2−06/魔王様、巨大化して人間界の大空に浮かぶ
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魔王様の集中力たるや、あらゆる光を飲み込む闇のように深い。
諸々の作業に没頭・悪戦苦闘して、気付けばあっという間にお昼。
食堂でズモカッタや配下のみんなとの昼食兼作戦会議を終えて玉座の間に帰ってくれば、ちょっと見ないうちに先程のマジット——ヴィンデモン模型画像——に、随分とリプが増えていた。
やばいのが。
【@666vin なんすかこれ新番告知っすか 売れそうにないっすね がんばれスチームくん5号】
【@666vin 絶好調なところ申し訳ないんですが工業都市ザッハザッハを守護する四神獣をご存じない? 棲家を追われて七年目のドルイドおねえさん】
【@666vin いかにもやられ役。そこらへんのパペットに負けそう ラムラ@全国自動人形研究会員】
【@666vin あまり外見だけ強そうにするなよ。弱く見えるぞ 偽形魂ファントムアイゼン】
【@666vin 久々に見たこういうの。先々代エルフ時代のセンスで、今の子たちにはまあ受けないかな。2点。 万々板金】
——朝であれば。
クソリプに打ちのめされ、力作の模型を破壊未遂するほどダメージ負ってた魔王なら、この波状攻撃をもって「見事だ人類……」と塵になっていたかもしれない。
だが今は違う!
「くっくっく……おーおー威勢良くほざいとるわ阿呆共が。精々ひと時の攻勢、偽りの優位を夢のように楽しむがよい——急転直下の絶望が忍び寄っておるとも知らずにな! あとそれはそれとしてデザイン面に関するガチっぽいダメ出しは心に来るやつだからやめてください! 事実だと思ったら何を言ってもいいってわけじゃないんですよ!」
泣きそうな魔王もいるんですよ! と涙目で叫ぶ魔王。
「ええい! これだから人類とか正義とか善意とかいうやつは! いいか! 不出来なものに不出来だと指摘するのは誰でも言える、大切なのはその事実をどう改善に持っていくかでしょ! この世には直球のキツい言い方じゃなくてそれとなくやんわり諭すふうな導きで伸びる子もいるの! 主に余とか! 心と心が繋がるってことはさあ、もっとこう、その人に合った、決して一律ではない対応を模索し、相手を尊重してこそであって、それこそがコミュニケーションの正しき作法というものじゃない!? なあズモカッタ!?」
「
乱れ無き礼をするズモカッタ。
さすが曖昧の達人、普段から何かとヴィングラウドの素行に対して【見なかったことにしよう!】&【あえてこのままにしておこう!】を実践している忠臣は説得力が違う。
同意というバフを得て、魔王様も「であろ!?」と立ち直る。
「特出するものは目につく、良く育ったマンドラゴラは抜かれる……これはどうやら魔界も人間界も変わらぬ無情らしいが、ふふ、しかし残念であったな人類よ……。だって、余、そういうの慣れとるんで! やっぱ余ほどの逸材になると何かと試練が付きまとうというか、普通に生きとるだけでいつのまにか鍛えられちゃってるっていうの!? そういう星の下に産まれた、支配者の宿命を持つ運命の子!? っかー! ごめんねー! 選ばれちゃってごめんなさいねー! サンキュー混沌、ありがと因果! 伸びすぎちゃってどうしよう!」
『その調子で
彼はこほんと咳払いをひとつして、
「では。その鍛練の成果、今こそ見せつけてやりましょう、魔王様。知らしめるのです、愚昧なる人類が、一時の快楽に溺れたが故に——どのような怪物を生み出してしまったのかを」
背を押す四天王。
応える魔王のサムズアップ。
開かれたマジッター、魔王ヴィングラウドのアカウント、書き込む文章は【終わりの始まり(ジエンドオブグローリー)】、添付する画像を選ぶ指は興奮から震えており、誇らしげに、大いなる決意でそれをタップした。
「決着だ、忌々しき人類。貴様らは実に、歯応えのある獲物であったよ」
勝利宣言、噛み締める感慨(五時間振り二度目)。
最早全ての屈辱も、憎悪も、悔恨すらも不問に処す。
決着は今ここについた。
開幕する新世界に、旧時代の軋轢を持ち込むこそ無粋——魔王はその寛大さを以て、人類の絶望を迎え入れる。
「そしてようこそ、服従の子ら。世界と共に新生せよ——かつての醜き賢しさを捨て、666代魔王ヴィングラウドの愛を受けるに相応しき、魔と悪と混沌に生きる、闇の獣となるがよい!」
腕を組み、牙を剥き出し、吼える。
今、ついに、魔王の悪意、人類征服の決定的な一撃が、広大なるネットの海に放たれる。
「ふふふふふふ……ふぁーーーーっはははははははははははっ!」
玉座の間に轟く哄笑。亜空間を割く雷鳴。
スクリーンに映し出される、魔王ヴィングラウドアカウント、たった今の発言。
それに添付された画像こそ——
——人間界で最も発展している中央王都を手中にせんとするように。
上空、黒雲を背負いながら邪悪な顔で両腕を広げるヴィングラウドの上半身が映った、できたてホヤホヤの合成写真であった。
一言で言うと、
パない。
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