ブライド プレパレーション(Bride Preparations)

蒼月狼

花嫁戦記1 輜重隊

夕食のお味

 東の夜空を太陽が白く照らし出す数刻前。


 駐屯地から前線砦に物資を搬送するため荷馬車十数台からなる輜重隊しちょうたいの列は、林道脇に設けられた広場でその日の行軍を終え、予定した休息に入った。

 地面が剥き出しとなり踏み固められた道は、深い森に切り開かれて長い時が流れた事を意味していた。


 この道の先にあるのは「チカラの神」の眷属、亜人デームと「調和チョウワの神」の眷属、ヘムが戦を繰り広げる最前線。


 一日中、重い荷車を引いた馬達は拘束を解かれ、設けられた餌場で水を飲み、馬草をはむ。

 周囲では点々と火が起こされ、隊員達が簡易な夕食を摂り早々と眠りに就こうとしていた。


 そんな焚火の一つ。


 輜重隊しちょうたいの護衛として雇われた亜人デームアリアは、奴隷達コーボルトが鍋で沸かした水に干し肉、硬いパンと少しのハーブで作った料理を味わいながら、「不味い携行食をこんなにも美味しく調理できるのか!」と彼等奴隷を勧めた「鬼変りオゴロ」の奴隷商人に感謝した。

 「力の神」の眷属でありがら、世界シア最弱と呼ばれる彼等コーボルト、今も休む間も与えられず隊員の食事や寝床の世話をし、馬達の世話と駆けずり回っている。

 小さな体躯に犬が直立し様な姿形、彼等コーボルトは「オオカミの血筋」なのだと言う。犬は「オオカミの落とし子」と言われる「」だから、それは確かなのだろ。

 「郎党クラン」の戦力としては全く心許ないが、亜人デームと言わずヘムにまで受け入れられ、生き残っているコーボルト奴隷の有意性を得心する。

 アリアは料理を夢中で口に運びながら、「花嫁道具郎党」のとして、彼等コーボルトの存在を欠く事は出来ないと思った。


 もう一組の傭兵達と交代で食事を摂った後、アリア達は先に仮眠をとる予定だ。


 焚火に照らされた、ふわりとした髪質の赤いショートヘアが彼女を愛らしく見せるとすれば、額の両脇辺りから優美な曲線をもって突き出る「竜角」と呼ばれる外見上の「竜の血筋」を示すの特徴は、「冠」のごとく彼女に威厳と気高さ、気品を与えていた。

 「人離れ」している亜人デーム達に於いて、アリア竜の血筋の容姿はヘムに近いと言われる。

 むしろ人側竜の血筋の容姿は、まるで亜人デームの様な姿らしい、それは三柱から受けた加護の違いのせいだ。

 アリアデームは「力の神」から「キバ」の加護を授かり、人側竜の血筋は「調和の神」から「ウロコ」の加護を与えられた、だから容姿が「竜」に近いのだろう。


 形の違いは在れど、いづれも比類なき神の加護。


 調和チョウワチカラ自由ジユウ


 三柱ミハシラと呼ばれる3人の神が創造した「」と呼称されるこの世界。

 神の眷属で「竜の血筋」と呼ばれる者達は「ウロコ」「キバ」「タマ」と言う属する神によって、それぞれが異なる加護を受けてこの世に生まれてくる。

 特に「力の神」の眷属であり「牙」の加護を受ける亜人デームの「血筋」は「」の中で最も恐れらるドラゴンと同等、それ以上とヘム亜人デーム共に恐れられた。

 「力」在る事が尊ばれる亜人社会に於いて「竜の血筋」は支配者と同等の意味を持っているのだ。


 献身的に働くコーボルト奴隷、わずかに出来た合間に夢中で自分達の食事をする彼等コーボルトの焚火の輪に、ふとアリアは加わり、余興代わりの世界シア創生の神話を語った。

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