第22話 今さら
懐かしい中学校。その体育館裏。思い出の場所だ。小倉大河とはクラスが同じで名簿順も前後。中学の頃に一番仲が良かった。途中までは。
裕太とは同じクラスになったことがなくて部活も俺がバスケで裕太はサッカー。学校では接点がなかった。
大河は部活をやっていないどころか不良グループのメンバーだった。ただの名簿の前後。それだけだったが、何故だか気が合って…。
「お前、俺が今日、用事あったらどうするつもりだよ。」
懐かしい声がして顔を上げる。髪を金髪に染めた大河が原付にまたがって笑っていた。
「お前、イメージ通り過ぎ。」
「久人こそ。真面目くん過ぎだろ。」
バイクを隅に置いて俺の隣に座る大河。あの頃と変わらない。ただお互いに制服じゃなくて、背もその頃よりずっと伸びた。でも俺と大河との関係はあの頃に置いてきたまま。
「なぁ。大河。お前、あの紙ひこうき覚えてるか?」
「…まぁな。懐かしいな。今さらその話かよ。」
茶化して笑う大河だけど、ここに来てくれたんだ。大河だって分かってると思う。
「今さらだよな。俺、やっと大河の気持ちが分かるなんてさ。」
「馬鹿。そういうの女に言われたいわ。呼び出しが男とか色気なさ過ぎだろ。」
そこそこ優等生だった俺と不良少年の大河。バスケの試合を控えた頃に体育館裏で煙草の吸い殻が発見される騒ぎがあった。
大河じゃない。大河は不良ぶってるだけで根は真面目な奴だって俺は信じてた。煙草やると背が伸びないんだぜってチビだった大河は笑って言うような奴だった。
「お前、煙草やらないくせに背はそんなに伸びなかったんだな。」
「あの頃よりはすっげー伸びたんだよ。元々でかいお前が同じように伸びたからおかしいだけで。」
煙草は大河じゃない。なのに大河みたいな奴と付き合うなと周りの大人に言われた。俺はそれが嫌で嫌で周りにどう思われようと大河は俺の親友だって…そう思っていたのに。いや。大河もそう思ってくれてたんだよな。あの頃は分からなかっただけで。
「大河、言葉足りな過ぎ。あんなの分かんねーよ。」
「別に分かって欲しくてやってねーし。分からせるためにやってたら俺はどんだけ寂しん坊だって。」
煙草の騒ぎがあってから大河が俺を避けるようになった。俺は思いを送り続けた。
『どうして。』『なんで。』『俺たち親友だよな?』
しばらくして返事みたいな紙ひこうきが届いた。それがあの『仲良くするのやめる。』だった。
懐かしむように大河が口を開く。
「お前さー。真面目なくせに俺みたいなのと仲良くしててさ。もっと上手くやればいいのによって思ってた。」
ポケットから無造作に何かを取り出して俺の前に出した。
「これ、俺の宝物。」
折れ曲がった折り目のついた紙に文字が書かれている。それは自分自身の筆跡。俺の受け取った紙ひこうきの片割れみたいな紙ひこうき。
『俺たち親友だよな?』
涙で滲んで見えなくなる視界を手で覆う。
「宝物ならもっと大切に扱えっての。」
涙で揺れる声はかっこつかなくて肩に回される腕のせいで余計に声が揺れる。
「…今までごめんな。」
「馬鹿。俺がこうなるように仕向けたんだろ。」
大河の声も涙声で何故だか笑えた。
「大河、泣いてんのかよ。」
「久人こそ。」
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