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 総選挙で【大江戸党】は過半数を獲得し、与党の地位に昇った。

 囂々たる野党の非難の中を【大江戸党】は国会で「征夷大将軍関連法案」と呼ばれる新たな法律を上程し、衆議院と参議院に替わり設置された貴族院元老院両院を通過させ、立法に漕ぎ着けた。ここに、新たな征夷大将軍、幕府政権が樹立したのである。征夷大将軍は全国民による選挙で選出されるとされる。

 事実上の大統領制である。つまり民主的な封建制であった。初代征夷大将軍に選挙されたのは、徳川家の裔と名乗る人物であった。

 もっとも、征夷大将軍に昇った徳川宗家の人物と称する履歴は相当に怪しく、実際の徳川家子孫は、この騒ぎに無関係であった。

 知事は藩主と呼び名を変え、県は藩となった。和服の常用が当たり前となり、急速に、それまで盛んだった明治、大正、昭和の風俗の流行は、廃れていった。全国民は、一斉に江戸時代へと回帰していったのである。

 一方、日本以外では、日本語の急速な普及が進んでいった。

 かつてラテン語がヨーロッパで、漢文が中華圏で共通語であり、大航海時代にスペイン語、そのスペインをトラファルガー海戦で破ったイギリスの英語が世界共通語になったように、日本語がそろそろ世界中で、必須の外国語となっていった。

 ギャル語──二十世紀末の、女子高生同士の会話をそう呼ぶ──が、簡単な構文と時制の短縮化で簡略化された日本語として普及に一役買った。つまりピジン日本語である。ギャル語に必要な単語は僅か二千語で、それだけの語彙で女子高生は世界を表現している。

 世界中の人々は日本風の名前を名乗るようになり、会話の中に益々日本語の単語が混入していく。例えば英語の七十パーセントがフランス語起源であるように、日常会話の大部分が日本語起源となっていったのである。

 普及の流れはまず「アニメ」「マンガ」などの受容が盛んだった欧州で始まった。日本語受容の流れはアメリカ、南米に広がり、経済圏として重要な地位に上がっていた東南アジア、インド亜大陸でも広がっていく。

 モンゴル、東欧諸国のウラル・アルタイ語圏では、もともと日本語と同じ膠着語族であったゆえに、普及は一気呵成に進んだ。最後まで抵抗していた中国、朝鮮半島においても、渋々であるが、日本語が第二母国語として認められるようになった。

 国連は事実上消滅し、替わりに幕府の問注所がその役目を果たした。全世界に幕府の出先機関である奉行所、代官所がおかれるようになる。

 ここに「大江戸共栄圏」が成立したのである。日本の新たな江戸幕府を盟主とする、新たな秩序が構築されたのであった。

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