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 ロージュ村から少し離れた森に、1人の少女が暮らしていました。

 少女は、1,000年以上もこの森に住んでいるのだとか。

 大樹の根元に空いた空洞の中で、動物達と一緒に暮らしています。


 少女は、森の動物達に歌を聴いてもらうのが大好きです。

 動物達も少女の歌が大好きで、いつしかお礼に果物を持ってくるようになりました。

 木陰で涼みながら、みんなで一緒に食べる果物はとても美味しいです。


 この森には、少女以外の人間は住んでいません。

 人間の食糧になる様な大きな動物も住んで居ないので、狩人達もこの森には来ないのです。

 しかし、果物や山菜は豊富に採れるため、毎日朝早くにロージュ村に住む1人のお爺さんが、果物や山菜を採りに訪れます。


 この森は、いつも少女の歌声に満ちた、静かな森でした。


 お爺さんは、いつも収穫した山菜の一部を少女に分け与えていました。

 それは、早朝の清んだ空気と共に聴こえてくる、少女の謡へのお礼でした。


 ある日、少女がいつもの場所で謡っていると、お爺さんが1人の少年を連れて来ました。

 少女は、きっとこの少年が『いつか、お爺さんの代わりに山菜を採りに来るのかもしれない』と思いました。

 恥ずかしそうに名前を告げる少年の姿に、少女は“愛らしい”と感じ、森を案内してあげました。


 仲の良い鳥達と口笛を奏でながら果物を収穫していると、慌てた様子で1羽の小鳥がやってきました。

『数日後、貴女を探してシュネージュ村の兵が来るらしい。私達も森から追い出されるかもしれない』

 それを聞いた少女は、動物達に別れを告げて森を出ることにしました。


 ロージュ村に行くと、シュネージュ村の兵達が少女の姿を見て駆け寄ります。

 少女は、兵達に『シュネージュ村に行くから森には何もしないで欲しい』と伝えました。


 兵達と歩いていると、白い花がたくさん入っている籠を持った村人達とすれ違いました。

 花の名前はわかりませんでしたが、甘い蜜の香りが少女の不安を和らげてくれました。

 村に着き大通りを歩いていると、コソコソと少女を見ながら村人達はなにか話しています。

 鳥たちの囀りと違い、人間の囁きはこんなにも不快な気持ちになるものなのかと…。

 あまり、歓迎されている感じが伝わって来ることもなく、館に着くと奥の一室に連れて行かれまし。

 その部屋は、ぬいぐるみがいくつか飾ってあり花瓶には一輪の紅い花が活けてありました。

 しばらくして、世話係が服を持ってきた時に『あなたは本当に“雨乞い”ができるの?』と質問してきました。

 それを聞いた少女は、世話係の言っている意味が全然わかりませんでした。

 詳しく聞くと、どうやら少女の住む森が緑豊かなのは、少女の歌の力だと思われているみたいでした。

 少女には、勿論そんな力はありません。

 ただ、謡うことが好きなだけなのに…。


 シュネージュ村に来てからは、広場に行って自由に謡わせてくれました。

 言葉を使わない少女の謡を、村人達は気に入ってくれたみたいで、何回か謡っていると、子供達が近くに座って手拍子をしてくれる様になったのです。

 その頃には、少女がどんな目的でこの村に来たのかも気にならなくなっていたみたいです。


 シュネージュ村には、たくさんの白い花を売るお店が並び賑わっていたのですが、鳥が1羽も見当たりませんでした。

 話し相手もおらず、だんだんと寂しさを感じた少女は、『森に帰りたい』と村長に伝えました。

 しかし少女は森どころか、ロージュ村に帰る事すら許してもらえませんでした。

 悲しんだ少女は、村長の命令に背き歌う事を拒み続けました。

 元々、少女には雨を降らす力など無かったのですから…。


 そんなある日、少女は館の住人から1枚の詩を渡されます。

「自信作の詩が書けたんだ。この詩で謡って欲しい」

 普段、言葉を使わないで謡う少女にとっては初めての事です。

 渡された詩を読んで、浮かんだメロディを添えて謡います。

 森に居た頃とは違って、広場ではたくさんの人が聴いてくれるのが、なんだか少し嬉しくも感じました。

 広場から館に戻ると、また“囁き”が聴こえてしまったのです。

 先程の歌詞には暗号が組み込まれていて、近隣の村が奇襲をかけるタイミングを知らせるものだったのだと。

 少女が謡った曲を作詞したのは、敵対している村のスパイだったのです。

 まサkそんな事になっているnんて知らなかった少女は、そnお日枕を涙d濡らしました。

 村に住m人達もあんなに喜んでくれたのに、その人達をウラギる事になってsまった。

 ぼんやりと重たい頭で窓の外を見上げると、懐かしい鳥の姿を見つけました。

 窓の外を飛ぶ鳥を眺めていると、なんだかまるで自分が鳥籠の中にいるみたいで…。

 森に居た時以上に、なんだかその姿が自由に見えました。


「なんで偽物の花に水を与えなくちゃいけないのかしらね」

 世話係が部屋の掃除をしに来てくれた時、溜息と共に言葉がこぼれました。

 この部屋に少女が来てから数日が経ったというのに、確かに花が変色する様子はありません。

『よくできた偽物だな』

 と、紅い花に触れようとした時。

 館の外が一気に騒がしくなりました。

 ドアのほうをフr返ると、もう誰の姿もaりません。

 森で暮らしていt少女は、人間が動物を狩ることh知っていても、人間同士n争いは初めてです。

 どうsたらイイノかわkらず、窓のカーテンをしめmあsいt...


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 チnそめられた少女h、少年に気g付き顔をあげmした。

「やっぱり、私を迎えに来てくれるのは貴方だったのですね」

 少女が少年に触れると、小鳥の姿は見えなくなっていました。

 少女はロージュ村ではなく森に帰りたいと願い、動物たちのもとへ戻ることにしました。

 『これでまた、昔の生活に戻れる』

 そんな風に思っていましたが、少しづつ変化がおとずれます。

 森に少年が姿を見せなくなったのです。

 せっかく森に戻ったのに、まるでシュネージュ村にいた時とあまり変わりません。

 何もせずに空を見上げる時間が増えました。

 少女の謳が聴けなくなって動物たちも“寂しさ”を感じたのでしょう。


 何回日が登っても、少年は少女の元へ会いに来てくれません。

 まるで、少女の事など忘れてしまったかのように…。

 ある日、少女は仲の良い小鳥達から自分の噂を耳にします。

 小鳥達は『ロージュ村の達は、昔こそ少女の事を“森の精”だなんて崇めていたのに、今では“魔女”だと蔑んでいるらしい』なんて言うのです。

 少女は小鳥達の話を聞いて、最近森へ来なくなってしまった少年の事を想いました。

 メロディを奏でた少女の口からは、ため息ばかりがこぼれる様になりました。

 そんな少女の姿をみかねて、1羽の小鳥が囁きました。


「貴女も小鳥になるといい。ずっと謡っていられるし、詩にどんな想いや意味を込めたとしても、人間に伝わる事は無いのだから」


 その言葉を聴いた少女は、願いを込めて謡いました。

 声を出すことも、謡うことも臆病になって息苦しい。

 陸にいるのに、まるで窒息してしまうみたいに…。

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