ピクニック




◆アトル視点◆




「なんだありゃ」


 崖の下を覗くと遠くの川岸で繰り返しスパークが起きている。

 目を凝らすと、人影が二つあるのが見えた。


「あれは、イニド姉弟ですね」


 隣に立ったクロがその姿を確認した。


「フレカ=イニドとピルシカ=イニドです。一人一人だと大したこと無いんですが、二人でⅠ群です」

「大した事ないって、これでか?」


 二人が魔法を放つたび爆音が鳴り響いている。


「これくらいの魔法使いなら沢山いますよ」


 そうなのか。

 俺にとったら魔法使い自体あまりみたことないんだけど



「彼らは二人で四元素の魔法を混成させるという特技をもっているんです」



 四元素魔法とは「火・風・水・土」の四種類の魔法の事らしい。



「混成させたらどうなるんだ?」

「消滅魔法になります」


 当たれば消滅するので防御不可能、絶対回避が必要となるとのこと


「籠城戦では最強です」


 城は逃げないから、打ちたい放題で更地にされたところもあるらしい。想像するとゾッとする


「なんでそんな二人がここにいるんだ?」


 そしてなんで二人で争っているんだ?

 フレカとピルシカは敵を倒しているわけではなくお互いに魔法を放っているのだ。


「そこまではわからないですね」


 そりゃそうか


「巻き込まれたくないので、放っておきましょう」




 そういって草むらに広げられた敷物の上に腰をおろした。自分もそれに続く。

 キクが籠の中からお弁当を取り出していく。


 最近のキクは米の鬼だ。米をもらって以来一切パンを焼かなくなった。


 俺としてはまたパンが食べたいのだが。

 あのパンの焼くにおいで目が覚める幸せな朝が恋しい


 そんなことを思いながらご飯を三角ににぎったおむすびを手にしてパクリと食べる。


「お」


 美味い。優しい塩味がきいていて食欲が増す。

 いつも食べているただのご飯なのに塩で握ってあるだけで何個も食べれる。


 まあ、ご飯も美味いから構わないんだけどな。

 キクの料理にはハズレがない。キクの手にかかればなんでも美味しいものにかわる。


 器用だよなあとリンゴの皮をむくキクの細くて白い手を眺める。

 出来上がったリンゴウサギを持ってにっこり笑う姿、最高。


 頼むからサバイバルナイフを眺めながらうっとりするな。


「どこかでお祭りでもやっとるのかの」


 キクは次のウサギをつくりながらそうもらした。


 実際は魔法を打ち合っている音なのだが。



 これが、太鼓の音に聞こえるのか。


 キクは、今日も元気に正常運転のようだ。



 心地よい風を感じながら三人で草むらに横になる。



 先程まで聞こえていた魔法の音も収まり、今はもう聞こえない


 今日は夕方までここで羽を伸ばす予定である。



 ひと眠りし終わったキクは少し離れた所に座って野イチゴを摘み始めた。


 その姿を横になったまま眺める。


 入れ物かわりにスカートを持ち上げて摘んでいく姿はとても愛らしい。

 これぞ女の子って感じがする。



「元気になって良かったですね」



 クロの言葉にうなずく。



 キクが部屋にこもった時はどうしようかと思った。



 あの時俺は、泣き声が聞こえてくるそのドアを開けることができずに部屋の前で立ち尽くしていた。


 結局クロに助けを求めて走ったのだった。



「ニホンが存在しない」か。



 知ったらまた泣くかな……




 キクがスカートを持ち上げ膝小僧を見せながらこちらへかけてくる。


 何かいいものでも見つけたのか満面の笑顔だ。


 クロとの約束通り、この事実は心にしまっておこう。

 わざわざこの笑顔を曇らせる必要はない。




「沢山摘んだな」


 そばに来たキクのスカートには山盛りの野イチゴが入っていた。

「頑張ったじゃろ?」と得意げに笑う。


 こんなに大量に何に使うか知らないがキクのことだからきっとまた美味しいものに変わるのだろう。


 お弁当を入れてきた籠に全部詰めたキクが振り返る。



「すごいものみつけたんじゃ!」


 目を輝かせながら、腕を引っ張ってくる。


「ああ?もーなんだよメンドクサイナー」と悪態をついて見せたが「いいからいいから」とグイグイ引っ張ってくる。


 そんなに俺に見て欲しいのか

 全く仕方ないなあ


 悦に入りながらキクについていく。



「こっちじゃ!こっちを見てみい」


 キクが頬を染めながら手招きし指をさす。


 どれどれ


 キクがこんなに嬉しそうに発見報告するものとはいったい何だろうと、ワクワクしながらキクの指さす方をのぞき込む



 そこには大量の動物のうんこがあった。




「……」




 ……俺は、どういう反応を返すのが正解だ?



「こんなに沢山!しかも、まだ新しい!」と興奮気味に体を揺すられる。



「おう」と適当に返事をしておいた。



 なんでコイツはこんなきれいな景色の中、汚いうんこを眺めてるんだ。




 永遠に野イチゴを摘んでてくれないだろうか。




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