第2話 世界と世界樹と最初の人間

 草原のど真ん中にパソコンがあった。


 小さめのちゃぶ台の上に、何かの映像を映したディスプレイとキーボードとマウスがあり、そのちゃぶ台の横にケーブル類で繋がれたパソコンの本体も有り、草原の真ん中にそれら一式がでんと置いてあった。


 なんだこれ……

 何故に草原にパソコンとちゃぶ台が?


 不思議に思いつつ、ぐるっと周りから観察してみる。

 特に変哲もないパソコン一式の様だが、画面が映ってるのと電源ランプが点灯してるのを見ると、何処から電気を取ってるのかという疑問が湧く。

 電源ケーブルとコンセントが無いのになんでだ……?


 画面には、何かのゲーム物のスタート画面が表示されている。


 タイトルは「ワールドエディター」となっているが、今までやった事も聞いた事も無い名前だった。

 名前から推測するに、箱庭系のシミュレーション物か?

 背景に何か惑星のような絵も見えるし、たぶん惑星開発系か何かだろう。


 嫌いなタイプのゲームでは無いな。


 コーヒー片手にのんびりやったり、コーラーとポテチをお供にダラダラとプレイするのが楽しそうなゲームではある。


 この、夢なのかファンタジー空間なのかよく分からん場所で、出現した唯一の物なのだし……

 少しやってみる……か?


 よっこいせっとちゃぶ台の前に座り、マウスでカーソルを操作し、画面に表示されているSTARTと書かれているボタンをクリックした。

 すると、1つの惑星が画面の中央に表示され、その上に『星の名前を決めてください』とポップアップ表示がでた。


 名前か……


 RPGとかのゲームでも主人公や仲間に名前付けるのは苦手なんだよな……

 そもそも今、自分の名前さえ分からないんだが。

 うーん……地球……は、さすがに無いな……


 そのまま悩み続けて20分ほどして「アーク」と決めて、キーボードで打ち込んで決定ボタンをクリックした。

 うん、シンプルで良い名前だよね……


 その後、何の演出やストーリー説明も無くゲームが開始された。

 ふむ?これはクリア条件とかは無くて、プレイヤー本人が飽きた時がクリアってタイプのシミュレーション物なのかな?


 画面の左脇に様々なマークの付いたアイコンが幾つも有り、右側には惑星の状態やステータス関連の表示、あとは時間の進行速度や画面操作用のパネルらしき物がある。


 画面の雰囲気は、だいぶ前のスーパーなファミリーのコンピュータな感じの古臭いドット絵と、簡易な3D表示とを組み合わせた表現で描写されている。


 とりあえず、惑星の状態を見てみると、まるで地獄の様な光景だった。

 惑星の表面には水の海なんて物は無く、代わりに真っ赤に灼熱した溶岩と思われる物が覆い、所々にある陸地の様な所も赤銅色の土があるのみだった。

 惑星の周りには月と思われる衛星が1つ周囲を回っているが、こっちも似た様な状態だ。


 これは……まだ出来立てほやほやの星なのかね?

 うーむ、どうすればいいんだ……

 ひとまず、人や生物が生息できる環境を目指してみるか?


 地球みたいな環境の出来方って、どんな感じだったっけ……


「んー……先ずは、水……かな?」


 水がなきゃ生物の生息なんて無理だし、ついでに温度も下がるだろう。


 何か良い物はないかと右側のアイコンの付いたボタンを見てみると、お天気マークの様な物が有った。

 それをクリックすると晴れや雨や雷、それに竜巻?などの様々なマークのアイコン類が展開される。

 雨で水を大量に降らせればいいだろうと、安直な考えで雨マークのアイコンをクリックしてみると、今度は数値を入力する画面が現れた。


 なんの数値なんだろう?降水量とかか?


