3−13/魔王様、これが余の魔王キャッスル
「————わかった。わかってきたよ、ズモカッタ。余とは、魔王とは——魔王キャッスルバトルとは、何なのか」
「それは、無限の、感謝だ。汲めども尽きぬ、終わらぬ愛だ」
積む。
高く。
どこまでも。
歴代の魔王が、スマホの中に、果てなき歴史を——
——栄光の、輝く城を、築いていく。
「666代魔王とは——人間界征服とは。余が、ひとりで、辿り着いた歴史ではない。これもまた——永劫の、魔界の繁栄の、1ページでしか、ないのだな」
「
勝者。
百妖元帥、ズモカッタ。
だが、忠臣は、相手が得たものにこそ、感服を示して礼をする。
「今回の挑戦こそは。人間界征服計画の一旦であると同時に——666代魔王ヴィングラウド陛下、魔王として、その座に就いたばかりの貴方様を、更なる高みへと昇って頂く、試練でもありました」
「そんなことであろうと思ったわ」
ふは、とヴィングラウドは笑う。
四天王からの、魔王を試すような行い。世が世であるならば、即刻、御自らの手で処罰さえ行われる一級の不敬行為に、
彼女は『愉快』と、笑みを浮かべた。
「許す。何故なら、愉快だ。なあ、ズモカッタよ——余は今、とても、とても楽しい。腹の底、胸の奥から、心地良い。ああ——ただ一人で魔王学を修めていたころとは、大違いだ」
「——ヴィングラウド陛下」
「やはり。学ぶならば、楽しみながらが素敵だな。流石は余の忠臣。教師としても、魔界随一ではないか」
「……勿体なき御言葉。このズモカッタ、身に余る光栄」
『さて』とヴィングラウドが受話器を取って、ダイヤルする。今回はその待ち時間にも、余裕の笑みさえ浮かべている。今しがたの試合の、リプレイなんかを見直している。
「おい、百妖元帥よ」
「はっ。ヴィングラウド陛下」
「次は勝つ」
「ええ、是非に。御身に打ち負かされる瞬間、誰よりも私こそが待ち望んでおりますれば」
通話が、繋がった。
「この声が聴こえるか。夜分であるが目を覚ませ。我こそは、666代魔王、ヴィングラウドである」
魔族であれば誰もが背筋を正さずにはいられない、威圧と威厳を備えし命令。
その強大さが問う。
「————以上。これが、
魔王とは、気高きもの。
魔王とは、諦めぬもの。
何よりも。
その心こそ、強くあらねばならぬモノ。
一つの世界を、無数の種族を、束ねた身なれば答えはひとつ、選ぶ他などあるはずもなし。
果たして。
現魔王の、不遜でありながら平伏さえ自ずとしかねないその問いに、受話器の向こうの人物は——
『えぇーっ!? はっははそれムリ、ダァメダメダメ! 落ちるどころじゃ済まない済まない! も、そんな状況になったらさ、ボクなんてどーもなぁんないって! 指先ひとつでポパーンよポパーン! 最初の街を出たばっかりのレベル1勇者にやられるスライムくらいあっけないね保障する! 知らない? 言ってなかった? 昔っからとにかく相性が悪いんだよおんなじ魔王相手には! そういうわけだからさ、ゴメンね! や、何期待されてたかわかんないんだけど、たぶんきっと予想通りのオンボロで! ……わかった? もういい? そんじゃお休み、明日早いんだよ出かけるから! そんじゃねヴィンちゃん! あはは、それにしてもさ、立派に魔王やってるみたいで安心したなあボク! ほーんと、肩の荷下ろせてよかったぁーっ! 持つべきものは、出来た魔王の娘だよねッ!』
——世に言うところの、“失格魔王”。
罵倒、罵声、蔑称、逸話に事欠かぬ——665代目魔王ウィズクロットは、早口でまくし立てて、相手から何か言われる前に通話を切った。
「えー、というわけで、魔王様。今回は、本人から『確かに落ちる』の発言があった為、テレフォン失敗で。665代魔王様は、魔王業界で唯一の【魔王逆特攻】属性の持ち主だったことが、いやはや、まさかこのような場所で生きてくるとは、この百妖元帥の眼をもってしても読めませんでした」
「…………ぱ、」
「誠に、遺憾ではありますが。——今回の“陛下の挑戦”、【魔王キャッスルバトル】レート1700の道、達成失敗——及び、罰ゲーム決定でございます」
「パパのバカぁぁああああぁぁあぁああああッ! だ、だ、だ、だいっきらいッッッッ!」
身内の醜態を晒した666代魔王、あらん限りの泣き叫びに呼応し、画面はグレースケールへ。
下部には黒帯が出現し、スタッフロールが流れ始め、こうしてヴィングラウドの初挑戦・セルフリメイクなゲーム実況動画は、「もう魔王はこりごりじゃーーーー!」の絶叫と共に、幕を閉じたのであった——
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