第3話 3
「やっと思い出してくれたか! 嬉しいね! ワッハッハー!」
マルマ村にアダイブという悪そうな男が現れた。
「アダイブ!? なぜ!? おまえがここに!?」
シューの記憶の奥底にしまい込んだ記憶の断片が、アダイブを見たことによって完全につながる。
「なぜ? 笑わせるなよ。俺様は俺様のモノを取り戻しに来ただけだぜ。」
「おまえのモノ?」
アダイブはシューの持つ深紅の剣を指さす。
「罪の無い人間の血を大量に吸う、血塗られた定めを持つ呪われた剣。不老不死を手に入れる俺様のモノだ。よこせ。」
アダイブの狙いは、シューの持つ深紅の剣だった。
「・・・お前だけは、僕が殺す!」
シューのアダイブを見る目は恨みに満ちて、全身も力が入り震えていた。
再びシューの過去の回想。
「見つけたぞ。天使。」
スイーツ村の魔物を一掃したエクレアとシューの前に異様な雰囲気を醸し出す男が現れる。
「天使の私を見ても驚かない、あなたは何者!?」
「うわあ!? エクレア食べながら喋ってる!?」
「そっちは驚くのかよ!?」
エクレアさんのエクレアを食べながらの問いかけに、異様な雰囲気の男も驚き、シューもツッコむ。
「俺様の名は、アダイブ。名前はアダムとイブから頂いた。俺様の職業は、堕天使狩りだ。」
「堕天使狩り!?」
異様な雰囲気の男はアダイブと名乗り、生業は堕天使狩りをしているという。
「堕天使狩りなら、エクレアさんは、天使だからセーフだね!」
「やったー! エクレア食べ放題!」
自分は堕天使ではないと喜ぶシューとエクレア。
「クッククク!」
アダイブはうかれているシューとエクレアを見て笑う。
「何がおかしい!?」
「何がって? 天使は天界から地上界に来た瞬間、若しくは、俺様が狩れるようになった瞬間から、堕天使なんだよ!」
アダイブの自己中心的サイコパスな考え方である。
「え、なんか言った?」
「祝勝会中なんですけど。」
シューとエクレアはアダイブの話を聞かずに、エクレア食べ放題の魔物を追い払った記念の祝勝会を行っていた。
「おまえたちに緊張感というものはないのか!?」
「それは美味しいのか?」
「エクレア意外に興味なし!」
アダイブの問いかけに、シューとエクレアは真面目に答えない。
「まあ、いい。そっちがその気なら、俺様に黙って殺されるがいい。」
そう言うと、アダイブは両手を広げ何か眩しいものを出した。
「これは神の光と神の火だ。」
片手に神々しい光を、もう片手に神々しい炎を出した。
「これは人間界に遊びに来ていた天使を狩った時に頂いた力だ。だが、俺様が欲しい力は違う。俺が欲しいのは不老不死の力だ。おまえが不老不死の力を持つ天使かどうか、殺して血を啜ってやるぞ!」
アブダビの目的は不老不死になるためだった。そのために何人もの天使を狩ってきた。
「やれやれ、エクレアを食べてバラエティーにしているのに、まったく話の分からないやつだ。」
「まったくだ。こいつ、エクレアさんより頭がおかしいんじゃないか?」
「シューくん、誰の頭が悪いって?」
「ハハハッ。」
なんと、アブダビの相手をしないのはシューとエクレアの作戦であった。諦めて帰ってくれると嬉しかった。
「神の光と炎に焼かれて死ぬがいい!」
アダイブは神の光と炎をシューとエクレアに向かって投げた。
「ギャア!?」
ドーカンっと大きな爆発が起こる。神の光と炎はスイーツ村を火の海に変える。シューは羽の生えたエクレアによって抱えてもらい、空に逃げて無事だった。
「ねえ、エクレアさん。」
アダイブの神の光と炎を避けたシューがエクレアに質問する。
「なに?」
「あいつに勝てる?」
「・・・余裕! 余裕! 本当は天使だった私が正体までばらして戦うんだから、勝利は決まったようなものね! アハアハ!」
少し間があって、無理やり明るい表情を作り引きつった笑いをしながら、勝利宣言をするエクレア。
「難しいんだ・・・。」
シューは子供ながら、堕天使狩りアダイブの危険な香りを嗅ぎわけていた。
「そんなことないよ! 私に任せて! 大丈夫だからね! エク・エク・エクレア。」
シューに心配をさせまいと、エクレアは呪文を唱え始める。
「ピュアリフィケーション!」
そして、雑魚モンスターたちを一掃した魔法でアダイブを浄化して消滅させようと試みる。
「やったー! スゴイや! エクレアさん!」
「どんなもんだい! だてにエクレア食べてないよ!」
エクレアの魔法でアダイブは跡形もなく消え去ったかに見えた。
「これで元通り平和だね!」
「そうよ! 村の復興を名目に、もっと寄付金をかき集めて、エクレアを買いまくるわよ!」
「そこかよ!?」
