第10話 またまた怪盗

時は後宮作ろう事件から、早1週間後の1月24日となった。


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本日、夜中の12時。

ボーダン男爵家にて、血塗られた硬化石ブラッドダイヤモンドを頂きに参ります。

怪盗ステラ

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「このようなものが届いたのです。最近、女王陛下は怪盗退治のようなものを為さっていると伺いました。どうか、どうか、ブラッドダイヤモンドを守っていただきたいのです。」


ボーダン男爵家。


狸顔の親父が特徴の男爵だ。

代々、腹黒い文官を輩出してきた名門だ。

しかし、裏からの根回しとの噂も絶えない。


つまり、評判の良い家とは言えない。

だからこそ、男爵止まりなのだ。


「分かりましたわ。本日ですわね。参りましょう」


私は、今日こそボーダン男爵の家の秘密を暴こう、と行くことを許可した。

どちらにしろ怪盗ステラを見過ごす事は出来ないのだ。


それを分かっているからこそ、私は何処か寂しく感じていた。


☆★☆


時は進み、今は11時50分に差し掛かっていた。

王都にある、馬鹿デカイお屋敷に私はいた。

今回はガラス製のケース、ではなく、コンクリートでコーティングされたプラスチックのケース(中は縦3㎝、横10㎝の隙間から見える)の中に中を見るための隙間からは取り出せない程大きなブラッドダイヤモンドが入っている。

取り出すためには、20桁の暗証番号と魔法で作られた顔認識システムを突破する必要がある。

今までの失敗をかてに、グレードアップに勤しんだ。


男爵が近づいてきて、その小さな身長で背伸びをし、私にささやいてきた。

この時初めて気づいたが、男爵は異様に小さい。

私は152㎝なのだが、男爵はそれよりも小さく、見たところ145あるか、ないか、というところのように思える。

思わず笑えてきて、必死にニヤニヤを止める。


「女王陛下。今回こそは大丈夫そうですな。警備の人達は25人程配置させて居ますが、ここには10人配置します。女王陛下はどちらで警備に当たるおつもりですかな?」


この狸男爵の息が私にふっふっとかかり、背中が震え、鳥肌がたった。


「近いですわ、男爵殿。私はここで警備に当たりますわ。怪盗ステラは女好きとの噂がございますわ」


扇をぱっと開き、男爵との間に壁を作る。


「いやはや、女王陛下はよくご存知ですな。では、頼みますよ」


男爵の表情は笑っていても、目の奥が笑っていないことに気付き、何かあると確信する。


その時、かちっと時計の針が動く音が自棄やけに響いた。

普段はこんなことなど有り得ないのだ。

違和感が私を襲う。

男爵は配置を見回し、去っていった。


時計に目を向けると、針は59分を指し、秒針がかちかちと動いていた。

それも残り3秒となる。

2秒。1秒。


ごーんごーん。


ごくり、と唾を飲む音が大きく聞こえる。

因みに、私は今何処にいるのか、というと…。

まだ、秘密にしておこう。


回りの警備員はじっと辺りを見渡していた。

しゅーと音がして、なんだ?と思う前に目の前は白い煙で一杯になった。


睡眠ガス。

急いで腕で鼻や口を覆った。

バタバタと1人、2人倒れていく音がする。


やがてその音も聞こえなくなると、今度はかつかつと靴の音が聞こえてくる。

私は足音を立てないように、慎重に音の聞こえた方へ足を進める。

そう、私は隠れていたというよりは闇に紛れ込んでいたのである。

月明かりはなく、真っ暗で何も見えない。

しかし、足だけは動かした。

音が止まる。

着いたのだろうか。


私も歩くのを止めた。

ぐいっと後ろから手を引かれた。

前屈みになりながら歩いていたし、後ろなど警戒もしていなかった体はその力の向きに動く。

ぽすっと入ったのは誰かの腕の中。

頭の上で呼吸をする音が聞こえる。

と、同時に心臓の音も聞こえてきた。

誰の腕かは何となく予想がついたが、確信が持てず、黙っていた。


「シェルナリア様」


初めに口を開いたのは、怪盗ステラだった。

やはり、と私は思う。


「離して」


抵抗をするように、強気に言う。


「ふふ。可愛いですね。口では強気に言っていながら、体は素直ですよ」


笑うと余計に息がかかった。

顔中が熱くなった。


「う、うるさい」


せめてもの抵抗に、と反発する。


「シェルナリア様は、私のことをどう思っているのですか?」


突然の事に、声が出なかった。

どう思っているか、等愚問である。

それなのに私からは大嫌い、の一言が出ては行かなかった。


「……どうも思ってないわ」


仕方なく、興味がない振りを装った。


「残念です。私はこんなにも貴女を愛していると言うのに」


いかにも、残念だという雰囲気を全面に出し、怪盗ステラは言った。

しかし、本気で口に出しているようには思えなかった。

私は早くこの話題を終わらせたくて、話を変える。


「今日は貴方に盗ませないわよ」


「良いですよ。今日は貴女に会いたくて、予告状をおくったのですから」


「な、何を言ってるの。私は、貴方の事なんて……、何とも思ってないわ。むしろ、大嫌いよ」


先程は出てこなかった言葉が、思わず口から出てしまう。


「私は、好きです。貴女のこと」


今、何て言った?

彼は、好きと言った?

誰を?

私を?

頭が混乱している。

まさか、彼が私のことを好きだとは思っていなかった。

いやいや、よく考えてみなさいよ。

私と彼が出会ったのはつい最近よ。

そんなこと、あるわけないわ。

と、思い直す。


戯れ言ざれごともいい加減になさいな。私を手駒てごまにするつもりだろうけど、そうはいかないわ」


私は確信を持って言い放った。


「いいえ。私は貴女を愛しています」


私は顔に熱が集まるのを感じた。


「ば、馬鹿なことをおっしゃらないで」


「何も馬鹿ことを言っていません。全て本心です」


彼は不意に私の前でしゃがみこみ、右手を取り、「シェルナリア様に忠誠を」と言うやいなや、その指先に口付けた。

突然のことに反応が出来なかった私は、彼が去っていく背中を見つめていた。


彼は宝石には目もくれず、宣言通り私が目当てだったように見せていた。


扉が付近で足を止めた怪盗ステラは振り返り、「さようなら、シェルナリア様」と前回とは打って変わり語で言い、夜の闇を駆けていった。


この時の私は気づいていなかった。

自身の感情にも。

彼の秘密にも。



☆★☆


後日。

怪盗ステラは時計に睡眠ガスを仕込んでいたらい。

そして、盗まれなかった事実にボーダン男爵は両手を上げて喜んでいた。


結局、怪盗ステラの今回の目的はなんなのかは分からずじまいとなった。


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