3-19

 整えられた街並みと打って変わり「輝石領」の外延部には異様な光景が広がる、それは大量のだった。


 よく見ればそれらは雑鬼コブリン鋭鬼オーク奴隷コーボルトと言った亜人を精巧に模したものである事が判る。すべてが武装した兵士達であり騎馬武者や、魔獣と言ったモノまでが混じり、壮大な戦絵巻を石像群で再現したかのようだ。

 だがすべての石像達の姿勢、その表情は、どれもが勇壮さとはかけ離れ、恐怖、苦悶、絶望に満ち、逃げ惑う姿がモノばかり。稀に怒りに満ち、武具を振り上げたモノも存在するが、大半が砕け散り、長い年月の風雨に晒され、表面が磨滅して原型を留めていない。


 逃げ惑う亜人の軍勢を再現した石像群。


 それはこの領土が「輝石領」と呼ばれる要因の一つである。


 輝石領主は己の軍勢にコカトリスと呼ばれる蛇の尾っぽを持つ巨大なニワトリの姿をした魔獣を従えている。

 これに噛まれたモノはその毒で徐々に体が石に変わり果てる。広がる領土外延から離れて街道や山野に転がる石像はこの魔獣の毒にやられ石に成った敗走者達だ。

 だがコカトリスには一瞬で軍勢を石像に代えるの程の能力は無い、バジリスクと呼ばれるさらに大型の蛇に似た魔獣なら一瞬で石に変えると言われるが、それでもこの数は無理がある。周到に用意された大魔法の儀式による効果だろうか?


 まるで時間の一瞬を切り取ったような石像群はいかにして誕生したか?


 それは亜人「竜の血筋」が持つ「牙」の能力によるものだった。


 「牙」が見せる力、真性には個々に特徴がある。火や雷といった直接的に破壊を生み出すものもあれば、死者を操り、原始から得体の知れない「何か」呼び出す「牙」も存在すると言われる。


 輝石領主の「牙」には相手をに変える能力があった。領主は牙の真性を用いて攻め寄せる亜人軍勢を一瞬にして石に変えたのだ。

 だが彼の「牙」の能力はそれにとどまらない、むしろそれこそが「真性」であり領主の異常な性癖を体現し、「輝石領」と呼ばれる由来と言っても良い。

 領主の「牙」は生き物を石では無く、水晶や宝石といった物に変える事も出来た。

 領内には「水晶」で出来た動物、魔獣、といったオブジェを見る事が出来る。ほとんどは輝石領主が「狩り」で仕留めた獲物達だ。稀にではあるが人、亜人と言ったオブジェも存在し、それら精巧な彫像たちによって領内は飾られ、外の石像群と共に領主の力を内外に示した。


 だが輝石領主にとって、そんなモノは「遊び」であり重要なモノでは無かった。

 彼には季節の「特別な一皿」以外にもう一つ大事なモノがあった。


 それは己が選び抜いた生き物達を「宝石」化したオブジェだった。


 彼は居城の一室にそれらを収納し、毎日の様に愛でていた。その数6体。ほとんどが亜人、もしくは人の女性だった。領主が生きて来た時間と比べれば、その数の少なさは、どれほど素材になる生き物の容姿に拘った事が伺えた。これこそが「輝石人」創造の目的あり、「輝石の儀」とは領主が戦や狩りといった事と分けて、「牙」を己の嗜好を存分に満たす為に使う特別な事を表す。


 レティシアは場の勢いで気が動転した領主に半ば確信を持って願い出た。本来は領民ごときが願い出て行われるような事では無いが、領主自身が欲しった姉ジルと、死に至らんとする英霊の巫女を救うため、宝石にして二人の時を止めたのだ。


 全ては領主様のため。


 レティシアはそう教えられ育ってきた。領内の全てがそれを中心に回っていた。


 だがレティシアは在る時、そうした考えに疑問を持ってしまった。

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