第30話 エルフの森とエルフの女
ミレノアールは100年以上も前に、この場所に来たことがあるのを思い出した。
「し、師匠……エルフって襲ってくるの?」
「人間嫌いって言われているが、こっちが何もしなけりゃ襲ってこないさ」
奇抜な仮面を被り、武器を持ったエルフは不気味に見えたのだろう。
ルーシーは怯えながらミレノアールの後ろに隠れた。
「こいつらが世界を滅ぼすのか?」
「どっちも大して魔力は感じないぞ」
「子供の方に至っては全く魔力のないただの人間だろう」
「だがポポス様の予言は絶対だ」
エルフたちは口々に騒ぎ立てた。
「俺の名は、ミレノアール。人間の魔法使いだ。こっちのは魔女……
「ル、ルーシー・パンプキンです。この子はかぼちゃのジャック……」
そこまで聞くとエルフの中の一人が口を開いた。
「くっ! あの方を語る偽物め! ……ここは私が話す。皆は手を出すな!」
その声は明らかに若い女性のものだったが、周りにいたエルフは全員頷いた。
顔は仮面で隠れているが赤い髪をポニーテールにしていて、よく見ると体型からもそのエルフが女だとわかった。
「貴様が『世界を滅ぼす者』だということは分かっている。大人しく我々に捕まれば、命だけは助けてやらんでもない。抵抗すれば今すぐ殺す!」
そう言い放った女のエルフは、大きく一歩前へ出ると持っていた槍をミレノアールたちに向けた。
「ちょっと待ってくれよ。突然、何言ってるのだ? 俺たちはただこの森に迷い込んだだけなんだ。すぐに出て行くよ」
「黙れ、邪悪な魔法使い! 貴様たちが今日ここへ来ることは、ポポス様の予言により分かっていた。そして貴様がいずれ世界を滅ぼすこともだ。」
「意味わかんねぇよ! 確かに俺は、ずっと昔には『
ミレノアールは誤解を解こうと必死に説得を試みた。
「『
「成り済ます? いや俺は本物のミレノ――――ッ!!」
ミレノアールが話し終わるのを待たずして、女のエルフは襲い掛かってきた。
「その名を語るな! 偽物ー!!」
―――― ガキン!! ――――
ミレノアールは自らの剣で、エルフの女が突いた槍を弾いた。
しかし次の瞬間、ミレノアールの頭上から稲妻が降り注いだ。
―――― バリバリ!!! ――――
「ぐはっ!」
「ふん。この程度の魔法も凌ぎきれんで、あの方の名を語るとは不愉快も
女のエルフはうずくまったミレノアールを踏みつけると素早く左手で魔法陣を描き、ミレノアールの動きを封じた。
「貴様の正体がなんであろうとポポス様の予言に間違いはない。拘束して里に連れていくぞ。その子供も連れていけ!」
女のエルフが手際よく指示をすると、近くにいた大柄のエルフがルーシーの腕を引っ張った。
「痛い、痛い! 離してよ! 師匠ー!」
ルーシーの悲鳴が耳に届いた瞬間、ミレノアールは一瞬我を忘れるほど頭に血が昇った。
「ルーシーから手を離せー!」
ミレノアールはそう叫ぶや否や、体中にかつての魔力がみなぎるような感覚を覚えた。
全身に力を込めて目を見開く。
―――― カッ! ――――
(まさか、戻った……? あの頃の力が……?)
ミレノアールはまるで目覚めたかのように立ち上がると、コントロール出来なくなっていた魔力を解き放った。
その力はエルフの魔法陣どころか森を覆う結界までをも、あっという間に打ち消して見せた。
「なんだこの力は!? まさか本物?」
エルフたちもその一瞬の出来事にただ呆然といていた。
だがミレノアールは全ての魔力を解き放つと、ガクッと右膝を地面に着いた。
(クソッ! また力が抜けていく……)
ミレノアールの魔力が戻ったのもその一瞬だけ。全てを解き放ったせいで、またも魔力はすっからかんになっていた。
それでもたった一瞬その強力な魔力は、その場を掌握するには十分だった。
「ルーシーを離せ!」
大柄のエルフもその威圧感に臆し、ルーシーから手を離した。
「ふぅ……」
ミレノアールはその場で気合いを入れ直し、ぐっと堪える。
(今倒れるわけにはいかない)
今にも気を失いそうになるほどの脱力感に耐えていると、ふいに忘れていた過去の思い出が蘇った。
おそらく一瞬だけ魔力が戻ったのと、ここがエルフの森であるのがリンクしたのだろう。
ミレノアールはゆっくり立ち上がると、女のエルフの方を向き直してから、優しく微笑んだ。
「ふふっ。聞き覚えのある声だとは思ったんだが、あんなチビだったお前が随分大きくなってたんでわからなかったよ。エルフは人間の何倍も長く生きるって言うが、100年も会ってなきゃそんだけ成長してて当たり前か」
ミレノアールは少し照れくさそうにそう言うと、女のエルフの仮面に手を掛けそっとそれを外した。
「久しぶりだな、マシェリ」
「ミレ様……生きておられたんですか? 私はてっきり100年前の戦争で……ううっ……」
マシェリという名のエルフは、両手で顔を覆うとそのまま泣き崩れた。
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