優しい嘘とずるい嘘

神保 勇

1章

《1年前》


 ガチャッ! バタンッ

「セッーフ、セーフ!!」

 あと、5秒遅かったら遅刻だった〜

 必須科目を落としたら卒業ができないから危ない危ない。


「はると君」

 吉岡ゼミの吉岡先生が僕に呆れたような口調で言ってきた。

「あなた単位が危ないんだから、時間ギリギリに来るんじゃなくてもっと余裕を持って来れなんですかっ?」


 周りを見渡すと僕以外のゼミ生は席に着いてなにやら談笑している。


「えっ?マジかよ!!」

「みんな早くないか?(笑)」

 僕はなぜみんなが授業に遅れることなく席に着いているのか不思議に思いながら言った。


「おめぇーが遅いんだよ(笑)」

 ゼミ長の『こうき』が笑いながらツッコンでくれた。


「でも、ギリギリ間に合ってるからいいじゃん?」

 僕は自信満々に言った。


「もちろん今日の議題に必要な資料とレジメは印刷済みですよね?」

「は・る・とくん?」

 吉岡先生がニヤニヤしながら聞いてきた。


 その途端心の中で、「あっ、ヤバイ!!」

 今日の議題に必要な資料もレジメもまとめてない。

 それどころか、今日の議題のテーマすら忘れている(笑)


「どうしよう、、、」

 上手くごまかして資料だけすぐに印刷し、レジメは口頭でなんとかやり過ごすか?

 それとも、何もやっていないことを正直に話して謝るか?


 僕が固まっていると、吉岡先生が目で圧をかけてきた!


「も、もちろん用意してますよ(笑)」

 先生の圧に耐えられず、勢いで言ってしまった。


「えっーーー??」

「あの、はるとがちゃんとやってくるとかありえない(笑)何かいいことでもあったの?」

「まさか彼女でもできたっ?(笑)」


 同じゼミの『かな』が目を見開いて珍しい物でも見たかのように驚いている。


「どういう意味だよ。かな〜」

「彼女は常に5・6人はいるって(笑)」

 俺は余裕があるそぶりを出すためにふざけて答えた。


「うわぁっ!! 本当クズ野郎だな(笑)」

「ねっ〜 こんなんが彼氏とかマジありえない。」

「本当!!呆れるよね〜」

 ゼミのみんなから笑いながらディスられる。


「でも、そういうクズな部分がはるとらしいよな(笑)」

 こうきによくわからないフォローをされたところで、僕は自分の発表まで若干の不安がありつつもとりあえず席に着いた。


「はい。では本日の議題について討論していきましょう。ゼミ長お願いします。」

 吉岡先生がの仕切り直したところで、全員が静かになりゼミが始まった。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎ 


『櫻井はると』

 明王大学心理学部臨床心理学科4年


 大学1年生の冬までは、将来心理カウンセラーになることを考えていた。

 しかし、イベントサークルの知り合いからIT関係のインターンシップを紹介され何も考えずにインターンに参加。

 このインターンをきっかけにIT業界に興味を持ち始めた。

 2年の春頃から動画配信サービスを運営、開発しているベンチャー企業で、長期インターンを始め大学に通うことよりも長期インターンに集中していた。

 仕事内容は大変で、バイトとは違い責任が重かったため苦しい時もあったが何よりやりがいを持てていたためとても楽しいと感じた。

(現在も週3日ペースで続けている。)


 その反面大学は休みがちになり1年生の時はフル単だったが、2年・3年と単位を落としまくっていた。

 特に、3年の前期は4単位しか取れなく進級ができないのではないかと先生から言われてしまったほどだ。

 しかし、自分では大学のことは全く気にしていなかった。


 インターンを早めに始めていたおかげで就活は上手くいき大企業から3社の内定を5月の時点でもらっていた。

 4年になって今まで落とした単位を取り戻せばなんとか卒業はできる。

 それに心理カウンセラーになるより1.5倍くらい初任給の高い企業から内定をもらったことで、職は違えどどこかでみんなに勝ったような気分になり安心していた。


「いい感じに上手くいっている。」この時はそう思っていた。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


