第20話 分かってたよ

 久しぶりに来た公園に千佳は既に来ていた。言いにくいことを指摘してくれた。くらいに思っている千佳は、あんな話をした後から会わなくなったのに普通にしている。俺は千佳に向かっていつものように紙ひこうきを飛ばした。

『俺、ある事があってから紙ひこうきが好きじゃなくなったんだ。』

 久しぶり。の挨拶もしないで、一言も言葉を交わさないまま、紙ひこうきを飛ばした。千佳は平気でも俺はどんな顔をして会えばいいのか分からなかった。

『そうなんだね。何があったの?って聞いてもいい?』

 俺は何がしたいんだ…と自問しながら返事を飛ばす。

『言いたくない。ごめん。』

 考えているような千佳が次に飛ばして来たのは『じゃ聞かない。』それを見て、また飛ばす。

『紙ひこうきが好きじゃなくなって誰とも関わらないようにした。誰からも紙ひこうきが届かないようにって。』

『そっか。うん。誰からも欲しくない時ってあるよね。』

 千佳も何かあったんだろうなと思いつつも聞き返すことはなかった。ただ俺の懺悔のような紙ひこうきは続く。

『そしたら本当に紙ひこうきは届かなくなった。だから煩わしくなくて良かった。』

 高校からは誰とも深く関わらないようにした孤高な奴を気取っていたのかもしれない。それともその頃には父さんが紙ひこうき届け屋をしていたから気を遣って送らないでいてくれたのかもしれない。とにかく思いは届かなくなったし、自分も思いを送らなくなった。

 千佳からの紙ひこうきが足元にひらひらと不時着して拾い上げた。開いて中を確認する。

『私とは関わってくれたよ?』

 ちょっと俺と似てるなって思ったからって自ら関わった。千佳からも関わりを持ってくれて…俺は…。

 今度は頭に思いっきり紙ひこうきが当たって「イテッ」と声が漏れた。千佳は離れたところで笑っている。

『久人くんもそろそろ誰かと関わりたい時期だったんじゃない?私は嬉しかったよ。』

 再び続けて飛んで来た紙ひこうき。

『久人くん寂しそうだったから放っておけなかった。』

 少しずつ心に温かいものが広がっていくのが分かる。千佳は俺にとって、小さい頃の紙ひこうきみたいだ。

『ありがとう。でも俺、いい大人だから大丈夫だよ。』

『大人の方が寂しいの!私は寂しかったよ。久人くんがそこから救い上げてくれた。』

『俺、千佳ちゃんが思ってくれてるみたいなかっこいい奴じゃないよ。』

 千佳が俺に感謝さえしてそうな、言葉を選ばれたくないって突き放した指摘は俺の為に言っただけだ。人と深く関わるのが今さら怖くなって逃げ出したかっただけで…。

 俯いていく頭にまた紙ひこうきが届く。

『本当は久人くんがひどい事を言って私に嫌われたいって思ってたこと分かってたよ。』

 は?

 驚いて顔を上げる前に開いている紙ひこうきの上へもう一つ紙ひこうきが届く。

『だからおあいこ。』

 紙ひこうきを読み終わるとその上に手が差し出された。小さな手。僅かに震えるその手はいつの間にか近くに立っていた千佳のものだった。

「改めてお友達になってください。」

 はっきりと、だけど震えるその声に差し出された手を握った。

「こちらこそ。よろしくお願いします。」

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