん。今日用事あるんだった、じゃあね、稔くん。その後はお決まりの連絡なし!
それで、表参道あたりで元カノに会ったんよ。
そしたらそのクソ女なんて言うたと思う?
あ、稔くん久しぶりだね!これ稔くんの車?とかほざきやがってよ、地獄に落ちれ阿婆擦れ女あああああ!!
まあ、俺はその後、冷めた目で、すみません、人違いじゃないですか。と言って去って行ってやったわ!!
あははははははは!!!あん時の顔は今でも忘れへんわ!
それから会社の忘年会の時、隣に座ってた女の子に、宮間さんってモテそうですよね。彼女とかいないんですかー?って聞いてきたくせに、俺が、今はいないかな、え?もしかして櫻田さん俺に気があるの?って聞いたらマジなトーンで、それだけはないです。てきっぱり言われたんよ……もう女の言葉なんて信じへん……だからお前らは幸せになれよ」
俺がそう言うと、2人はニコニコ笑うと裕也は、稔、何言ってんだよ、お前も幸せになるんだよ。と言った。
和良も、うん、そうだね。と言い返した。
なんだかんだ、コイツらが友達で本当に良かったと思えるわ。
「すみませーん、お姉さん、生3つお願いしまーす!」
俺が酒を頼むと、裕也は、まだ飲むのかよ!と呆れていた。
いや、だから酒飲まずにわいられないんだって。
そしてお前ら2人、幸せになって今すぐ爆ぜろ。
*********
あれ?何っ!?
苦しい……冷たい……痛い…溺れる……
何がどうなってるんだ!?
俺はさっきまで裕也達と飲んで……あれ?そこからの記憶がない……
「稔、今すぐ助けるから待ってろ!!!」
遠くの方から裕也の声がする……
駄目だ、水が冷た過ぎて体温の感覚が麻痺してきた……あぁ、俺このまま死ぬんだ…結婚どころか彼女も出来ずに……
「裕也、鴨川って確か水深3㎝だったよな……なんで稔の所だけあんな深いわけ!!」
「今はそんな事考えてる暇ねえだろ、早く助けるぞ!」
鴨川?
あぁ、牛若丸と弁慶が戦った五条大橋ね……てか、もう駄目だ……無理……
「本当、哀れよのう」
最後にその言葉を聞くと、俺はそのまま意識を失った。
*********
俺が目を覚ますと、そこは白い空間で何もない殺風景な場所だった。
キョロキョロと辺りを見渡して見るが何もない。一体ここは何処なんだ?
そんな事を思っていると
「お主、本当に滑稽よのう。溺れ死ぬ所はまさに傑作だ」
俺を侮辱するとはいい度胸だな。
声からして女か?
とりあえず話しかけてみるか……
あれ?声が出ない……ど言う事だ……いや、それ以前に俺の身体はとご!?
「やっと気づきおったか、お主はもう死んでおり、肉体は使い物にならんから人魂の姿にしてやったぞ。妾に感謝しろよ」
女はそう言うと、俺の目の前に現れてきた。
女の姿は、色白で、綺麗な青い眼に瞼の上には赤いアイライナーか?いやアイシャドウかを塗っており、綺麗な白と青のグラデーションのロングヘアー
そして白と青の花柄の着物を着た美人が俺の目の前に立っている。
てか、乳デカッ!!
って見惚れてる場合じゃねえ!
アンタは一体何者で、なんで俺が人魂になったのか説明しやがれ!!
「随分とえらい性格をしておるの。まあ、よい。妾の名はミヅハだ、どうぞお見知り置きを。さて、お主がどうしてそうなったか、嫌という程視せてやろう」
ミヅハはそう言うと、俺の頭部なのかわからんが、そっと手を乗せた。
その瞬間、俺の視界には居酒屋で裕也達と楽しく飲んでいる俺の姿が、そこには映し出されている。
「すみましぇーん、ハイボールくらしゃーい!」
俺がハイボールを頼むと、裕也は店員さんに、お冷も一つ願いしますぅ。と一緒に頼んだ。
というより、呂律回ってねえし、何、裕也達に迷惑かけてんの俺!!
超恥ずかしい!!手があったら顔を隠したい!
そして運ばれて着たハイボールを裕也が飲み、俺には水を渡すと、なんか駄々を捏ね始めたんだが……え?俺って酔うとあんな感じなの?