「はるとくんまた吉岡先生に怒られちゃったね(笑)」

 かなが笑いながら言ってきた。

「そろそろ、吉岡先生に見捨てられるぞ!!次回のゼミはちゃんと準備してこい。」

 ゼミ長のこうきが多少怒り気味に言った。


「はいよ〜。次回はさすがに準備するわっ、吉岡先生のあんな顔初めて見て少しびびった(笑)」

 僕はこうきの注意を気にしつつもいつも通り余裕ぶっていた。


 今日のゼミも結局準備が不十分で、吉岡先生に怒られた。

 正直なところ怒られても卒業さえできればいいと思ってる。

 すでに就職活動は終わってるし、みんなと違って僕は臨床心理士になるために必要な資格を取らないため勉強はしていない。

 だから、卒業まで遊ぶことしか考えてない今日も20時から友達と渋谷で飲み会だ。


「大学なんてめんどくさい・・」


✳︎ ✳︎ ✳︎


講義が全て終わり渋谷へ向かっている。

金曜日の夜渋谷は人が多い。

いや、渋谷はいつも人が多いけれど、金曜日はさらに人が多くいつも以上にガヤガヤしている。

次の日が休みだと、仕事や学校がないためみんな安心感と気の緩みから気分が上がってしまうのだろう。

自分もそうだ。華の金曜日「華金」は大好きだ。


人混みの中を歩きながら、センター街入り口のすぐ近くにあるいつものBARへ入る。

渋谷の若者で知らない人はいない立ち飲みBAR「Heaven」

オシャレな英国風の内装なため、外国人が入りやすいのかお客さんの4割くらいは観光や仕事で日本に来た外国人だ。

値段は1杯300円~とコスパがよため若い人たちから人気のになる理由もわかる。


BARカウンターで大好きなマリブコーラを頼んみ、カウンター席でボーッとしていると入り口の方から「はると〜」とやたら大きい声が聞こえてきた。


「久しぶり、いや1週間ぶりだな(笑)」

「いや〜それにしても金曜日の渋谷はすごいね。」

かずが僕の隣に座った。


『成宮数人』は、2ヶ月前にこのBARで知り合った同い年のナンパ仲間だ。

かずと知り合ってから毎週金曜日の20時「Heaven」で集合し、暇そうにしている女の子たちに話しかけては連絡先を聞きまくっている。

かずは見た目からは想像がつかないほど女好きだ。

黒髪短髪の爽やか系スポーツマンみたいな感じなのに、話す内容はいつも女のことばかりだ。

でも、大学2年、3年と長期インターンに集中していた自分は、勝手に大学生らしい遊びをしてなかったと考え3年生の春休みからとにかく女の子と遊びたいがために彼女のいない友達を誘ってナンパできる場所に行き始めた。

なので、かずみたいな女好きのナンパ仲間は最高だ。


「はると今日こそは女の子の連絡先10人ゲットしたいな(笑)」

「毎回同じこと言ってるけど、いつも半分の5人すらゲットできねーじゃん。」


連絡先をゲットする女の子の目標は毎回10人と2人で決めているが目標が達成したことは今までにない。

達成しない理由は明確で、1回女の子たちを捕まえたらその子たちとずっと話してしまいそもまま近くの大衆居酒屋かクラブに行く流れがほとんどだ。


「よっしゃ!」

「はると今日はなんかいい出会いがある気がする。気合い入れていこうや」

「おう(笑)」

勢いだけはいつもいいのに、いざ声をかけようとすると急にさっきまでの勢いはなくなり結局声をかけに行くのは僕だ。


「言ったな。」

「かずはいつも声をかけに行くふりをして逃げてんじゃねーかよ(笑)」

俺はちょっとからかった。


「ちげーよ。」

「声をかけようとして近づいたら毎回ブスばっかりなんだよ。目が悪いから遠くで見るとみんな同じに見えちまうんだよ。」


なら、メガネをかけるかコンタクトつけろよとツッコミたくなるがツッコミを入れたら入れたでまた変な言い訳をされると面倒なので流す。


「はいはい。」

「とりあえず、酒頼んでこいよ。そのあと今日のナンパについて作戦を練ろう!」


かずがBARカウンターへ向かい一人になったところで、なんだか急に虚しい思いに狩られた。


ナンパして遊ぶのは楽しい大学2年、3年生で遊んでなかった分ハッチャケたい気持ちもある。

それに、上手くいけばワンナイトラブだって夢じゃない。

すでに、ナンパを始めてから3人お持ち帰りしている。


でも、残り少ない学生生活の内にちゃんと彼女を作ってそろそろ落ち着いた方がいいとも思い始めていた。


「ちゃんとした彼女欲しいな。。」と1人で考えていた。

「ちゃんとした」の部分にどんな意味があるのか考えもせずに、、


✳︎ ✳︎ ✳︎


「カンパ〜い。君たち2人?」

「そ、そうですね(笑)」

「Heavenにはよく来るんですか?」

「いえ、初めてきました。。。」

「そーなんだ!! じゃっ、初めて記念に僕らと一緒に飲まない?」

「えぇ!!(笑)まぁっいいですよ。」


なんで、初めての記念に一緒に飲むんだよと言った自分にツッコミながらも今日は最先良く1発目なのに2人組みの女の子を捕まえた。

しかも、2人とも顔はそこそこ可愛くBランクかAマイナスくらいはある。
















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