第15話心の声を
私の着替えが終わり、アルベルトの元に行くとまた立ち上がり、椅子を引いてくれる。
どこまでも紳士だな、と思い、これが年下だということを思いだし驚いていた。
「……キャシー、奥は空いてる?」
アルベルトはふと、思い出したようにキャシーに聞いた。
ここでは話せない事なのだろうか。
「今、確認して参ります」
キャシーはくるっと回れ右をし、このbarのバーテンダーの元へ言った。
一言、二言話すと、こちらに戻ってくる。
「大丈夫だそうです」
キャシーが告げると同時にアルベルトは立ち上がり、私の手を取り、立ち上がらせた。
さっき座ったばかりなのに、何か忘れたのだろうか。
アルベルトはすたすたと先程とは違う部屋に私を招き入れる。
この部屋は、衣装部屋の2倍程の広さでテーブルにソファー、終いにはベッドまで置かれている。
随分良い部屋だった。
近くのソファーに二人で向かい合い座る。
どちらも口を開かず、沈黙が流れる。
見つめ合うような形で彼を見ていると、漸く口を開いた。
「シェリーが望むのなら、連れ去ってもいいですよ」
一瞬、何の事だか悩んでしまったが、誘拐されたときに口走ってしまった事だろうと思い直す。
「ごめんなさい」
弱音など、吐いてはならない。
自分が決めたことだから。
「何に対しての謝罪ですか?」
いきなり謝る私に疑問を投げつける。
「私は女王です。それは、私がなんと言おうと今は変わることが出来ません。だから、弱音を吐いてしまった事への謝罪です」
途端に、彼は顔を悲しそうに歪ませた。
私の返事が気に入らなかったようだ。
椅子から立ち上がり、こちらに向かってきて私の前に立つと、彼は私を抱き締めた。
ぬくもりが心地よかった。
「シェリーは溜め込みすぎだし、自分がやらなきゃ、って思いが強すぎ。シェリーが出来ない事は、周りに任せればいいんだ。それに、たまには愚痴ったっていいんだ。溜め込んだって、良いことは無いんだよ?」
私の肩に顔を置き話すアルベルトは少しくぐもった声を出したが、その内容は私を気遣うものだった。
私は涙が溢れてきた。
小さい頃から努力を欠かさず、賢人と呼ばれるまでに成長した。
その時から私は弱音の吐けない子供だったように思う。
私は彼の言葉が嬉しかったのだ。
弱音を吐いて良いのだ、と言って貰えたようで。
「ふふ、ありがとう」
心からの感謝だった。
私の肩口でアルベルトが固まった気がした。
どうかしたのだろうか、と頭を動かすが、頭部しか見えない。
「あぁ、もうダメ。可愛い」
「ん?」
ぼそぼそと何か言っているように聞こえたが、聞き返しても何も反応はなかった。
不思議に思ったが、この空気が壊れるのが嫌で、詮索はしなかった。
私達は暫くの間、その状態でいた。
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