しかも隣に座る和良にまでダル絡みする始末…まじで2人ともごめん、こんな友達で本当ごめん。
その後、和良が店員さんを呼び出すと、お会計をお願いします。と伝え、店員さんに伝票を受けりレジカウンターまで移動した。
そして、ここで飲んだ酒などを全て裕也が支払ってくれた。
え、まさかの奢りっすか先輩!
そんな事を思っていたら、裕也が後でちゃんと請求しとくから。と言った。
ですよねー、裕也が奢りなんて100パーあり得ないし。
そして俺は目を覚ましたのか、急に千鳥足になりながらも、フラフラと歩きながら在ろう事か、夜にも関わらず大声で歌を唄い出した。
「迷子の迷子の子猫ちゃん、アナタのお家は何処ですかー?此処でーす!フヒヒヒヒー」
アカン…これ完全に頭がハイなやつだ……
2人は何してるんだよ……っておい!何撮ってんねん!!今すぐその動画消せ!!!
俺はフラフラと千鳥足になりながら、五条大橋の真ん中で川を見つめながら、何か呟き始めた。
「お前ら2人は婚約者と恋人がいていいよなー、俺だって自分に勇気があれば優香里に告白出来るのに……はぁ、情けねえ…」
え、俺こんな事言ってたの?
確かに今でも幼馴染の優香里には片想いしてるけど、今更な……てか死んでるし無理じゃん。
いや、これが夢オチだったらいいんだけどな。
そんな事を思っていると、俺は急に橋の上に立ち上がり、今の俺じゃあ優香里を幸せにできない。と言うと大きく手を広げ、いっそ死んだほうがマシだ……と言い始めた。
裕也は撮る事をやめ、和良も急いで俺の元まで駆け寄るが間に合わなかったみたいだ。
俺はそのまま橋の上から飛び降り、深い川へと落ちた。
あれ?鴨川ってこんな深かったっけ?
俺がそんな事を考えていると、ミヅハが怪しげに笑いながら
「川が深いのは、妾の仕業だ。
すぐに死なれては、つまらぬからな。だが、お主にもう一度チャンスを与えよう」
ミヅハの言葉に俺は?マークしか出てこない、なんせ俺はもう死んでるみたいだし、これからデスゲームが始まってそれに勝ったら生き返してやる。とかじゃないよな。
「ふふっ、少し違うが、大体はあっておる。お主の役目は異世界に行き、そこである有名な歴史上の人物に転生してもらう。そして神から課せられた使命を成し遂げるのだ、そうすればお主の願いを聞き届けよう」
なるほど、えっ!異世界なのに歴史上の人物に転生ってどういう事なの!?
異世界は異世界でしょ?なのに歴史上の人が異世界にいていいの?
「いちいち煩い奴のう、異世界に行けば何も驚かなくなる。というより異世界に行っても、ある有名人物に会っても驚くでないぞ、それがその世界の普通なのだから……まあ、何か困ったら妾を呼ぶとよい、情報は教えるが手助けだけはしないぞ。そこだけは心得るように」
よく分かんないが、分かった。
とりあえず俺は元の世界に帰れれば、何だってする覚悟は出来ている。
異世界だろうがタイムスリップだろうが何でも来い!!
俺は絶対に帰って、優香里に想いを告げる。その為なら……
俺の意識はだんだん薄れて行き、気づいたら暗い場所の中に俺はいた。
*********
それにしても暗いし狭い……一体、此処は何処なんだ?
微かに聞こえる心臓の音……つまり俺は赤子として転生したという事か。
なるほど、とりあえず此処から早く出たいものだ。
俺がそん事を思っていると、遠くから女性らしき声が聞こえて来た。
「もう無理!!……産まれる!!!」
「奥様、ご安心してください!この私、梅が全力でお手伝いしますので!」
お、なんだ。
俺もう産まれるの?なんかよく分かんないけど早く此処から出られてラッキー
そう来たら俺も全力で此処から出てやるか。
母親の悲痛な叫び声と俺の外に出たいという一心で、なんとか頭まで外に出られたみたいだが、目が思うように開かないし、耳もさほどよくない。
赤子だからなのか?
「奥様、あともう少しです!頑張ってください!」
何を言ってるのか聞き取りづらいが、多分、頑張れとか言ってんだろうなー
まあ、俺も一応声援を送ってやるか。
もっと頑張れ!お前ならやれる!!
俺の母親になるんだろ!そこで諦めんな!!
「奥様、赤ちゃんも頑張っているんです。だから奥様も頑張ってください!」
俺は最初の方で力を使い切ったからもう無理。
てかコイツ喋ってるだけで、ちゃんとサポートしてやってんのか?
