ごうだつ。グレートファントム2号

「本当にこんな研究所に石板があるのか?」

「こんな侵入やりたい放題な施設、聞いたことない」

 研究所に侵入した全身黒タイツの下っ端戦闘員二人組は、互いの顔を見合わせながら呟いた。二人の近くでは小さな男の子が楽しそうに跳ねていた。

 現在、侵入者がいるのは、巨大ロボットの格納庫。そこにある黒色のボディの巨大ロボットを見て、男の子は目を輝かせた。

「カッコイイ! あれにのってあそびたい!」

「ラッキー様。遊んでいる暇はありません。早く石板を探さないと」

 下っ端戦闘員はラッキーと呼ばれる幼児の言動に呆れた。侵入作戦決行当日の朝、指令を聞きつけた幹部の一人、ラッキーは面白そうだという興味本位でついてきた。

「したっぱのクセにナマイキだ」

 部下に指図され、ラッキーは激怒した。そして、彼は周囲の静止を押し切り、巨大ロボットのコクピットに乗った。目の前には幾つかの真っ黒なモニターが設置されていた。操縦席の椅子のひじ掛けの部分に、電卓のような端末が埋め込まれている。電源スイッチのようなものは設置されていない。

 ラッキーは適当にひじ掛けの端末をいじってみた。すると、目の前のモニターに格納庫の様子が映った。

 適当に数字を入力すると、黒い巨大ロボットが一歩を踏み出す。

「スゴイ! そとであそんでくる」

 巨大ロボットはスムーズに動き始め、格納庫の壁を破壊しながら、街に向かい始めた。同時に危険を知らせるアラーム音が鳴り響く。それを聞いた下っ端戦闘員たちは、逃げ出した。


 鳴り止まないアラーム音の中、巨大ロボットのパイロットのケンは研究所の廊下を走る。そんな時、博士は冷や汗を掻きながら、ケンを呼び止めた。

「ケン君。グレートファントム2号が盗まれたらしい」

 博士は何かを焦っているような顔付きだった。

「2号機なんて10号機と比べたら弱いでしょう。ドンドン強くなるように開発してきたってメカニックさんも言っていました。10号機さえ動けば絶対勝ちます」

 ケンのポジティブな発言を聞いても、博士は深刻な顔付きのまま。それどころか、ケンの発言を否定した。

「これまで一度も出撃できていないからなんていう理由じゃない。グレートファントム2号は危険なんだ。戦うことになれば、街が滅びる。他の研究所の巨大ロボットも勝てるかどうか分からない」

「何ですって!」

「バズーカ砲による砲撃一発で、一つの山を吹っ飛ばすことができる。それだけじゃなくて、一度に百発のミサイル弾を放ち、全体攻撃も可能。加えて圧倒的な機動力。グレートファントムシリーズの最高傑作だよ」

「なんでそんな高性能な巨大ロボットが開発されているのに、グレートファントム10号なんて開発したんですか?」

「動かし方のメモを無くしたからだ。起動させるためには、6桁の数字を入力する必要がある。いいかね。6桁の数字は当然ながら10万通りある。1パターン入力するのに5秒ほどかかると仮定すると約139時間。睡眠やら食事やらをする時間を含めると、約6日かかる。これ以上は話が長くなるため、またの機会にするが、あんなのが街で暴れたら、スポンサーからお金が貰えなくなる!」


 博士の恐れは現実になった。同じ頃、強奪されたグレートファントム2号は街に進行し、ビルをミサイルで破壊した。

 音を立て崩れようとしているビルを見て、操縦席に座る子供は無邪気に喜んだ。

「街を破壊する奴は許さない!」

 赤マントを風になびかせた巨大ロボットが街を破壊する者に向け金色に光る剣を向けた。

 操縦席に座る男は内心で途惑っている。これまで現れたのは怪獣だけだった。だが、目の前で街を破壊しているのは、巨大ロボット。

 敵はこれまで戦ってきた悪魔帝国ではないのか?

 巨大ロボットのパイロットが悩んでいた時、カラスが茜色に染まった空に飛んでいく。その鳴き声を聞いたラッキーは慌て始める。

「カラスがないたら、かえるじかん♪」

 グレートファントム2号が夕暮れの空に向かい飛んでいった。 

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