閑話:見送る影二つ
「行ってしまったわね…」
アリシアは一人娘のアリスが丘の陰に隠れて見えなくなるまで手を振っていた。
私はアリスが見えなくなるのを確認してからひょっこり顔を出す。
「あなたと旅をしていた時が懐かしいわ。」
私に気付いたアリシアが声をかける。
「私も懐かしいよ、アリシア」
「それにしてもあなたはほんとに変わらないわね、元気にしてた?」
「元気だよ〜、それに私は私、いつまでも変わんないよ。でもアリシアは歳をとったかな」
「あっ、こっのー」
「やめれ〜〜」
アリシアは私のほっぺたをつまんでムニムニとしてくる。
まるで昔のやりとりのようで懐かしかった。
私が抵抗しているとアリシアが微笑む。
「それにしてもほんと久しぶり、もう少し会いにきてくれたっていいじゃないの」
「それはこちらにも事情というものがありましてですね…」
私がしどろもどろに答えていると一つ嘆息してアリシアはほっぺたを解放してくれた。
「まあ、あなたの事だし、仕方ないわね。」
私はムニムニされ少し熱をもったほっぺをさする。
「それにしてもあなたとの旅がもう十何年も前のことだなんて時の流れは早いものね…。」
なんだかアリシアは少し昔を思い出しているようだった。
「色々あったね、アリシア。アリスのこれからの旅が羨ましい?」
私はアリシアに悪戯っぽい笑顔を向ける。
「それはちょっとわね…。でもいつまでも私の好きにはできないわ。今度はちゃんとアリスの帰る場所になってあげなくちゃ。」
「うん、それがいい」
私は優しく微笑む。
帰ってくる場所がちゃんとあるってことは旅人にとってはとても有難いことだ。それはアリシアもちゃんとわかっている。
「あ、そうそう。あなたのためにおにぎり作っておいたわ、いるでしょう?」
アリシアはおにぎりを包んだ包を取り出す。
「おっ、気が効きますな〜、だんな!」
受け取ったおにぎりはまだ温かい。
私は鼻歌交じりにポーチへとしまいアリシアの方をもう一度見る。
アリシアは名残惜しそうに口を開いた。
「もう少しこうして昔話でもしてたいけど、そろそろあなたも出発しないとね…」
アリシアはほんの少しだけ寂しそうに言う。
「うん。そうだね、アリシア。帰ってくる時には土産話でも沢山用意しとくよ!」
「楽しみにしてるわ、それじゃあ、あの子をよろしくね?」
「はいっ!任せれました。では行ってきます!」
「えぇ、いってらっしゃい。」
私はアリシアに手を振って出発すると、旅路を少し急ぐ。
「ま、それ程遠くには行ってないと思うんだけどすぐ追いつかないとね。」
暫く私が小走りで木立の中を走っていると前方に探していた少女の姿が見えた。
少女はどうやらブラウンベアーと遭遇してしまった様で両者の間に緊迫した空気が流れている。
「おっ、これはお手並み拝見~」
私はサッと茂みへと身を隠す。
が、すぐに少女はブラウンベアーに魔法で攻撃を仕掛け歯が立たず逃げ出そうとする。
私はたった今、身を隠した茂みから出ると、魔法で弓を錬成し矢をつがえる。
「これは『花の魔術師』マリーの出番のようねっ!」
私はそう呟き、ブラウンベアー目掛けて矢を放つ。
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