そんな事を思っていたら、俺の頭を掴むと、思いっきり引っ張り上げようとして来た。
いやいやいや、可笑しいだろう!!
てか痛えんだよクソババア!!もっと優しくしろ!!!
あぁ、もうダメ……俺の人生終わった。
「奥様、よく頑張りました!男の子ですよ!」
あれ?俺、外に出られた感じ?
でもまだ、目は開かないのね。
とりあえず俺は何とか生きてるみたいだ……
「あら?泣かないわねえこの子」
抱き上げた女が何か言うと同時に、背中に思いっきりバシーンっと、大ダメージを喰らわされた。
「おぎゃあああああああおぎゃあああああああああ!!!(痛えんだよクソババア、誰が背中叩いていいって言ったよ、しばくぞ!!)」
「まあ、元気な男の子だこと!」
何言ってるか全然聞こえねえけど、コイツまじで頭にウジでも湧いてんじゃねえのか?このクソアマ。
そしてあの悲劇の出産から月日は経ち、俺の名前はどうやら、かなり有名な歴史上の人物。牛若丸こと、
何故、牛若丸に転生したのかはイマイチよくわからんが、まあいいか。
そして5歳になった俺は、剣術の練習を強制的に強いられている。
そういえば、ミヅハとか名乗る女神は一度も俺の前には現れてないけど、本当に手助けするつもりはあるのか?
俺はそう思いながら、大きく木刀を振り翳した。
「はあああああああああっ!!」
今は女神のことなんか、どうでもいいや。
とりあえず、ささっと練習を終わらせて杏屋の甘味処にでも行こう。
「やあああああああああっ!!」
俺が木刀を大く振り翳していると、後ろから俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「若様、ちょっとよろしいかな」
この声は俺の苦手な世話役係の
何でこういうタイミングで来るかな、このオッサン。
俺はアイドルにも負けないくらいの笑顔を兼房に向けると、私に何かご用ですか?と返事を返した。
兼房は顔色一つ変えず
「そろそろ木刀での練習をやめ、太刀の扱い方の練習をされてみてはどうでしょうか」
と言ってきやがった。
しかも言葉を聞く限り、普通は最後に疑問符が付き物だろ?
だが、この男にはクエスチョンマークという概念がない。
つまり、お前はもう初心者じゃないんだから木刀で練習するのはやめて、これからは太刀などの刀で練習しろって言いてんだろ!
いやいやいや、無理!
いきなり太刀とか難易度上がり過ぎぃいいいいい!!
しかも子供に太刀扱わせるバカがどこにいる!……あ、ここに居たか。
とりあえずだ、俺はまだ木刀で練習したいから、ここはきっぱりと断るか。
何よりめんどくさそうだし、別に俺強くなりたいと思ってないし、というより甘いものが早く食いたい訳だし。
そう思いながら兼房の方を向くと
「気持ちはありがたいのですが、今の私には必要ありません。それに私はまだ5歳ですよ、本当は剣術を練習するより、5歳児なら5歳児らしい遊びを一度でいいのでしてみたいですね。」
俺はそう言いながらニコッと微笑んでみせた。
いや、普通に考えてこんな喋り方の5歳児は嫌だな。
だが、この喋り口調じゃないと、あの腐れババアが黙っていないんだよ。
源家に生まれ育ったのなら源家に相応しい風格でなければならいとか……今はこの話はどうでもいいか。
兼房は1度目を伏せると、ゆっくりと瞼を開き
「私から見た若様は、少なくとも普通の子供とは異なるモノが視えるのは偶然でしょうか?
それとも、生前の記憶を持つ者の特有のソレなのか?
何にせよ、遅かれ早かれ属性は付き物です。
今のうちに太刀の扱いを覚えておいた方が、若様のためでもあるのですよ」
兼房はそう言うと、それでは私はこれで失礼します。と言い、この場を去ろうとしたので、俺は咄嗟に兼房の着物の袖を掴んだ。
もうね、訊きたい事がありすぎて正直頭が回らない……
まず生前の記憶って言ったからには、俺が少なくとも転生者だってことは気づいているのか?それと属性ってなんだよ!!