 特に考えもしないで100とだけ入力してOKボタンを押す。

 すると、何処に降らせるかの問が出たので、惑星の中心付近をクリックした。

 暫くすると指定した辺りから、もくもくと雲のようなエフェクトが広がって行き、惑星の5分の1程を覆う大きさまで広がっていった。


 結構、広範囲だな。

 これなら何回か繰り返せば全域で雨を降らせられるかな?

 そう考え、同じ事を5回ほど繰り返すと、惑星全体を雲で覆えた。


 地表の様子が気になったので、視点移動を駆使し雲の下まで視点を移動させ観察してみると、結構な降雨量の土砂降りの雨が降り注いでいた。


 地表の温度が冷えて海が出来るまで暫らく掛かりそうだったので、時間の経過速度を早めて、1秒1年経過くらいの速度にして少しの間眺めていると、雨を降らす時に入力した数値の意味が、何となくだが判明した。

 どうやら雨を降らす年数の数値だったらしく、100年ほど経過すると惑星全域を覆っていた雲がだんだんと減り、地球の様なマーブル模様になって、上空からでも地表が疎らながら見える様になった。


 しかし、地表付近を見てみると海らしき物は出来始めているようだが、その海の様子は気泡と土で濁り、大量の蒸気を上げながら煮えたぎっていた。

 環境などの数値を見ても、まだまだ生物が生存できる様な環境では無いようだ。


 何回か天候操作で雨を降らしながら、経過速度をさらに早めて時間を進め1億年ほど様子を見てると、赤茶けた大地と青い海で覆われた美しい星になってきた。

 まだ少し気温も高いし火山活動などが活発みたいだが、大体の大陸と海の形は決まってきたみたいだ。


 大きな大陸は三つあり。


 北極に四角に近い形の大陸。

 北半球の東西に伸びる広い大陸。

 南半球側に南北に広がる大陸。


 なんか、形状を見ると北極の大陸は北海道に、東西に長いのは本州に、南北に長いのは九州に似てるな……


 どうせなら日本の地形の形にしてしまうか。


 アイコンの中から地形操作と思われるマークを探し、地面を隆起させるツールと沈降させるツールとを使い、毎朝見ていたであろう天気予報などに描かれていた日本地図を思い浮かべながら地形を整えていく。


 一通り似た形になったなと満足した後に、四国や沖縄などが無いことに気が付いたので、沖縄は南の島なんだし南極で良いよね!と南極に作った。

 四国は、しばし悩んだのちオーストラリアに似てるよな!と思い、本州大陸の南東の南半球側に作った。


 うーん、こんなものかな?

 でも、九州大陸の西側の海域が寂しい気がするな……

 もう少し陸地が欲しい。


 もう一つくらい何か大陸を作るかと思ったのだが、もう候補が思い浮かばなかったので、暫し悩み、ムー大陸的な物でも作るかとの結論に至る。


 ムー大陸……幻の大地……うーん、どんな形にするか……

 誰も知らないような所か……となると……茨城県?


 都心に近いのに、観光地の人気最下位付近をフラフラとしてるし丁度いいか。

 ついでに南にパナマみたいに細く伸ばして、その先に千葉も付けてチバラキ大陸と名付けよう。

 後は、伊豆大島とかの島々を、ちょいちょいと飾りつけの様に作るか。

 これで完成かな?


 大陸と島々の出来栄えに満足したところで、経過年数を見ると2億年を突破しており、気温も人が生存できそうなくらいにまで下がっていた。


 でも、この後はどうすれば良いんだ?

 何か原始生物の誕生を待てばいいのか?

 もしくは何か配置すれば良いのか?


