つうしん。アイドルオペレーター
アイドルが研究所で一日オペレーター体験と聞き、ケンは耳を疑った。そんな彼は博士の前で机を強く叩く。
「博士。なんでこんな時に一日オペレーター体験なんて開催するんですか? そんな暇があったらグレートファントム10号のことを考えましょう」
「ケン君。怒らないでくれ。スポンサーの意向だ。逆らったらお金が貰えなくなるじゃないか! カワイイアイドルの指導をしつつ、研究所の宣伝をする。まさに一石二鳥だな」
「オペレーターのことなら、ハルカさんが指導するんじゃないのですか? 同じ女性ですから」
「娘のハルカは友達と旅行に出かけて、今晩帰ってくる。一日オペレーター体験が終わる頃には戻らない。ということで、指導は私が行う」
博士は鼻の下を伸ばした。その姿を見てケンは呆れ溜息を吐いた。
そんな時、ケンと博士の前に、丸坊主の活発そうな男の子が現れた。
「ケン。スゴイだろう。今日は人気アイドルの山田桃子ちゃんを呼んだぜ」
偉そうな態度でケンに褒めてもらいたがる男の子、東ムサシ。そんな彼も人気アイドルのことを考え、顔を赤くしていた。
一方でアイドルのことを聞いてもケンは無反応。彼は芸能人に興味がない。
三分後、清楚な白いワンピースを着た少女がオペレーター室に姿を現した。黒い短髪で上下両方とも厚い唇、細い眉毛といった正統派の可愛らしいアイドルの周りを、カメラを構えた報道関係者が囲んでいた。
カメラのフラッシュと共に現れた女の子が元気よく挨拶する。
「山田桃子です。よろしくお願いします」
ただ挨拶しただけにも関わらず、博士とムサシは興奮して鼻の下を伸ばした。
「よろしく。私は研究所の博士だ。オペレーターの指導を担当する」
自己紹介の後、博士が右手を伸ばし握手を求めた。それを見たムサシが駄々をこねる。
「博士。ズルい。桃子ちゃんと握手なんて。僕もやったことないのに」
「ムサシ君。それが大人という物だ」
カッコつけて胸を張る博士の姿を見たケンと山田桃子、報道関係者達は全員苦笑いする。
その後、博士はオペレーターの衣装を山田桃子に渡した。そして、数分後、衣装に着替えて来たアイドルが戻ってきて、一日オペレーター体験が開始された。
「早速だが、オペレーター体験を行う。今回は練習用の原稿を読んでもらう。緊急感が伝わるように頼む」
そう説明しながら、博士は一枚の紙を山田桃子に渡す。真剣な人気アイドルの顔付きを、見学していたムサシとケン、報道関係者たちが温かく見守っている。
一呼吸置き、耳元に付けたマイクに向けて山田桃子が声を発する。
「緊急警報。緊急警報。街に怪獣が現れました。グレートファントム10号を発進させてください。私は博士を応援しています」
「ちょっと待った!」
オペレーターのセリフを聞き、ケンは突然声を荒げた。少し遅れてピッという音が漏れ、博士は慌てる。
「ケン君。いきなり大声を出さないでくれないか」
「私は博士を応援していますっていうセリフは必要ありません。山口桃子さんに何を言わせているんですか?」
博士は下手な口笛を吹きながら、右手を白衣のポケットに突っ込む。その仕草を怪しんだムサシは、博士の右手を掴んだ。
「博士。録音、ズルい」
「ムサシ君。それが大人という物だ」
笑う博士の元に、黒い服を着た二人組の大男が近づいた。その男達は同時に咳払いして、博士の両腕を掴む。
「無断で録音しようとした罪を重い。ちょっと来てもらおうか」
博士は山口桃子のマネージャーに連行された。
「離せ。桃子ちゃん。助けてくれ」
博士の叫び声が、オペレーター室のドアが閉じられるまで響く。
指導するはずだった博士が退場し、報道関係者がザワつき始める。その時、山田桃子はマイクに話しかけた。
「無断録音。ダメ絶対」
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