それよりももっと気になる事がある……
「兼房、お前は一体何者なんだ?」
兼房は表情一つ変えず、俺を見下ろすと、随分と口調が変わりましたね、若様。と言った。
兼房にそう言われ、ハッとした俺は、いつも通りの表情を作ってみせた。
やべ……頭が混乱しすぎて、つい素で話してしまった。
まあ、仕方ねえよな。だってコイツ何かしら情報知ってそうだし、ここは直球で訊いてみるか。
「すみません。つい素が出てしまい……それよりも兼房に訊きたい事があるんですが、属性とは何ですか?そして貴方は何者で何が目的なんですか?」
俺がそう言うと、兼房は俺の方を向き。淡々と説明をし始めた。
「まずは私についてから説明しましょうか。私の名は、ルーファス。ミヅハ様の使いの者。此処では兼房と呼ぶように」
兼房の口からミヅハという名前が出てきて、俺は思わず
「ミヅハの使い者!でも何故、本人ではなく使い者を……」
俺が一人ブツブツと喋りながら考えていると、兼房が続けて話をし始めた。
「簡単に言えば、若様の転生先にかなりの魔力を使い過ぎて、本来の姿どころか人の姿になる事が出来なくなってしまったのです。そして今は仮の姿でこの街の京に若様を監視されておられます。
さて、属性についてですが、ご存知の通り光、闇などの属性であり、本来、魔物や神の生まれ持つ特性のものでして、決して人間にはその属性は備わっていません。なので人間の種族は属性のある武器で魔物を討伐するのがデフォルトですが、若様みたいに転生された者は言わば神の生まれ変わりとして崇められている説があるんです。」
え、俺神なの?
てことは最強無双とか来ちゃうわけ?
そしたら異世界系お得意のハーレムとか来るだろ。やったぜ!
俺が一人舞い上がっていると、冷たい視線のまま兼房は話を続けた。
「転生者が神だからと言って最初は強い訳ではありません。
まず、若様は無属性ゆえ、雑魚中の雑魚です。もっと平たく言えばゴキブリ以下の雑魚とでも言えば分かりやすいでしょう。自分が神だからと言って舞い上がっちゃダメですぞ、馬鹿様」
おい……今コイツ、俺に何つった?
俺は下等生物以下の雑魚呼ばわりしたうえ、馬鹿様だあー?
締め上げんぞ、クソジジィ!!
兼房に侮辱されてもなお、笑顔を保ちつつ
「兼房、私に喧嘩を売ってるのですか?これ以上の私語は慎んでもらいたい。それに私も馬鹿じゃありませんから無駄な争いはしたくはありません」
ここで兼房の挑発に乗ってしまえば、返り討ちにあうのは目に見えてんだよ!ばあぁぁぁかっ!!
まあ、でも俺の機嫌は最悪だがな!
この怒りをどこにぶつければいいんだ!!
"暴怒のスキルを獲得しました"
は?暴怒のスキル?
俺の脳内に、そんな文字が急に浮かび上がってきた。
いや、何だよ暴怒って!強いスキルなのか?
"暴怒のスキルを見ますか?"
まあ、見ないと話にならないし、そもそもスキルの内容によって使えるか、使えないか今後に響くわけであって……
暴怒のスキルの内容
怒りの場がない時、このスキルを使用することが可能。
尚、使用ても100%何も起こらない上、更に怒りが増すだけのゴミスキル。
「だあああああああっ!!!クソスキル獲得したあああああ!!!!何だよ暴怒って!まじで、全然使えねえゴミじゃねえかよ!!!」
怒りのあまり兼房の存在を忘れて、素の自分を曝け出してしまったことに気づくと、俺は一瞬にして笑顔に切り替えた。
「兼房、スキルも使えるのですね。勉強になりました……」
俺がそう言うと兼房は呆れる様子もなく、というよりコイツは喜怒哀楽という概念がないから表情はいつも同じなんだがな。
そんな感じで表情一つ変えず、目線だけ俺に向けると
「スキルも属性とまた同じく、人間の種族には……」
兼房が途中で言いかけてるところを、俺が重なるように大きい声で
「備わってないんですね。いちいち説明しなくて大丈夫です。何となくは理解しましたので」
そう言うと、兼房は、それでわ太刀の扱い方の勉強を。と言ってきたので、俺はやんわり断ろうとしたが、ダメだった。
それから別の場所に移動して、兼房から太刀の種類をある程度、説明を受け。正直、こういう長話は苦手でほぼ聞いてなかったが、説明聞くよりも実践あるのみでしょ!と思い立って、適当に近くにあった太刀を手にした。
その太刀の見た目は、光に反射すると綺麗な青味がかった刃をしており、普通の太刀と比べて、刃が細くて軽い。
これなら今の身長の俺でも、扱いやすいな!多分!
