教国④

 トビの村から警鐘が鳴り響いた。

 鈍い鐘の音は狂ったように鳴り響き止むことがない。

 ゴブリンスケルトンは村の門を見上げ、か細い手で門を何度も打ち鳴らす。

 しかし力も弱く人間の半分ほどしか背丈がないため、木の柵を越えるどころか門を打ち破ることも出来ずにいた。

 ゴブリンスケルトンは集まった村の男たちに木の棒で殴られ、いとも簡単に骨を粉々に砕かれて動かなくなる。

 全て鎮圧されるまで僅か十数分の時間だ。

 村人には死者は疎か怪我人すらでない。

 遠目で様子を眺めていたグレイブは残念そうに肩を落とす。


「やはり初日では女の捕縛はできませんか。それにしても怪我人すら出ないとは、恐らく救援の知らせが出ることはないでしょうね。明日はゴブリンスケルトンの数を増やすだけでなく、そこら辺に落ちている木の棒でも持たせたら如何ですか? いくら知能がないスケルトンとは言え、素手で門を殴る行為は余りにも疎かです」


 視線の先にいたのは体育座りをしているメアだ。

 相変わらず眠そうにしているが、メアも今回の出来には不満があるのか眠そうな目を更に細めていた。同意するようにコクンと頭を縦に振る。


「それは何よりです。私は明日も見学させてもらいますよ? 玩具おもちゃは早く欲しいですからね」


 メアはもう一度コクンと頷くと、次のスケルトンを用意すべく姿を消した。

 静けさを取り戻した村にグレイブは視線を戻す。丸眼鏡を一度外して丁寧に拭くと、また掛け直して村を見つめた。

 目に映るのは安堵する村人の姿だ。


「悪夢の始まりはこれからですよ。精々我々を楽しませてくださいね」


 グレイブの言葉の通り、この日が悪夢の始まりだった。

 次の日にはゴブリンスケルトンの数は倍になり、その次の日にはゴブリンスケルトンの他にオークスケルトンが二体加わる。

 更に次の日にはオークスケルトンの数が四体に増し、村人はようやく事の大きさに気が付いた。

 スケルトン自体は稀に出現するが、これほど大量のスケルトンが押し寄せることはトビの村始まって以来のことだ。

 更には連日連夜の戦闘で、村人にも少しづつ負傷者が出始めている。唯一の救いは、朝になると何故かスケルトンが村から離れていなくなることだ。

 スケルトンを撃退し、四日目の朝になって初めて救援を知らせるべく村人が動いた。

 数人の男が馬車に乗り村を出立したのを見て、遠くからグレイブがほくそ笑む。


「もう少しスケルトンのレベルを上げてもよさそうですね」


 話しかけた相手はもちろんメアだ。

 何も発せずコクンと頷くメアにグレイブも上機嫌になる。


「それは楽しみです。私も玩具おもちゃの耐久テストの準備に取り掛かりましょう」


 グレイブの口元が歪む。

 それはもう、玩具おもちゃを待ちきれない子供の様に――。




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