寂しさと温かさ

「お疲れ様」


 演奏会が終わり、晴れ晴れとした顔のカミーユが私達を称える。


「とても良い演奏だった」


 カミーユにそう言ってもらえることが誇らしい。私達もみんな笑顔。その顔には充実感が滲んでいる。


「それじゃあ今日は解散だ」


 手早く片付けて解散だ。ざわつく楽団員の中から、私は一番会いたい人を探す。


「シエラ」


 その人は人混みの中を真っ直ぐに私の方へ歩いてきた。


「アルフレッド」


 あの情熱的なソロの後、アルフレッドの顔を見るのは何だか気恥ずかしい。アルフレッドのソロからも確かな愛情が伝わってきたから。それが私に向けてのものだと、今ならば自信を持って言える。


 アルフレッドも照れたように頭を掻いた。


「帰るか」

「うん」


 私達は二人で並んで劇場を後にした。




 外の空気はひんやりとしている。空を見上げると星がいくつも瞬いていた。前世ではこんなたくさんの星を見る機会はほとんどなかったな。


 シエラ、今日の演奏を聴いてくれただろうか。シエラが立ちたかったはずの舞台に私が立った。そのことを喜んでくれているといいけれど。


「緊張はしなかったみたいだな」


 アルフレッドに声をかけられて、空から隣へと視線を移す。


「うん! アルフレッド、ちゃんと私のソロ聴いてくれた?」

「……ああ」

「どうだった!?」

「まあ……悪くはなかったんじゃないか」


 良かったってこと、なのかな? アルフレッドはわかりにくいけど、なかなか褒めてくれる人ではないし。


「アルフレッドのソロもすっごく良かったよ! 私、ちょっとびっくりしちゃった!」

「びっくりって……いつも聴いてるだろ」

「ううん! 全然違ったよ! なんて言ったらいいかな……」


 音楽の感想を言葉にするのは難しい。私はアルフレッドのソロを思い出す。情熱的で思い出しただけで顔が熱くなってしまいそうなあの演奏。


「アルフレッドはいつも上手いんだけど、今日のソロはそれに感情がプラスされた感じ!」

「ふーん? いつもは感情が乗ってないって?」

「そ、そうじゃなくて! いつもよりすごかったの! 本当に!」


 語彙力の限界がやってきて、私はとにかく褒める。うーっ、この感動が伝わればいいのに!


「じゃあそういうことにしておいてやるよ」


 ようやく納得してくれたみたい。アルフレッドは得意気な顔に戻ってくれた。


「楽しかったなぁ」


 演奏会の後はいつもこうだ。今日に向けてずっと頑張ってきて、それが終わった。とても楽しくて、もうあの曲達にしばらく会えないかと思うと少し寂しい。そんな気持ちを味わうのも久しぶりのことだった。


「気を抜くのはまだ早いぞ。お前はクラリネットの首席奏者を目指すんだろ?」


 アルフレッドに挑発するように言われる。


「もちろん! 明日からまた練習、頑張るぞー!」


 そう言って拳を突き上げた。そうしたら少しだけ寂しさが紛れた気がするから、アルフレッドがいてくれて本当に良かったと思う。


 私はアルフレッドの腕にすがりつくように腕を絡めてみる。アルフレッドは特に拒否することもなく、逆にしっかりと手を繋いでくれた。


 一人じゃないこと。それがすごく嬉しい。


「大好きっ」


 恥ずかしいから小さな声でそう言って、もう片方の手もアルフレッドの腕に絡める。そうしたら、アルフレッドの逆側の手が私の顎に伸びてきて、上を向かされた。そのままアルフレッドに優しく口付けられて、私は蕩けるような甘い味に支配されるのだった。

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