シューとエクレアは勝利の余韻を楽しんでいた。
「クッククク!」
その時、不気味な笑い声だけが聞こえてくる。
「なんだ!?」
「まさか!?」
シューとエクレアは聞き覚えのある声に嫌な予感を感じる。
「俺様は死者を甦らせる天使の血も飲んだことがある。一度、殺されたぐらいじゃ死ねないんだ。」
アダイブの体が再生されていく。
「まだだよ。」
アダイブが完全に再生した。
「アダイブ!?」
「クソッ!? こいつ不死身かよ!?」
倒したはずのアダイブの復活に、シューとエクレアはどうすることもできなかった。
「いや、さすがの俺様も蘇生に関しては大ダメージを受けている。そこで・・・。」
「ピュアリフィケーション!」
アダイブの話中にエクレアは浄化魔法を放つ。
「ギャア!?」
アダイブは浄化され消え去った。
「本人が大ダメージって言っているんだから、甦る度に打ち込むべし!」
「かっこいい! エクレアさん! 容赦ないぜ!」
「イエーイ! 私のエクレアのおやつタイムは邪魔させないわよ!」
喜ぶシューとエクレアだが、アダイブは再生を始める。
「ちょっと待て! 人が話している時は人の話が終わるまで待つのがルールだろう!? 子供の時に先生から教わらなかったのか!?」
アダイブはシューとエクレアの言動にもっともらしいことを言う。
「ピュアリフィケーション!」
「ギャア!?」
再生を始めたアダイブは、エクレアの魔法で三度、浄化される。
「いくら私がカワイイからって、しつこい男は嫌われるよ。」
「別に可愛くない。」
「なんか言ったか!?」
「言ってません。」
やはりシューから見るとエクレアは強く、最強の存在に思えた。
「エヘへ。」
「変な子ね? まさか!? 私のおやつのエクレアを狙っているのね!?」
「誰が狙うか!?」
シューとエクレアが漫才をしていると、アダイブが再生を開始する。
「リカバリー。」
「むむ!?」
一瞬でアダイブの肉体が再生した。
「スゲー!?」
「感心するな!? これは、どういうこと!?」
「俺様は神を癒す天使の血も吸ったことがあるのだ。ワッハッハー!」
「なんだって!?」
アダイブは堕天使狩りとして、人間界に遊びに来た天使を狩りまくり、いたずらに天使の力を吸収して、でたらめに強くなっていた。
「まさか!?」
その時、エクレアは天使として、アダイブの力について思い出した。
「どうしたの? エクレアさん?」
「こいつの使っている天使スキルの神の光と炎、死者の蘇生、神の癒しは、四大天使のウリエル、ガブリエル、ラファエルのスキル・・・まさか!? まさか!? こいつが天界で指名手配されている、堕天使狩りのアダイブ!?」
「ええ~!? エクレアさん!? 天界情報、今更気づくのかよ!?」
「だって、私、エクレアが好き過ぎて、しばらくの間、天界に帰ってないんだもの。」
「この食いしん坊!」
「エヘッ。」
「可愛く笑って誤魔化すな!」
アダイブは天界でも危険人物として有名人であった。
「ほお~、俺様の名前は天界でも広まっているんだな。ここまで頑張って天使を狩ってきた甲斐があるってもんだぜ。」
アダイブは自分の努力が報われた気がして、涙がこぼれる。
「シュー、ここにきて悪いニュースが二つあるわ。」
「悪いニュース?」
エクレアの表情から笑顔が無くなる。
「一つはアダイブが私より上級の天使のスキルを持っている以上、天使の私ではアダイブに勝つことができないだろうという不安。」
エクレアは自分よりもアダイブの方が格段に強いと悟った。
「二つ目が四大天使のウリエル、ガブリエル、ラファエルのスキルを掠め取っているとすると、四大天使の最後の一人、ミカエルのスキルも手に入れている可能性が高いわ。」
「ミカエル? それってヤバイの?」
「超ヤバイわ! 剣はどうでもいいんだけど、天秤を持っているのがヤバいわ!」
「天秤?」
シューには天秤の意味が分からない。
「その通り! これがミカエルの魂の公正さを計る天秤だ! 神の代行者として、裁きを代行することができるのだ。ワッハッハー!」
アダイブは天秤を手に持って掲げ、高笑いをしている。
「シュー、逃げるわよ!」
「了解!」
シューとエクレアはアダイブが気づかない間に逃げだした。
「あ、いない・・・。」
笑いを止めたアダイブは二人がいないことに気がついた。
「ふう~、逃げれたね。エクレアさん。」
孤児院まで逃げてきたシューとエクレア。
「・・・シュー、私を殺しなさい。」
エクレアは神妙な顔で、シューに自分を殺すように言うのであった。
つづく。
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