2−14/魔王様、ザ・ムービー(急) マッシロじゃデキナイこと


 ハイマチ=ヴィン子とハイマチ=グラ子、背中合わせに飛び去った二人を映し、

 映像が突然に消え、音楽も止まる。

 黒一色の背景に映し出される、意味深な言葉の数々。



         【魔王製造儀式】

         【神聖救済計画】

    【なんでもできて、なんにもできない】

      【やられ役とシュジンコウ】

    【うまれてはじめて、ホンキのケンカ】



 そして、


「最初にね。言ったじゃん、モカくん」


 無音のまま、戻ってきた映像は、冒頭と繋がっている。

 町中を埋め尽くすマモノと、空を覆い尽くす天使——

 ——その狭間にある時計塔の先端に立ち、少女は笑う。


 手には、古くさい魔導ゴーレムの模型。

 いつかの日、妹と交わした遠い約束、忘れ得ぬ誓いの証を握り締め、



「余は——どんなに相手が強くても、たとえこっちがやられ役でも! 自分が欲しいものを絶対に諦めたりなんかしない、ミノホドシラズでムチャクチャで、そんで誰よりワガママな! 叶えたい願い全部叶える、そんなマオウになってやる、ってね!!!!」



 叫びと共に、少女の決意と呼応するように——

 ——流れ出す、主題歌。



『♪もっとコントンに!』

『♪もっとマックロに!』

『♪そんな子だってイイじゃない!』



 粘つく闇が、ヴィン子を包む。

 その目元が睨み、画面に映し出された先は、


 ——巨大化し、意思の感じられない虚ろな眼差しで、地に突如現れ溢れた醜悪な怪物から人々が逃げ惑う街に向かって剣を振り下ろそうとしている、かつて自分のライバルであった少女。



「今行くよ、グランジェル——ううん、グラ子。でもね、これは助けになんていくんじゃない。そんなのマオウのシゴトじゃない」


 全身を覆う闇の混沌が、手に持つ模型を解体する。

 それは無に戻したのではなく、取り込んだ……混じり合い、理解したのだ。


 その証拠に、彼女が纏っていく衣装は、これまでのものとは違う。

 肩に、体に、手に足に、頭に装着されるパーツは、ギアは、模型を基にした装具。

 新たなる、欲望の姿。



「そうだ。今日こそ、あんたをぶっ倒して——余のコブンにしてやるんだからっ!」



 そして。

 理想と、幻想と、妄想と、空想と——ありふれた少女の欲望という【夢】を纏った少女が今、譲れぬ願いを胸に、決意を翼に飛んでいく。

 主題歌のクライマックス、最も盛り上がる部分——少女の意志を後押しする、その言葉に載せながら。



『♪きっとカンタンで!』

『♪ほんのちょっとのユウキ!』

『♪マッシロじゃデキナイこと——やりにいこう!』



「魔王少女★ヴィンデモン、Ver.666ケルベロスッ! ムカつくやつを、片っ端からぶん殴りに行くッ!!!!」 



 世の終わる混沌の中、引っ込み思案だった少女の口から、何者にも怯えはしない宣言が放たれ。

 黒塗りになった画面に、白の文字が浮かび上がった。



≪魔王少女★ヴィンデモン -Dear My Angel-  Coming Soon...≫

≪ハイマチ=ヴィン子・ハイマチ=グラ子役、666代魔王ヴィンデモンのマジッターをチェックしながら続報を待とう!≫



 ムービーはそこで終わり、最早事実は明らかだった。

 先の、疑惑の画像。

 そして、この動画。

 今や疑う余地も無い。



 全ては——特殊魔術撮影効果モリモリな、実写特撮映画のプロモーションであったのだ。


 

 運営も介入しかける炎上寸前のギリギリさだが、裏を返せばそれだけ話題性の確保には成功したと言えよう。

 多少反則気味な流れだとしても、注目を集めた上で披露された動画はそれを許せる見事な出来だった。


 特に、一人二役を演じる主演少女の変身時、年齢や体格まで見事に変えてみせた幻術に代表される場面に応じた様々な特殊効果撮影のウラには相当なレベルの魔術スタッフが関わり、さぞ手間をかけて作られたものだろうと推測され、『完成には相当な時間を要するだろうが楽しみに待つ』という期待の声は投稿についたブレイブいいねの多さに現れる。


【魔王少女★ヴィンデモン】は先の画像の話題に続きマジッタートレンドランキングのなんと四位にまで上がり、最も多かった反応、アカウントに飛ばされたリプライの種類は、これもまた、言うまでもなく——



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