第24話 俺、頑張るよ
大河と会った帰りに大量の紙を買って帰った。いつもの机の前に座って端末を開く。その中の小さな女の子の思いを思いながら買って来た紙で紙ひこうきを折り始めた。丁寧に丁寧に。角が立つように。よく飛んでいってくれるように。折り終わった紙ひこうきを満足そうに眺めてから思いよ届いてくれと強く心の中で願った。
ぽぉっと紙ひこうきが光をまとったように見えて俺は窓を開けた。意思を持ったような紙ひこうきは自ら飛んで行くように窓から出て行った。頼りなく揺れながら、だけどしっかりと前に飛んでいく紙ひこうきに、思いよ届けと念じ続けた。
その後も何度も何度も紙ひこうきを折った。俺の部屋の窓からは何個もの紙ひこうきが飛び立った。『いつもありがとう。』に『ごめんなさい。』『大好きだよ。』に『助かってるよ』様々な思いを送る。たくさんの幸せが町のみんなに届くように。
相談員を名乗る人から電話があった。
「野田浩司さんへ思いを届けられている紙ひこうき届け屋さんですよね?」
「え、えぇ。」
浩司には思いを送らないで欲しいと言われることを覚悟していると思わぬことを言われた。
「紙ひこうき届け屋の人には思いを送れないからありがとうを伝えて欲しいって浩司さんが。」
「え…。」
「あなたが送ってくれた思いで頑張る気持ちになれたから別の町に行くけど、仕事を頑張るためだからって伝えたいって。」
浩司へは何度か思いを送っていた。母親の夏代からも、それに今、電話をくれている相談員の方の思いも。浩司からのいい思いはまだ送れないままだった。乱暴な思いは無くなったが、いい思いは届かないまま。それでも…それでも浩司には浩司の心に思いは届いていたんだ。
「そうですか。わざわざありがとうございます。」
電話を切る前に「そういえば」と相談員の人が付け加えた。
「次の町に行ったら母親に電話で思いを伝えるって。紙ひこうきじゃなくて直接言いたいんだって。」
携帯を置いて天を仰ぐ。俺、間違えなかったよな。じいちゃん。俺、頑張るよ。
あとは…千佳にお礼を言わないとな。
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