早速俺は近くにあった藁で、試し斬りをしてみた。
俺が気合を込め、ハッと言うと、藁は綺麗にスパッと切れ。
真っ二つに切れた藁が地面に落ちると、俺は構えていた太刀をキメるように鞘に……鞘に…あれ?
「刃が長すぎて綺麗に鞘に収まらないんだが……」
「それは、若様が小さいからではないでしょうか?でもご安心を、若様用に小太刀もございます」
「………いえ、これから成長していくので大丈夫です」
コイツ、まじで締め上げぞ!!!
それに俺はまだ5歳児だ、小さくて当たり前だ!絶対コイツ、俺のこと馬鹿にしてるだろ!!
兼房は細い丸太を用意すると
「でわ、次はこの丸太で試し斬りしてみてください」
と言われ、俺は態勢を整えながら丸太に集中して、そして軽やかに丸太をスパッと斬った……あれれ?おかしいな、遠くから見たぶんは細く感じたけど、近くで見たら結構、太い棒なんだな。
というより丸太に刃が挟まって抜けない……
「やはり初心者には斬れませんよね。知ってましたが」
ここまで馬鹿にされると怒る気力も出てこんわ。
なんとか丸太から太刀を抜くと、俺は兼房に何故、斬れもしない事をやらせたのか理由を聞いた。
兼房は大きな岩に立つと、腰に差している刀を抜き、ってお前は刀かよ!
そして静かに音もなく岩を砕くというより斬り刻むように全ての岩が砂状に変化した。
「若様も、
無理言うなよ、流石にチートモードない状態でそれはキツイって。
それに、ただ斬っただけであんな大きい岩を砂状にするのは無理だから、恐らくスキルを使用したんだな。
つまり兼房の目的は
「スキルの扱いを上達させる事が目的という事ですか、ですが、今のスキルは称号と言ってもいいくらいの使えないスキルなので、かなり時間がかかりますよ」
俺がそう言うと、兼房は、岩をただ斬るのではなく。岩を斬るイメージが大事なのです。と言った。
岩を斬るイメージ?
思い込む力が大事なのか?それとも念じるのか?
んーさっぱりわかんね!
「若様は、先ほどスキルを獲得しましたよね。それと同じく強い意志、またはイメージで新しいスキルを獲得しやすいとだけ言いましょうか。
勿論、私から教えて習得するのも可能です」
ほう、なるほど。
じゃあ強いスキルを獲得するにはイメージや俺の意志で獲得出来るのか!!
「それと、スキルにはレベルが存在してますゆえ、最初から強いスキルを獲得出来るなど甘い考えは忘れるように」
兼房の野郎さっきから俺の夢ぶち壊しやがって!!
つまりラノベみたいな俺TUEEEE系ではなく、少年漫画の主人公みたく努力して強くなりやがれって事ね。
上等だ、寧ろ無双主人公より、努力して強くなった主人公の方が人気あるのは知ってんだぞ。
まあ、一番理想的なのは部屋に引きこもって好き勝手に、生きれるのが最強なんだけどな。
その後も、鬼のような練習は続いたが結局、暴怒のスキルしか獲得はできなかった。
と言うより激しい運動をして、腕が痛いんだよな。
この若さで筋肉痛になったら、ありえんわ。
なんか、身体を柔でくれるスキルとかあったらいいんだけどな。
"整体のスキルを獲得しました"
まじ…また余計なものを獲得してしまった。いや、暴怒よりはマシなのか?とりあえずスキル内容見せて。
整体のスキルの内容
背骨や矯正または筋肉疲労の回復などを療法できる、整骨院には必要不可欠なスキル。
※このスキルを獲得していても整骨院が開けるわけではないのでご注意下さい。
またしても微妙なスキルを……
というより俺は整骨院の先生になるつもりはないから安心しろ。
まあ、せっかく獲得したんだからスキルを使わないわけがない!
早速、疲れをほぐす為にさっき獲得した整体のスキルを使用して、軽く腕を揉み始めた。
ほぉおおおおおおおおお!!!
こ、これは気持ち良すぎて天にイッてしまうほどのヤバさ……
まさしく俺の手はゴッドハンド、つまりこの手で世の女をイカせる技術を身につけたということか!
まあ、一生使う事はないからゴミスキル確定だな。
俺も早く、兼房みたいなスキルが欲しいな。
そうと決まれば明日から頑張ろう!
よし、もう夜も遅いし、寝るか!
"意欲のスキルを獲得しました"
「もう、そういうスキルはいいから!!!」
こうして京の町は、静かに夜を明かすのであった。
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