 と、考えながらクリエイト系と思われるアイコンを見てみると、人の形をしたマークの付いたアイコンが目に入った。


「これで人を配置できるのか……?」


 見つけた人の形をしたマークのアイコンをクリックしてみると、色々と設定出来るようだ。

 カテゴリー毎に分けられていて、種族もファンタジーな種族からSFチックな無機生命体まで様々な種類が有り、それぞれに年齢や性別などの設定も付け加えて作れるようになっている。


 とりあえずは様子見だし普通の人間でいいかと考え、観察し易いように時間の進行速度を緩めた。

 そして、カテゴリーを人に、種族を人間にして、年齢は20歳の男性と設定してOKボタンを押し、本州大陸に配置してみた。


 「よし、がんばれアダム君!」と適当に名付けた人類第一号にエールを送りながら、彼の行動を観察する。

 しかし、数日もすると何故かアダム君は動かなくなってしまった。


 あるぇ?どうしたんだろう?とアダム君のステータスを確認してみると、なんと彼は死亡していた……


 なぜだ?


 気温もギリギリ耐えれそうな温度で、水場になりそうな川の近くに配置してやったというのに?

 暫くは動いて活動していたから事故か?

 何か動物に襲われたとか?

 いや、動物どころか草木も何も無いんだぞ?

 まだ原始生物だって生まれているかどうか……


 ん?……動物どころか草木も何も無い……?


 しばし地表の観察をしてみる。


 うん、本当に何も無いな……

 あるのは剥き出しの土や岩だけだ……


 ……死因は餓死か。



 さ! 気を取り直して、人なり動物なりが生きて行ける環境作りだな!

 アダム君の尊い犠牲により、問題が明らかになった訳だしな。


 だが、環境作りとは言っても、どうすれば良いんだ?


 そういったツールか何か無いかと探したのだが、アイコン類が多すぎて、どれが何なのかが不明すぎる。


 説明書は無いのか?


 俺はゲームをやる時は説明書を読まない派だが、困った時は読む派でもあので、さっそく説明書などを探す事にした。

 探してはみたが、ちゃぶ台の上にも下にもそれらしき物は無い、近くを見回しても草原の草だけだ。


 こんな感じのゲームは、いくら分かり易いデザインになっていても、操作できることが多すぎるので、マニュアルやチュートリアルが必須だと思うのだが……

 いやまて、これはパソコンだし、中にドキュメント方式の物かヘルプ機能が有るかもしれない。


 ヘルプ機能は見つからなかったが、画面を縮小化して探してみると、それらしきファイルを見つける事が出来た。


 どれどれ……世界を創造し、高みを目指しましょう……?


 このゲームの目的とかコンセプトかな?

 まぁいいや、この辺は読み飛ばそう。


 む? これかな?


 創造したい生命体に合わせた環境を作り上げるオブジェクト


 そういう物があるのか。


 ふむふむ……GPを1000使い、配置した周辺の環境を徐々に作り変える……環境構築ブジェクトか……


 便利そうだ。

 便利そうなんだが……


 GPってなんだ?


 そんな疑問が浮かび、画面を最大化してそれらしき数値を探してみると、左の様々なステータス数値の中にGPの項目があった。


 あったのだが……残り1024しか残っていない。


 ちょっと待って……

 もしかして今までやってた操作にもポイントが使われてたの?


 再度、説明ドキュメントを読んでみると初期数値は10000で、やはり天候操作や地形操作にも使われてたらしい事が分かった。


 残り1024かぁ……


 環境構築オブジェクトとやらを作ってしまうと、残り24しか残らない。


 人などの生物は最低1ポイントで作れるみたいだが、それでも最大で24人しか作れないのか……


 GPの説明を読んでみると『God Point、様々な事象の変更や物体の生成に使います』とだけ書かれていた。


 え? 増やし方とかは? どうすりゃいいの?


 調べてみても、他に記述は無い。


 どうしたもんか……


 悩んでいても仕方ないし、とりあえず環境構築オブジェクトを何処かに配置してみるか。

 生物が発生しそうな環境さえできれば、人間じゃなくても原始生物が生まれて進化して知的生物になるかもしれないし、何かポイントを増やす方法もあるかもしれん。


 しかし、設置場所は何処にするか悩む……

 どのくらいの範囲の環境を整えてくれるんだろう?


