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「お早う御座いますっ!」

 部屋を飛び出し、輸送車の後部の階段から外へ踏み出すと、出し抜けに大勢の男の声に出迎えられる。

 眩しい朝の光の中、昨夜の狂送団の団員メンバーがずらりと勢ぞろいし、世之介を待ち受けていた。

 世之介は、思わず戦いの構えになる。

「なんだ、てめえら、やるのか?」

 拳を握りしめる世之介に、昨夜蹴り飛ばした海象セイウチのように太った男が、慌てて手を振って話し掛けた。

「ちっ、違いますって! あっしら、新しい頭目に、朝のご挨拶をしにきただけで……」

 意外な海象男の言葉に、世之介はポカンと全身が弛緩した。ダラリと口も開けっぱなしになる。

 ようやく、言葉を振り絞って訊き返す。

「新しい頭目?」

「そうです。あんたが、新しい頭目ってことになりましたんで」

「俺がっ?」

 世之介は驚きに仰け反った。

「何で、そんな無茶苦茶な話になるんだ! 俺は絶対、断固として、何が何でも、金輪際、そんな面倒臭いことは御免だからな!」

 海象男は揉み手をして、話し掛ける。満面に作り笑いを浮かべ、必死に愛想を振りまいている。

「だって、世之介さんは昨夜、拓郎さんをやっつけたじゃないですか! だから、世之介さんが、今では狂送団の新しい頭目になったんですよ! ねえ、うんと仰って下さい。このままじゃ、あっしら、どうしていいか、判んないんで……」

 世之介はブスリと唇をひん曲げ、肩を竦めた。

「お前ら、今まで狂送団ってので、道行く連中を襲っていたんだろう? だったら、それを続けるなり、厭なら解散するなり、勝手にやればいいだろう。俺は知らねえ! 第一、俺は【ツッパリ・ランド】を目指すって目的があるんだ。お前らなんかの、頭目など、やってられっか!」

「【ツッパリ・ランド】!」

 海象男以下、狂送団の全員が、目を輝かせた。

「頭目がそこを目指すってことなら、あっしらも、ご一緒いたしますぜ! そうかあ……頭目が【ツッパリ・ランド】をねえ……」

「ヨノちん【ツッパリ・ランド】に行くの?」

 背後から声が振ってきて、振り返ると、さっきの女たちが顔を揃えて、出口近くの階段に犇いていた。

「わあ! あたいらも一度、行って見たいと思ってたんだ! 素敵、素敵!」

 きゃあきゃあと騒がしく階段を駆け下り、世之介の周りで飛び跳ねた。

 助三郎、格乃進、茜、イッパチの順で輸送車から外へ出てきた。その顔ぶれを見て、世之介は首をかしげた。

 助三郎に向け、尋ねかける。

「あの爺さんの姿が、見えねえようだが」

 助三郎は「爺さん」という言葉に、一瞬むかっと眉を顰めたが、それでも精一杯の忍耐力を示して頷いた。

「ご隠居なら、朝早くからあそこで……」と、指を挙げ、道路の彼方を指し示す。

 輸送車からかなり離れた道路の真ん中で、光右衛門がぽつりと立っていた。腕を上げ、何か顔に小さな筒を押し当てている。

 世之介は大股に歩いて近づき、光右衛門に向け、話し掛けた。

「朝から、何やってるんだい? 爺さん」

 光右衛門は世之介の言葉に振り向き、にっこりと笑顔になった。手に持っていた筒を世之介に向ける。筒の先端は、レンズになっていた。

「これで、向こうを見ていたところです」

 答えながら、筒を世之介に手渡す。

 光右衛門の持っていたのは、電子走査望遠鏡らしい。祖先の光学望遠鏡とは、機能は同じでも、算盤とコンピューターほどにも性能に開きがある。

 世之介は、光右衛門の見ていた方向に望遠鏡を向けた。

 地平線近くに、何かゴチャゴチャとした建物の群れが見えている。距離が開きすぎているため、空気の揺らめきで、細部はよく判らない。世之介は調節輪を手探りし、映像に補正を加えた。

 不意に画面がクッキリと確定した。内部のコンピューターが、レンズに捉えた映像に補正を施し、空気の揺らめきを取り去ったのだ。

 色とりどりの建物が立ち並び、背後に大きな岩山が聳えている。手前に何か門のようなものがあり、そこに下手糞な字で、何か書いてあった。

 望遠鏡を目から引き離すと、世之介は光右衛門を見詰めた。

「あれが……?」

 光右衛門は大きく頷いた。

「そうです。あれが【ツッパリ・ランド】なのです!」

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