嫉妬(6)


 目を合わせようとしない一凛を見て依吹は「まじかよ」とため息をついた。


「一凛冷静になれよ、ハルはゴリラなんだ、人じゃないんだ」


「分かってるそんなの、わたしを誰だと思ってるのよ」


「だからこそ心配してるんだよ。研究に没頭しずぎて一般常識を忘れてしまってるんじゃないかと思ってさ」


 依吹はグラスに入った水を飲み干すとまた注ぎ足した。


「依吹も飲めば?」


「やだね、長くなりそうだから」


「とか言ってほんとうは飲めないんでしょ」


 依吹はそれには答えず、代わりにやれやれといった呆れた顔で一凛を見た。


「そういえばこの前颯太さんに会った。病院でときどき会うんでしょ」


「会うっていうか見かけるだけだよ、別に何もしゃべんねぇし」


 颯太はまだ子どもはいないが結婚していることを話すと、依吹はふぅんと、そのことについては知らなさそうだった。


 颯太に食事に誘われたと言うと「不倫予備軍だな」とけっと笑った。


「依吹は結婚しないの?」


 思わずそんな言葉が口をついて出た。


 依吹の返事は速攻ではっきりしていた。


「しない」


 なんで?と訊くのさえも憚られるような強い否定だった。


 とっさに自分の遺伝子を残したくないからと言った依吹の言葉を思い出した。


「不倫したくないから結婚はしない、なんてね」


 深刻な顔をした一凛を和ませようとするように依吹は笑いながら言った。


 一凛もつられて微笑んだが、頬が強ばっているのが自分でも分かった。


 依吹は手をあげて店員を呼ぶとウーロン杯濃いめを注文した。


 そんなもの飲まないと一凛が言うと、俺が飲むんだよと伊吹は応えた。


 チェーン店の餃子屋のあと居酒屋とスペインバルと最後は大きなスクリーンに海が映し出されている暗い店で強いカクテルを飲んだ。


 依吹は飲めないどころか強かった。




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