第二節:旅は道連れ、あとはおにぎり
さて、私が旅にでてから一時間程がたった頃、まだこのあたりは村のはずれの森ですから何度だって来たことがあります。
でもこの時期に来たことはありませんでした。
なぜなら、そうコイツ、冬眠から目覚めたブラウンベアーがお腹を空かして現れるから近づいちゃダメだったんです。
とにかく何をかくそう私の旅はいきなりの大ピンチでした。
えぇ、私はうかつでした。鼻歌交じりに歩いていると物音が聞こえたので、他の旅人さんかと思い近づいたらこいつだったんです。
私はブラウンベアーと睨みあったままゆっくりと後ずさります。
手には魔力を込めていざという時には反撃できるようにと備えました。
でも私の魔法なんかでこんなやつに立ち向かえる自信なんてちっともありませんでした。一番なのはこのままコイツが立ち去ってくれること。
でも世の中そんなに甘くありません。
ブラウンベアーがゆっくりとこちらに向きを変え私を見据えました。
たまらず私は魔法を唱えます。
「アイススロー!!!」
私の渾身の魔法はブラウンベアーに真っ直ぐ飛んでいくと、慌てて避けようとしたブラウンベアーの肩に当たります。
命中!
だなんて喜んでる場合ではありません。
私の魔法なんてちょっと強めに石を投げた程度。私の魔法が恐れるに足らないと判断してしまったブラウンベアーは一気に襲い掛かってきました。
あぁ、もう為す術なし!
私は両手をあげて逃げ出しました。
「きゃぁぁぁぁぁ、助けてぇぇ!!」
シュッ!
叫んで逃げ出る私の脇を何かが掠めブラウンベアーの手前の地面に突き刺さります。
シュシュシュッ!
ブラウンベアーがひるんだ隙にさらに三本の矢が追い打ちをかけました。
思わぬ反撃を受けたブラウンベアーは驚いて森の中へと消えていきます。
私は緊張が解けて地面にへたり込んでしまいました。
「大丈夫かなー?可愛いお嬢さん♪」
そのおどけた声に反応して振り向くと、そこには私と同い年くらいの女の子が立っていました。
「あ、助けてもらいありがとうございます。」
「へっへー、この花の魔術師マリーちゃんにかかれば朝飯前ね!ほんとに朝ごはんまだなんだけど」
可愛らしく舌をちろっと出すその子は、まるで森の魔女さんといった感じ。
木々や花びらのような装飾に彩られたケーブのような、ローブのような、そのゆったりとした服をまとい頭には魔女のちょっとよれたトンガリ帽子、でも立派なブーツも履いてますしきっと私と同じ旅人さん。
とりあえず私は助けてもらったお礼をしないとと思いました。
「あの、、、朝ごはんまだなのだったら、私のおにぎり分けようか?」
「だいじょーぶ、私もおにぎりもってる!」
マリーと名乗ったその子は腰のポーチからおにぎりを取り出すとこちらにピースをしてきました。
「さ!先に進みましょ、あなたも夜にはスクイーズの街に着きたいでしょ?」
彼女はおにぎりにかじりつきながらすでに歩き始めていました。
私も彼女に置いていかれないように後を追いかけます。
「このおにぎりとても美味しいわっ!この絶妙な塩加減がポイントね!」
とても上機嫌な彼女は私におにぎりの美味しさを力説してくれました。
こう目の前で美味しそうにものを食べられるとこちらもお腹が減ってしまうというものです。
でもここで我慢しなければ私のお昼ご飯がなくなってしまうのでそれは困ります。
「マリーさんも旅をされてるんですか?」
「そうよ。あと私のことはマリーでいいわ、えーと?」
「私はアリス。アリス・ウォーカー」
「ウォーカー!ウォーカーね。ならアリスはまだ旅に出てばかりってとこかな?」
「すごい!なんでわかったの?!」
「なんでって、ウォーカーの家の子ならエールの村出身じゃなくて?それにブラウンベアーの朝ごはんにされそうだったしね。」
随分と歯に衣着せぬものいいです。私はがっくりとうなだれてしまいます。隣のマリーは楽しそうに笑っていました。
でもマリーはすぐむつかしい顔をして言いました。
「でも、それは笑ってばかりもいられないわね。最低限の身を守る手段くらい身につけないと。」
「うぅ、頑張ります、、、」
「ところでアリスはどこまで行くつもり?」
「え?」
「旅よ、旅の目的地!どこか目指してるんじゃないの?」
「まだスクイーズにいくことしか決めてないわ。」
私がそう言うとマリーは私の手をとって目を輝かせて言いました。
「そう!なら暫く私と一緒に旅をしない?旅は仲間がいた方が楽しいわ!その間に色々と魔法を教えてあげる!」
「ほんと!それは願ってもないことだわ、マリー!これからよろしくね!」
「ええ、私こそよろしく、アリス!」
それはなんとも嬉しい申し出でした。
そしてこれが私の初めての旅の仲間、花の魔術師マリーとの出逢いでした。
これからのおにぎりはずっとずっと美味しくなるというものです。
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