かいてい。博士の罪
「グレートファントム2号と呼ばれる巨大ロボットが、街を破壊し尽しています。これは大問題です。巨大ロボット協会は、正義の巨大ロボが奪われ、悪事に利用されたことに遺憾を示し、ロボを開発した研究所の博士に損害賠償十億円を請求、協会の除名処分を行い、今後巨大ロボの製造を禁止にします」
法廷に立つ原告側の弁護士、鴨志田が、告訴状を読み上げた。この小さな裁判所で行われていたのは、前代未聞な裁判。被告側の兜弁護士は博士に近づき、裁判長に対し、冷たい視線を向けた。
「意義あり。裁判長。防犯システムが雑だったことは本人も認めていますが、賠償金十億円というのは高すぎます。謎の力によって、グレートファントム2号の破壊活動による被害は、一週間で元通りになっています。よって、十億円という賠償金は高すぎると言えます」
「意義あり。街の復興費用としての賠償金ではありません。正義の巨大ロボットが悪に利用されたという事実から、民衆は正義のロボットに不信感を抱くと思われます。賠償金は失われた信頼の値段です」
被告と原告、二人の弁護士の論争に、被告の博士は圧倒されていた。傍聴席には、巨大ロボット協会上層部の偉そうな男たちが座っている。
「もう一度言わせていただきますが、賠償金十億円というのは高額です。ここは、あのロボを開発した博士にしかできない、グレートファントム2号を一撃で倒すような高性能ロボを開発して、問題の奪われた2号機を破壊する。これだけで十分かと思われます」
兜弁護士の主張に対し、鴨志田は鼻で笑った。
「お言葉ですが、そんなことができると思いますか? 一度も巨大ロボを出撃させた実績がないあの研究所で、そんなことができるはずがない。よって、賠償金十億円を支払うしかないのです」
「いいえ。あの博士はスゴイ人なんです。この映像を見てください」
弁護士がスクリーンに映した映像を見た検事は、弁護士が何を考えているのか理解できなかった。そこに映されたのは、グレートファントム2号が、街を破壊し尽す光景。
黒いボディの巨大ロボットが画面上を縦横無尽に駆け回り、そこら中にあるビルをバズーカ砲で粉砕していく。爆発による轟音は、法廷を震わせた。
「資料の二ページをご覧ください。記録によれば、グレートファントム2号はこの2週間で高層ビル50棟、近隣の森林や山々などを破壊しています。そのバズーカ砲の威力はスゴイそうです。つまり、このグレートファントム2号を開発した博士なら、それと互角かそれ以上の巨大ロボを開発できるというわけです。このまま協会を除名にするにはもったいない人材です」
弁護士の声を聞いた博士は、胸を張る。
「私はスゴイ博士なのだ」
「静粛に」
裁判長の注意の後、兜弁護士は深呼吸した。「次に資料の三ページをご覧ください。こちらに過去発生した巨大ロボット二号機盗難事件の概要をまとめてみました。同一犯による犯行ではありませんが、事件は世界規模。性格に言えば宇宙規模で起きていますが、いずれも民事裁判や示談交渉が行われていませんでした」
「示談交渉なんて言葉を聞いたのは、牛乳プリン事件以来だ」
ボソッと呟く博士の声をスルーして、原告側の弁護士は裁判長に視線を向けた。
「意義あり。裁判長。それは、今回のケースが前代未聞であることを示しているに過ぎず、賠償金を払わなくてもよいという根拠にはなりません」
「静粛に。それでは、審議を始めます」
エキサイトする論争を一言で終わらせた裁判長。そして、十分後、裁判長は判決文を読み上げた。
「主文。被告人に賠償金三億円を請求する」
「次のニュースです。グレートファントム2号が強奪され、街を破壊した事件に関する民事裁判が行われました。今回の裁判は、巨大ロボット協会が原告になり、グレートファントム2号を開発した博士に対し賠償金を支払うよう訴えたもの……」
テレビから流れてきたニュースを聞いていた小さな男の子は、頬を緩める。
「グレートファントム2号、カッコイイ。だから、助けてやろう」
この男子、東ムサシは、そう呟き朝食を食べる父親の顔をジッと見つめた。
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