旗守りのグロリア
霧島まるは
第1話 プロローグ
「今日を持って白百合騎士団は解散します」
王女からの一言は、雷のような衝撃でグロリアを打った。
八年間、側でずっと王女に仕えてきた彼女は、その言葉により役目を終えたことになる。グロリアは父に似た、人というよりはゴリラ族に近い顔を悲しみとともに歪めた。黒くずっしりと重い自分の髪が、なお重くなった気がした。
彼女の目の前には、背の高い銀の髪の王女。その隣に、更に背の高い金髪の公爵の娘が立っている。ドレス姿の美しい王女、騎士服の凛々しい公女。瞳の色は王女がサファイヤ。公女はエメラルド。対照的な二人であったが、どちらも八年前とは比べ物にならないほど強く美しく成長した。ずっと側で見ていたグロリアが言うのだから間違いない。
そんな二人の姿を、視界がにじんでグロリアはうまく見られない。「お前の泣き顔は良くない」とむかしむかしに金の公女に言われたことを思い出し、彼女は顔を伏せた。
そのまま「お別れの…ズビッ…挨拶をさせていただいて……ズズッ…よろしいでしょうか」と、声を絞り出す。
「よく尽くしてくれた」と近くに寄る許可と共に王女にねぎらわれては、グロリアはその場で号泣してしまいそうだった。床に視線を落としたまま片膝をついて彼女の右手を取り、自分の額を近づける。女性の手にしては大きく、剣ダコさえ出来ている。王女が鍛錬に励んだ結果だった。
引き続き、隣の公女の手を取る。こちらは王女よりもっと大きくもっと傷だらけだった。強くなる苦労を厭わなかった健気な手だとグロリアは思った。公女からのねぎらいの言葉はない。彼女は喉を悪くして、公(おおやけ)の場で声を出すことをやめてしまった。
だから、ここでグロリアはみっともなくとも顔を上げなければならなかった。公女が彼女に話しかける時は、唇の動きだけで伝えるからだ。 涙でぐしゃぐしゃの顔をグロリアが上げると、公女の唇はゆっくりと音を見せるように動いた。
それは──「さよなら」の形ではなかった。
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