ふっかつ。悪魔大将軍

 黒雲が山を包み込んだ。巨大ロボットや怪獣が収納されたコンテナの中で、コツコツという靴音が響く。

 歩いているのは緑色の軍服を着た無精髭の男。煙草を咥え、鞭を手にしているこの男の元に全身黒タイツの下っ端戦闘員が手帳を開きながら近寄った。

「クロ大佐。数分後、邪悪エネルギーが溜まります」

「随分早いな。まだ二週間しか経過していないが。もうすぐ完全復活するんだな。悪魔大将軍様が」

「いいえ。完全復活ではありません。現状、悪魔大将軍様の封印が解除できるのは、1分間だけです。気分次第ですが、1分もあれば首都崩壊くらいできるでしょう」

 下っ端の話を聞き、クロ大佐は鞭で床を叩く。

「バカ者。それを早く言え。だが、首都には多くのロボット研究所がある。あそこを崩壊させることができれば、邪魔な巨大ロボットも壊れ、邪悪エネルギー集めも楽になる」

「はい。封印の間に向かいましょう」


 下っ端戦闘員に促され、クロ大佐は封印の間に向かう。その場所は、真っ赤なカーペットが敷かれていた。灯りの蝋燭の炎が不気味に揺れる。縦長の部屋の中央で、二分割され左側が欠けた石板が正方形の透明なケースに入れられた状態で飾られている。ケースは時々不気味な色で点滅していた。

 ガラスケースの前には王様が座りそうな豪華な椅子が設置されていた。


 数秒後、雷がケースの真上に落ちた。直後、頑丈なケースが粉々に砕かれ、王座に一つの影が座る。

 骸骨のような真っ白な顔に、数十本の鋭い角を生やした細身の男。真っ赤なマントを着用している人物の前で、クロ大佐は膝を床に付けた。

「悪魔大将軍様」

「クロ大佐。封印を解除するには、右側が欠けた石板を探し、石板を完成させる必要があると考えているようだな。それに加えて、膨大な邪悪エネルギーが必要。残念だが、その答えは50点だ」

 足を組み部下を見下す悪魔大将軍に対し、クロ大佐は首を捻った。

「他に何が必要なのですか?」

「我を封印した者の末裔が守っている宝玉を破壊しない限り、我は完全に蘇らない」

「はい。今後は末裔と欠けた石板探しを行います」

 敬語で話す部下の声を聞きながら、悪魔大将軍は欠伸をする。

「もう一眠りしようかと思う。次は、完全復活していたら嬉しいな」

「悪魔大将軍様。一時的に封印が解除されたんです。ここは完全復活の日も近いって世間にアピールしてみましょう」

 今まで黙っていた下っ端戦闘員の提案を聞き、悪魔大将軍は肩を鳴らした。

「下っ端のクセに面白い事を提案するなぁ。ここは今後の行動を楽にしてやろう」

「首都崩壊!」

 提案した下っ端戦闘員が思わず呟いた。すると、ドッと他の戦闘員たちが封印の間に押し寄せ、リズムに乗ったコールを始めた。

「首都崩壊、首都崩壊、あっそっれ♪」


 クロ大佐は浮かれている部下たちに腹を立て、鞭で床を強く叩いた。

「静かにしろ! 悪魔大将軍様の気が散る」

 注意しながらクロ大佐は王座に座る悪魔大将軍の顔を見た。悪魔大将軍の瞳は赤く光っていた。


 丁度その頃、とある研究所で博士が大声で叫んだ。それを聞きつけたケンが研究室のドアを勢いよく開ける。

「博士。どうしたんですか?」

「ケン君。グレートファントム10号のコントローラーが何の前触れもなく壊れた」



「これで楽になったな」

 悪魔大将軍は眠たそうに瞼を擦りながら呟く、それを聞き、クロ大佐が尋ねる。

「悪魔大将軍様。首都を一瞬の内に崩壊させたのですか?」

「そんなことはしない。グレートファントム10号のコントローラーを破壊した」

「グレートファントム10号。聞いたことありませんね。そんな物を壊すより、首都を崩壊させた方が楽になると思いますが」

「これだから素人は困る。完全復活するためには必要なことだった。兎に角、グレートファントム10号を開発した研究所を突き止めろ。それが完全復活の……」

 言い切るよりも早く、悪魔大将軍の体が消え、王の座椅子の上に石板が転がった。

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