第6話 綺麗なお姉さんはイイ人です。
その女性は、どうやら妖怪ではないらしい。
「ああ、煩くしたね。最近胸のあたりが苦しくて、薬を買いに行ったのだけれど、今は切らしていると……ゴホッ!」
胸のあたりというと心臓だろうか。女を観察すると少し赤ら顔で動機が激しく、息切れもしていた。
「帰って寝ていようと思ったのに、苦しくて歩けなく……ゴホゴホッ!!」
「あ、ゴメンね! もう喋らなくていいから!」
ヒカリは念のため、女の腕を取ってこっそり魔力の流れを確認する。
「魔力の道」を流れる魔力は当然、大地の上に生きる人間にも影響する。人間は無意識に魔力を受け流しているのだ。けれど女は魔力が身体の中心あたりで淀んでいた。
――なんで淀んでいるんだろう?
原因がなんであれ、魔力が流れずに長く身体に留まると身体を蝕む。そうなる前に、魔力の巡りを良くしなければならない。
声をかけてしまった以上、見捨てると後悔しそうだ。
魔女の薬は一揃い荷物に詰めており、その中にこの症状に合う薬があったはず。
ヒカリは背負い袋の中をゴソゴソと探し、すぐに目当ての瓶を取り出す。
「お姉さん、この薬が効くと思うよ」
薬瓶を見せられた女は顔を顰める。
「薬屋め、ないって言ったのに、ゴホッ!」
「喋っちゃ駄目だって! これはこの街で買ったわけじゃないの。さあ、一口だけ飲んで」
魔女の薬はほんの少量で効果がある。ヒカリは薬の瓶を女の口元へ持っていき、一口飲ませる。
「……!」
すると女はしばらく経つと呼吸が静かになり、顔色も普通のものに戻っていく。
「なんだいこれは!? すごくよく効く薬だねぇ!」
女が上げた驚きの声は、先程までの苦しそうな声ではない、張りのあるものだった。
「効いたのなら、よかった」
なにせ薬の試飲は自分と師匠のみという、安全確認が圧倒的に足らない代物。
飲ませても効果がない可能性もあったのだから、ヒカリもホッと胸を撫でおろした。
「この薬、もう私が口を付けてしまったことだし、残りも売ってくれないかい!?」
前のめりに行ってくる女に、ヒカリは思わず後ずさる。
「いいけど……」
値段をどうしようかと考えるヒカリに、女は薬屋に渡すつもりだったお金を持たせてきた。
「……えっと、多くない?」
ヒカリが師匠に習ったお金の話だと、金貨は大金のはず。その金貨を二枚握らされたのだ。
「……いいんだよ!」
にっこり笑った女が言うには、薬屋に吹っ掛けられてもいいように、お金を多めに持ってきていたという。
「じゃあ、ありがとうございます。一度に飲む量はさっきと同じ、一口ですよ。飲み過ぎは良くないですし、効きが早くなることもありませんから」
「わかった、ちゃんと覚えておく」
ヒカリの説明に頷いた女は、薬瓶を大事そうに撫でると元気よく立ち上がる。
「じゃあアタシは戻るよ、ホントにありがとうね!」
そう言って大きく手を振りながら、足取り軽く去って行った。
「ふわ~……」
ヒカリは女を見送った後も、思いがけずお金を手に入れたことで無言で固まっていた。これを手に入れるため、昨日あれだけ苦労したというのに。
「そっか、薬を売ればよかったんだ」
師匠にも魔女の薬を売って生活費を稼げと言われていたのに、換金の時に薬の事が思い浮かばなかった。
――でも、今からまた換金に行くのもなぁ……。
昨日の冷たい態度を思い出すと、またチャレンジする気が萎える。それによそ者だと思って足元を見られるかもしれない。なにせヒカリは物の相場がわからない。
「いっそ、自分で売る?」
それにさっきの女は、薬が切れているらしいと言っていた。もしや商売のチャンスではなかろうか。ちょっと薬屋を覗きに行って、どのくらいの金額設定なのかを調べてみるのはどうだろう。
――よし、そうしてみよう!
今後の生活への展望が開けたところで、まずすべきは食料の買い出しだ。ヒカリはどこで買い物するものかと再び街をフラフラ歩き、やがて商店街を探し当てた。
だが生活の拠点が手に入るまで、荷物は常に持ち歩かねばならない。なので今日はパンと干し肉を買い、野菜などの嵩張る物は諦める。
「あとはどこかで薬を作るぞ!」
買い物を終えたヒカリは、一人握りこぶしを作る。
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