ついげき。コロボットの逆襲

「遂にできた!」

 開発室の中で博士が喜びの声を挙げた。丁度その時、博士を探していたケンが開発室に入ってくる。

「博士。こんな所にいたんですか?」

「ケン君。丁度良かった。遂に完成したんだ」

「グレートファントムの新兵器ですか?」

 ケンの疑問を聞き、博士は首を横に振る。

「違う。できたと言うのは、コイツのことだ」

 博士が指差す机の上には、サッカーボールと同じ大きさの白い球体。それが突然跳ね上がる。

『ハカセ。オハイオ』

 球体は機械的な声を出しながら、博士に向かい転がる。

「コイツがこの研究所のマスコットロボット。その名は、コロボットだ」

 マスコットロボットと聞き、ケンは呆れ顔になった。

「マスコットロボットなんて開発する暇があったら、グレートファントム10号を出動させる方法を考えましょうよ」

「ケン君。これはスポンサーの意向でもあるんだ。こういうカワイイマスコットロボットがいた方が、研究所の宣伝になる。おまけに融資も増えていき、研究も捗る。まさに一石二鳥じゃないか!」

「いくら宣伝が上手くいっても、巨大ロボットが動かないと意味がありません」

 日常茶判事な論争に、コロボットが口を挟む。

『ケン。オハイオ』

 マスコットロボットの存在意義を体現した対応だった。コロボットの一言だけで論争が一瞬で終わる。この不思議な感覚にケンは戸惑いを隠せない。それとは裏腹に、怒っていたはずのケンの顔から笑みがこぼれる。

「博士。オハイオって何ですか?」

「知らないのかね? アメリカオハイオ州」

「それは知っていますが、何でコロボットはオハイオって言うんですか?」

「何個か言葉を教えさせた時に入力ミスをしたらしい。この研究所を出入りしている私とケン君。娘のハルカ。スポンサーのムサシ君。おはようと間違えたオハイオなど合計10の単語を教えさせた」

「なるほど。分かりました。ところで……」

「何かね?」

「コロボットはどこですか?」

 いつの間にかコロボットは、開発室から消えていた。


 研究所近くにある街の公園のブランコに座り、黒タイツを着た男が溜息を吐く。

「結局石板の手がかりはなかったな」

 独り言を呟く悪の組織の下っ端構成員の気分は最悪だ。この街に派遣され、悪魔大将軍復活に必要な石板を見つけて来いというのが今回のミッション。

 指令が達成できなかったら、クロ大佐に処刑されてしまうかもしれない。

 このまま悪の組織を辞めようかと考えていた時、彼の前で白い球体が止まった。

 コロボットは地面の上で跳ねる。

『ダンスナウ。ダンスナウ』

 突然現れたロボットの言葉を聞き、下っ端構成員は思わず苦笑いした。

「お前、俺を励まそうとしているのか?」

 そう尋ねると、コロボットは跳ねながら答える。

『ロックオン』

 答えとは思えない言葉に、下っ端構成員は首を捻った。しばらく考えた彼は、ロボットの真意に気が付く。

「そうか。ロックオン。この街に照準を合わせろ。つまり、この街を壊せってことか? じゃあ、コイツを使ってやる」

 胸を張った彼は、どこかから缶ジュースを取り出した。それを開け、ゴクゴクと飲む。

「甘ったるいが力がみなぎってくるぜ。クロ大佐から受け取った、巨大化ドリンク。何かあったらこれを飲めって……」

 ペラペラと話す下っ端構成員は、サッカーボール程の大きさのロボットの異変に気が付いた。

 コロボットは明るく光っている。

『フラッシュ。フラッシュ』

 直後、マスコットロボットの口からビーム砲が発射され、巨大化しかけた末端構成員は、消滅した。


 研究所ではいつものように悪の組織の破壊活動を知らせるサイレンが鳴っていた。

 オペレーター室には、長髪ストレートの少女、ハルカの姿。

 ハルカはいつもとは違う展開に、目を丸くした。

「怪獣反応が突然消滅しました。繰り返します。怪獣反応が突然消滅しました」


 そのアナウンスを聞き、ケンは壁を殴る。

「今度こそグレートファントム10号を出動させようと思ったのに」

 愚痴を呟くケンの前を、白い球体が転がる。それは行方不明のコロボットだった。

「こんなところにいたのか? コロボット」

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