 惑星全体なら良いんだが、そうで無かった場合を考えると、手頃な広さの土地の方が良いな。

 たしか、本州大陸の南に伊豆大島に似せた大きめの島を作ったはずだし、其処にするか。


 画面を操作して、島を表示してからツールアイコンの中から環境構築オブジェクトのアイコンをクリックした。

 すると、設置できるオブジェクトの一覧が表示された。


 ピラミッドみたいな物

 黒くて四角い長方形の板状の物

 赤いマグロの切り身の様な模様の二重螺旋の形をした奇妙な物


 と様々な物が有るようだ。


 どれも効果は同じなのか?それとも、それぞれに違うのか?と考えながら見比べていると、大きな樹木が目に入った。


 これは、良くファンタジー物とかで出てくる世界樹って奴かな?


 うん、いいね世界樹。


 安直ではあるが、たぶん自然とかそんな物を作り出してくれそうだしな。


 これにしよう。


 一覧の中から世界樹を選択し、島の中央には火山があったので、島の東側にある平原に設置した。


 時間の進行速度を少し早くして観察していると、最初は小さかった世界樹がだんだん成長し大きくなるにつれ、周囲に草が生え、花々が咲き、さらには木々も生えて果実を実らせ始めた。


 よしよし、いい感じになってきた。


 これならそろそろ、人を配置しても良さそうだと感じたので、時間の経過速度を緩めて、ユニット作成ツールを開いた。

 またアダム君みたいにならないように祈りながら、今度は十八歳の男の人間を世界樹の傍に配置する。


 ゲーム内時間で1ヵ月程観察してみたが、どうやら順調に生活出来ている様だ。


 世界樹の周りをうろうろしてから、そこら辺の草や果実を食べ始め、夜になると寝て、朝には起床するという生活サイクルが見られた。


 これなら大丈夫そうだ、GPも残り少ないから無駄にならなくて良かった。


 さてと、次は繁殖だな。


 GPを使っての人口増加は現状では難しいし、男女で色々とにゃんにゃんして増えてくれるなら、その方がありがたい。

 というわけで、ユニット作成で人間の十八歳の女性を配置してみた。


 最初は両者とも警戒していたのか、共に近寄る事はしなかったが、数日経つと男の方が女に接触しようと行動をし始めた。

 よし、頑張れ!と応援しながらその様子を見ていたのだが、男が近寄ったとたん女が男を殴り、男の方が動かなくなってしまった……


 どうしたんだと、男のステータスを確認してみると彼は気絶していた。

 どうやら女に殴られて昏倒してしまったらしい。


 大丈夫だろうか?と少し心配してたら、暫くしてから起きて動き始めたので安心した。

 しかし、異性とのファーストコンタクトがこれかぁ……

 前途多難な気がするなぁ……


 ダメそうなら1~2人増やしてみるかと考えながら二人を観察していると、数日間は進展はなかったのだが、まだ安定しきってない気候のせいか、大きな嵐が島を襲った。


 空は分厚い雲に覆われ大粒の雨が降り注ぎ、強風が吹き付け、雷が轟音と共に辺りを照す。

 その生まれて初めて見る光景と現象に、女の方は世界樹の根本で怯えて動けなくなってしまっていた。


 男の方は一ヵ月程先に生れた事もあり、多少は天候の変化の経験を積んでいた。

 とはいえ、彼自身もここまでの嵐は初めてだったはずだ。

 だが、それでも勇気を振り絞り、恐怖で動けずにいる女を助けようとする様子が見て取れた。


 食べ物を集め

 風雨をしのぐ為か大きな葉を彼女の体に被せ

 そしてその上から女を守るように抱きしめていた。


 嵐は丸二日続き、その間、男は女を守り通した。



 その後は、もう二人はラブラブであった。


 様々な場所で、時間と所かまわずハートマークのエフェクトが出る様な行為をするようになった。


 うーん……これが吊り橋効果と言うのだろうか?違うか?


 まぁいいか、問題は解決したのだし。


 若干、二人のイチャつき具合にイラッとしたが祝福して見守る事にしよう。

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