第12話 蛇使いルナ
ぴちゃっ、ぴちゃっ、という水音で目を覚ました私は辺りを見回して絶句した。
四方八方を4メートルはあるであろう壁に塞がれ、窓は1つも見当たらない。
否、元から作られていないようだ。
あるのは、先程から
口元には布が宛てられ、辛うじて目隠しがされていない状態である。
しかし、天井から垂れてくる水で足元はびちゃびちゃなため、濡れたドレスが水を吸い、冷たい。
もう一度辺りを見回すと、見たことのある顔を発見した。
彼女はたしか、ホーン子爵令嬢だったと思う。
近寄って話し掛けようにも距離があり、足も縛られてしまっているため、動くことが出来ない。
仕方がないので、近くの女性に話し掛ける事にした。
まずは右隣の女性に話しかけた。
彼女は、とても綺麗な容姿をしていた。
黒い髪に赤い唇。
小さい顔に小さな鼻。
肌は私と同じかそれ以上に白い。
ここに捕らわれているにも関わらず、彼女の紫色の瞳には力強さがあった。
まるで、絶対にここから出られると確信しているように。
「ねぇ、貴女。どうしてここに居るの?」
ここに私を女王だと知っている人は少ないだろうし、知られてしまっても困るため、いつも語尾に付けている貴族令嬢特有の〝だわ〟や〝かしら〟等は取る。
私としては、いつも付けていたいものでもないから
「……」
少女?(見た目は同い年くらいに見える)は一向に喋ろうとはしなかった。
「そうね。まずは自己紹介しないとね。私はシェリー。貴女は?」
流石に、シェルナリアと言うのは
彼女は私が名乗ると、重たい口を開いた。
「…私はカレリナ。カレリナ・ストルーベルト」
彼女はカレリナというらしい。
年齢を聞くと、
なんと、18歳らしい。
私よりも年上な事に驚く。
「貴女はどうしてここに捕らわれてしまったの?」
私は早速情報収集を始めた。
聞いたところによると、カレリナの婚約者が格好いいため、僻まれていたようだ。
そして、一昨日、僻んでいた貴族令嬢の筆頭であるキルチェナ伯爵家令嬢にベルバナ・キルチェナに騙され、ここに連れてこられたらしい。
カレリナの婚約者は侯爵家の人間でもあり、溺愛されているようで、助けに来てくれることを信じていたため、こんなに強い目が出来るのだと納得した。
私はいるだろうか。
無条件に愛し、愛する人が。
次は左隣の女性に話しかけた。
彼女は彼女で、とても可愛らしい顔をしていた。
先程の私達の話を聞いていたからか、直ぐに名前やここに来た経緯を話してくれた。
名前はセルビナ・ヒェルマーンというらしい。
聞いたことがないため、出身を聞けば、かのデザール王国から来たようだ。
年齢は21とだいぶ上だった。
なんと身分は公爵だったようで、夜会で拐われてしまったらしい。
この組織は他の国からも美女達を拐ってきている。
今まで問題にならなかったことが不思議だ。
何か、強力な権力が動いているようにも思える。
セルビナは、私に経緯を話している内に恐怖が出てきたのか、涙目になってしまった。
「ごめんなさい。泣かせるつもりは無かったのだけれど…。辛い記憶を思い出させてしまいました」
「いいえ、いいえ。こちらこそ、突然泣いてしまってすみません」
セルビナは目に浮かんだ涙を拭い、こちらを見た。
「シェリーさん、私、面白い事を知っているのよ」
セルビナははっと思い出したように目をきらきらとさせている。
「シェリーでいいわ。面白い事とはなんですか?」
シェルナリアは胸がドキドキするのが分かった。
「分かりました。で、ですね、私には友達がおりまして、その子は、この時間に来るのです」
「友達?」
「ええ。彼女はとても小柄なため、ひょこっと来るのです。この床は1つだけ小さな穴が空いているのです」
「そうなのですか?それは、見たみたいですね!」
私は、手を挙げて喜びたいが縛られているため、出来ない。
がたっ、がたがたっ、と音がしたかと思ったら、床に小さな穴が出来た。
そこからでてきたのは、黒々としていて、ぎらっと目を光らせている蛇だった。
しゃー、と威嚇し、一匹、二匹、三匹と次々出てきた。
八匹程出てきて、止んだ。
その後に出てきたのは、10才程の小柄な女の子だった。
「あら、新人さん?」
しかし、その小柄な体格とは裏腹にその声は大人びていた。
蛇は少女の体中に巻き付き、こちらを見ている。
「ええ。最近、連れてこられました」
「そうか。残念だ。この穴は私位でないと抜けられない。私にはどうすることも出来ん。すまんな」
蛇の少女は眉毛を下げて謝る。
「いいえ、問題ないです。ところで、その蛇の中に縄を溶かせる
少女は私が言うことに驚いたようだ。
目を見開いている。
「すみません。ここに連れてきているのは毒の無い蛇なのです。猛毒を持つ蛇はいるのですが、ここに連れてくるのは危険極まりないので」
「そうですか。いえ、仕方がないですね。ここにはか弱い女性ばかりですから」
「ええ。…あぁ、名乗り忘れていましたね。私は、ルナ。只のルナです。巷では、蛇使いのルナ、と言われています」
薄茶色の女性はルナという名前らしい。
只の、ということは何か訳があって、名乗れないのだろうか。
「ルナさんですね。私はシェリー。シェリーでいいです」
「私もルナでいいです。シェリー。では、そろそろ行きます。あまり長居をしてしまうと気付かれてしまうので」
ルナは頃合いを見て、帰って行った。
辺りは嵐が過ぎたように静かになった。
「ね?面白かったでしょう?」
セルビナは嬉々としてこちらを見た。
「ええ。面白かった!こんなにスリルを味わえたのは初めてよ」
私の顔には笑顔が浮かんでいた。
こんな時なのに。
否、こんな時だからこそ、か。
☆★☆
油断しているときにこそ、災いというものはやってくる。
ぎぃと扉が開いたときに入ってきた男と目が合ってしまった。
男は女性達の合間を歩いてくる。
そして、私の前に来て言った。
「ご無事ですか」
と。
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