面白くなりたいと思った日
笑福心経の一説
旬見洒落(シュンケンシャレ)
……ネタの作り方
今旬な耳残りなフレーズをネタにする
相方が共演する中学生の女の子と話をしている
『福ちゃんのお父さんとお母さんてって仲悪いんですか?
ラジオの話って本当ですか?』
『絶対、内緒やで……』
相方は人見知りやけど
子供とはすぐに仲良くなる
ちなみに『福ちゃん』は相方の愛称
『お母さにん言いにくいことあるやろ
そんな時はこう言うねんで
OKグーグル
相方の貯金額教えて』
スマホを見つつも、こちらをチラチラ見ている
『35億……ってなんでやねん』
仕方ないので付き合った
『あり得るから怖いわ』
『ないわ』
よく笑うお笑い好きの女の子だった
目が見えない子だった
26時間テレビの番組で
この女の子と一緒に俺はマラソンを走る
『OKグーグル
お母さんに終わったらケーキが食べたいって伝えて』
何てかわいい、お願いや
お母さんが、笑顔で答えている
俺と女の子が走って
相方が伴走車に乗って応援する
その応援する姿が、ビーチパラソルとトロピカルジュースという南国風のいで立ちで、必死に走る2人との、ギャップが笑いにつながるというものである
しかし、走者は盲目で、この場合少しデリケートであった
この笑いを成立させるために必要な要素は
彼女が『福ちゃん』を罵倒するような元気のよさにかかっている
構成を考えた作家は成立すると判断し、
お笑い好きの彼女はそれに答えれた
『私も、傘のついたジュース飲んでみたい―――』
走りながら叫ぶ様子に、中継を眺める会場で笑いが起きた
俺も、中学生の女の子らしい、いいコメントだと思った
何より、元気があって良かった
今、ゴール地点で急いでトロピカルジュースが準備されている事だろう
小さいパラソルも付いていないといけない
10kmを1時間30分程度かけて走った
何度も、中継されたのでウケもよかったんだと思う
ゴールの瞬間は盛り上がった
この長丁場の番組の中で名シーンの一つになる
彼女のキャラクターのおかげだ
トロピカルジュースを飲みながら彼女にコメントを求められる
『走ってる途中、トロピカルジュース飲んでる福ちゃんが見えた気がします
絶対走り切ってやろうと思いました』
すごいコメントするなと思った
俺も伴走者としてコメントしないといけなかったが
少し間が空いた
とっさに相方がいいコメントをしてくれるんで助かった
『おっちゃん、サクちゃんの中ではイケメンでありたいわ
サクちゃんが元気やから、テレビ見てる人みんな好きになったで
これからも俺らのラジオきいてな
帰ったらみんなに『まんなかランド』の『福ちゃん』は
めっちゃええ人やったて言ううんやで』
『まんなかランド』は俺らのコンビ名で
『サクちゃん』はこの女の子の名前
俺も少し遅れたが、彼女の明るい性格と走りを称えるコメントをして
コーナーは終わった
この女の子は先天的な病気で目がない
こういう病気は難しい
もしかしたら、大人になる過程で別の難しい病気がまた出てくるかもしれん
そんなリスクの中で人生を過ごしている
俺らのファンやと言うてくれる
不安もある、不自由もあるはずやが、明るく生きている
楽屋で相方が語る
『お笑いは、笑わしてお金もらえる
それだけやないと思ってる
みんなをもっと笑わしたい』
マジかっこええなと思った
『そんなん、わかっとるわ』
この不器用な会話が、
俺らの彼女へ回答であった
彼女に伝えたかった、伝えれんかった
将来の不安な気持ちもあるかもしれん
そんな怖い事や考える必要ない
俺らの漫才とラジオ聞いて笑ってたらええねん
この日、もっと面白くなりたいと思った
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